出航前。
ひとまず、だ。この状況を整理してみよう。
俺は仰向けに寝ていて、目の前には天井、左は壁、右も壁、そして背面には床。そして真っ暗。
……これだけでどうやって整理すれば良いんだろう。
ああ、そうだ、こうなるまでの経緯も……だめだ、思い出せない。
コンビニで雑誌を立ち読みしていたところまでは覚えている。だが、その後が思い出せない。
目覚めたときには既にこの状況だった。
一体なんだと言うんだろうか、これは。
そして、なんだか辺りが揺れ始めた気がする。
持ち上げられたような気もする。
むむ、これはズバリ、俺は箱に入れられ、運ばれているのだろう!
よっし、なんか一歩前進した気がする。
冷静に感覚して考えれば案外情報は浮かんでくる。
……耳を澄ますと、『ザザァ……』といった波の音のようなのも聞こえる。
体が急に傾く、坂を進んでいるようだ。
少し立つとまた体が地面と平行になる。
そして、持ち上げられたときとは違う、大きくゆっくりとした揺れを感じ始める。
多分、船に乗ったのだ。
……まて、これってもしや、『誘拐』やら『拉致』の類、なのだろうか?
あわてて俺は声を荒げて叫ぶ。
「おい、出してくれっ、出せっ!」
ついでに俺を囲んでいる板も叩き、体も揺らす。
動きが止まる。
ガチャリ、と目の前で音がして、いきなり視界が開ける。
パイプ類がびっしり張り付いた天井しか見えないが、暗闇からは進歩した。
「おい、ここはどこなんだ!出せ!」
「……まあ、落ち着けよ、ほら、アメちゃんでも舐めとけ」
今度は反応があったが、返答ではなかった。
しかも、アメを口元によこされた。
つい、反射的にそれを口に入れてしまう俺も俺だが。
「おい、質問に答えろ!そして出せ!」
アメを転がしながらまた叫ぶ。
「おいおい、食べながら喋るのはマナー違反だ、ママに怒られるぞ?」
「はあ!?、そんなことはどうでもッ……」
目の前の視界が、またも閉ざされる。ガチャリ、という音も一緒だ。
「だせっ!おい、出っ」
唐突に激しい睡魔がやってき、言葉が途中で途切れてしまった。
どんどん意識がかすれていく。
これは、おかしい……まさか……このアメは……。
気づき、アメを吐き出したときには遅かった。
「おやすみ」、そう聞こえた気がした。