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第二十四・五話:聖域の陥落、母儀の密約

深夜の王宮、第一王女エレオノーラの私室。

 そこには、ラインハルト王子と、聖女クラリスの姿があった。

「……クラリス。この国に必要なのは、見えぬ神への祈りではない。眼前に君臨する『生ける神』への絶対的な服従よ」

 エレオノーラは、ラインハルトの肩に優しく手を置き、陶酔したような瞳で彼を見つめた。彼女の胎には、かつて宿り、そして再び宿るべきラインハルトの魂の記憶が刻まれている。

「……はい、エレオノーラ様。……私の祈りも、この身も、すべては殿下のために」

 クラリスは、ラインハルトの足元に跪き、彼が手にした「免罪符」に自らの血で署名をした。教会の不正を隠蔽する代わりに、彼女は教区のすべてをラインハルトの宣撫工作せんぶこうさくに捧げることを誓ったのだ。

「いい子ね、クラリス。……殿下、この娘の『聖なる口』を使って、民衆に貴方の偉大さを説かせましょう。……私が法を整え、この娘が心を支配する。……貴方の覇道に、もはや死角はございません」

 エレオノーラはラインハルトを背後から抱きしめ、その耳元で熱い吐息を漏らす。

 母としての慈愛と、一人の女としての執着。そして、聖女としての矜持を捨てて床に伏すクラリス。

「……ふん。女たちの情念が、これほどまでに甘美な毒になるとはな」

 ラインハルトは、エレオノーラの手に自らの手を重ね、同時に足元で縋るクラリスの顎を掬い上げた。

 王女が「表」から、聖女が「内」から、そしてラインハルトがその中心ですべてを掌握する。

 それは、一年前のあどけなさを脱ぎ捨てた、真の支配者による「いやらしいほど完璧な」内政の完成であった。

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