俺の花
目が覚めたら、俺は知らない女と一体化していた。
俺は自分の体がいつもより高い温度にあるのを感じた。あと、妙な閉塞感も。この感じはなんだろう。妙だ。いつもとは違う感覚に苛立って、俺は煙草を探した。ない。見つからなくて余計に腹が立った。
女が口を開いてこう言った。
「おはよう。わたし花津マリ。よろしくね」
花津、マリ。花津マリ。頭の中で復唱してみる。どこかできいた響きだが、どこできいたのかまでは思い出せなかった。……なんだか耳が痛い。
耳が痛いのはこいつのせいかもしれない。妙な閉塞感は寝床の中で色々試してみたがどうしても除くことができなくて、俺はその空回りにやけに苛立つ。どれもそれもこれも全部、俺にくっついて離れないこの花津とかいうののせいなのだろう。
……責任を押しつけてみた。
別にちっとも気は晴れなかった。それがまた腹立たしかった。
思ったのは「今夜は眠れなさそうだ」という意味のことで、そう思うとまた少し苛立った。
俺は溜め息をついて煙草を探した。探し途中でぴたりと手を止め、ひときわ大きな溜息を一つつく。やってらんねえ。煙草を探していた腕がサイドテーブルの上を乱暴に薙いだ。
くしゃくしゃの軽い箱がふっとぶ感触を知って、それがカーペットの上に落下する音を聞いて、それでも何も感じなかった時、俺はやっと気づいた。
探していたのは煙草じゃなくてちり紙だった。
おしまい