まだ見ぬ未来へと続いていく
舞踏会のざわめきが、ふと嘘のように遠のいた。
深く頭を垂れていたセシリアとリリアナが、ゆるやかに身を起こす。
上げられたその顔に、豪奢なシャンデリアの光が降り注いだ。
宝石のきらめきのような光が、二人の横顔を縁取り、まるで未来を映すかのように揺らめく。
張り詰めた静寂の中――。
視線が交わる。
ただそれだけで、言葉を超えた確かな絆が、会場全体に広がっていった。
二人の瞳が重なった刹那、ふっと柔らかな微笑みが生まれる。
セシリアの唇に浮かんだのは、孤独を恐れず、自らの歩む道を選び取った者だけが持つ凛とした笑み。
リリアナの表情に宿ったのは、誰かに選ばれるのではなく、自ら選ぶために立つ者の揺るぎない決意の笑み。
その二つの微笑みは響き合い、重なり合い、やがてひとつの意味を結ぶ。
――互いをライバルと認め、戦友として敬意を捧げ、未来へと歩み出すための希望の証。
会場の光は、まるでその瞬間を祝福するかのように二人を包み込んでいた。
会場を満たしていたざわめきが、ふいに凍りついたように静まる。
貴族も騎士も楽団員も、誰一人として言葉を発せず、ただ中央に立つ二人を見つめていた。
そこにあるのは驚愕でも困惑でもない。
まるで――目の前で「新しい物語の幕開け」を告げられたかのような、直感的な畏敬。
誰もが息を呑み、その光景を心に刻み込む。
役割や筋書きではなく、自らの意思で未来を選び取った二人の姿を――。
ナレーションが、静寂に満ちた舞踏会の空気へと溶け込む。
――物語は終わらない。
けれど、それはもはや誰かの手によって決められた筋書きではない。
セシリアとリリアナ、自らの意志で選び取った、誰にも縛られぬ自由の物語が――ここから始まるのだ。
舞踏会の空間を、柔らかな光がゆっくりと満たしていく。
その輝きは断罪の裁きでも、勝敗を告げる照明でもない。
まるで未来へと続く扉を象徴するように、優しく包み込む光だった。
セシリアとリリアナの姿は、その中で淡く揺らぎながらも決して消えない。
輪郭は光に溶け、けれど存在の確かさだけは、はっきりと残り続ける。
――これは終幕ではない。
幕が下りるのではなく、舞台そのものが切り替わるのだ。
物語はここで閉じるのではなく、まだ見ぬ未来へと続いていく。




