kahokiss.
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―――なんのために、私は生きてるの?
果歩は、ベッドに寝転がり天井を見上げながらふと思った。
いや、小さく口にしていたかもしれない。
けれども横で眠る男の寝息にかき消されて、冷たい部屋にこだましなかった。
わたしは…死にたいわけではないのよね、と果歩は自身に問いかける。
自ら自分を殺めるほど強くも弱くなかったし、憎くも愛してもなかった。
そもそも、人は否が応でもいつか必ず死ぬのだ。その流れを自ら断ち切るなんて自然の原理に反してる、と果歩は考えていた。
だから、私は自殺なんてしない、と。
ただ、問題があるとすれば死にたいという意思がなければ、生きたいとも思わないことだった。
ー…なんのために生きるかなんて…、
ふと、男の声が蘇ってくる。横でスヤスヤ眠るこの男の声が。優しい優しい声が。
「なんのために生きるかなんて、人それぞれ違うんだ。
仕事のため、趣味のため、愛する人のため、誰かとの約束のため。みんな違ってるから、だから自分は何の為に…なんて不安になるのかもしれないね。
大丈夫、
果歩ちゃんも焦らないでそれを一生かけて見つければいいさ。
あぁそうだ、生きる意味を見つけるため生きるってのもいいかもしれないね。」
生のための生…。
答えなんかない問いだなんて承知の上だった。どんな答えだろうとも期待してなかった。そうと知っていても聞いてみたくなったのだ。自分以外の考えを。
まだまだ答えは見つかりそうにないな、と果歩は息を吐く。
でも、それでいいなかもしれない、とも思った。
とりあえず、
と果歩は小さく呟く。今度は確かに自分の意思で呟いた。
「とりあえず、わたしがいますることは寝ることだな」
果歩は幸せそうに眠る男にキスを落とし、温まった布団に潜り込んだ。
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