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サニーと魔王の生きる道  作者: 橋本洋一


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4/4

サニーとダンテの勝負

 魔王の屋敷の近くには広い修練場があって、そこでダンテと戦うようにと魔王に言われた。

 体力は回復していないけど、弱音を吐いている場合じゃない。

 あたしは愛用の弓の弦を付ける――


「おいおい。一対一で弓矢を使うのか?」


 長い剣をぶんぶん振り回しながらダンテは呆れている。

 戦いを知らない小娘と思っているみたい。


「剣や槍は性に合わないのよ」

「……ま、お前がいいならいいだけどよ」


 本当にどうでもいいらしく、素振りを終えて修練場の真ん中に立つ。

 そばで見ていたセーリアが「ダンテ兄さんは強いです」と忠告してきた。


「魔王軍の三番隊副長を務めているのですから。もしも勝てなさそうなら降参してください」

「三番隊副長がどれだけ強いか分からないけど、一つ言っておくわ」


 不安そうな顔のセーリアに、かつて父さんの教えを言う。


「相手が強いからって戦わない理由にはならないのよ。勝負はいつだって、分からないんだから」


 ちなみに魔王はあたしたちから離れて見ている。

 壁にもたれて興味深そうにしていた。

 見世物じゃないのよ、と言いたかったけど今は集中しなくちゃ。


「さっさと始めようぜ。腹が空いてるしよ」

「……準備は整ったわよ」


 ダンテと向かい合うように修練場の真ん中に立った。

 勝負の合図はセーリアが出してくれるようで「いいですね?」と念を押す。


「相手を気絶させるか参ったと言うか、ですからね」

「ああ。それでいいぜ」

「あたしもよ」


 セーリアは深呼吸して――手を大きく挙げた。


「それでは始め!」


 振り下ろした手と同時に、あたしは後ろに飛びのいた。

 ダンテは長剣を使うし、あたしは弓矢を使うので当然の動きだった。

 だから一直線に迫ってくると思っていた――


「やっぱりな。そう来ると思ったよ」


 ダンテは宙を斬るように剣を振った――何をする気? と思った瞬間、斬撃があたしを襲った!


「う、ぐふう!?」


 斬られた!?

 距離があるのになんで!?

 どたん! と仰向けに倒れるあたし。


「飛ぶ斬撃ってやつだ。ま、勝負ありだな」


 得意そうな声が聞こえる。

 おそらく真空波だ。父さんも同じ技ができた。


「まだ、勝負は終わってないわよ……」


 ゆっくりと立ち上がる。

 斬られたけど立ち上がれたのは弓のおかげだった。


「へえ。咄嗟に弓で庇ったのか」


 意外そうな声が遠くに聞こえる。

 多分、本気じゃなかった……気絶させるのが目的だったから。

 威力を加減したんだと思う。


「だけどよ、弓で庇ったせいで壊れてるじゃあねえか。それでどう戦うんだ?」


 ヘラヘラ笑っているわ……

 そのにやけ面、青ざめさせてやる!


「――ファイアアロー!」


 不意を突いた――上体だけ起こして火の魔法を放つ。

 ほとんど狙いを定めずに発動したけど、ダンテが「うおおおお!?」と焦った顔で避けたのが視界の端に見えた。


「魔法使いか! なんで弓矢を――」

「答える義理はないわ!」


 今度は立ち上がって次々と火の魔法を放つ。


「ライズ! ライズ! ライズ!」


 そりゃあそうでしょうね。

 魔法使いは弓矢を使わない。何故ならそれよりも威力の強い魔法が使えるから。


「くっそ! めちゃくちゃやりやがる!」


 火球を躱して、あるいは斬り落として防御するダンテは焦っていた。

 間髪入れずに放つ魔法はあたしの得意技だった。

 問題は魔力切れを起こしてしまうのが早いところだけど、そんなこと言ってられないわ!


「いい加減に――しやがれ!」


 横一閃に剣を振るう――真空波を出すつもりね。

 だけど残念。それの対策は父さんと立てていたわ。


「なあ!? なんで――」


 ダンテが驚愕するのも当たり前。

 明後日の方向に斬撃が飛んでしまったから。


「火の魔法がそこら中に放たれているわ。だから空気が熱で歪んでいる……」

「馬鹿みたいに発動させていたのはそのためか! だったらよ――」


 足に力をためて――そのまま一直線にあたしに迫る。

 その速度は人間には出せないほど――速い!


「ファイアーウォール!」


 父さんが言っていたわ。飛ぶ斬撃が効かないと分かったら、相手は接近戦を挑む。

 だから火の壁を慌てずに出せた。


「この――女ぁ!」


 怒声を発したダンテ――火の壁に当たる前に急停止したようね。

 その間に、あたしのほうは準備が整った。


「――サンライト・ショット!」


 サンライトシティの名を冠した、あたしの最強の魔法。

 巨大な火球がダンテを襲う――


「マジか!? ま、待て! 参った、参った――」


 発動した魔法は止まらない。

 しばらく修練場は使えなくなりそうね。



◆◇◆◇



「見事な魔法だった。この勝負はお前の勝ちだな、サニー」


 魔王がぱちぱちと拍手する。

 その場には火傷を負ったダンテが倒れていた。


 火傷と言っても大怪我じゃないわ。

 狙いを床に変えたから直撃はしていない。熱波を浴びただけよ。


「ダンテ兄さん……気絶しているですね」


 セーリアはちょんちょんと気絶しているダンテを突っついている。


「これで協力してくれるのね」

「ああ。約束だからな……セーリア、頼めるか」

「ええ、いいですよ」


 あっさりと決まったけど、いいのかしら?


「サニー。お前は人間の割に魔力量が多いな。その年で上級魔法も使えるようだ」

「それが何よ?」

「素晴らしいと言いたい。よくぞ研鑽を重ねたものだ」


 褒められたと分かったけど、どこか違和感を覚える。

 魔王は「今日はゆっくりと休め」とあたしに近づいた。


「また明日な」


 ぽんっと頭を軽く撫でる。

 それが何故か懐かしく覚えて――不思議な感覚だった。

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