あなたのことを、
****
~~~♪アナタノコトヲ深ク愛セルカシラ?~
コンポから流れるメロディに耳を傾ける。この曲、私だいすき。居心地のいい声に今にも眠ってしまいそう。
ピンポーン。
眠気を吹き飛ばすかのように、部屋のチャイムが勢いよく鳴った。
来たわね。
今日は恋人との七回目の記念日。あの日から七年が経ち、私たちは25歳になった。そして記念日を私のアパートで祝いに、彼がやってきた合図に違いなかった。
ピンポーン
「いま出ますよ~」
ドアを開けると、愛しい愛しいあの人が笑顔で立っていた。七年前、下駄箱で話しかけてくれた笑顔のまんまで。
「ハッピーアニバーサリー!」
彼はそう言って小さな箱を差し出した。箱の中身は、7年間の思い出に相当するくらい煌めいている指輪だった。もしかして、そう感じた刹那、彼の目が私を捉え、そのまま自然と顔が近付く。
ちゅっ。
優しいキスのあと、次のステップへ進む言葉を彼は言った。「ずっと、ずっと一緒にいよう」
驚く私を横目にCDがまた一から再生された。
~~~♪アナタノコトヲ深ク愛セルカシラ?~
…ううん、違う、と私は私自身に言った。
あなたのことも、と言って彼の指輪を受け取り、あなたのことも、と言ってお腹をさする。
あなたのことも、
あなたのことも、
深く愛していくからね。
私は泣いた。
彼も泣いた。
小さい命だけが、まだ泣かずに深い海底で眠っていた。
*****
※引用
spitz『冷たい頬』