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運命の遍歴 ルミナス学園 数え切れぬ周回の果てに  作者: 南蛇井


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23/24

“行き先を失った物語”そのものとなっていた

舞踏会の会場は、相変わらず豪奢な装飾に彩られていた。

高く吊るされたシャンデリアは宝石のような光を散らし、磨き上げられた床は人々の影を鮮やかに映す。

――けれど、その空気はどこか揺らいでいた。

煌びやかさは変わらないはずなのに、そこに満ちているのは華やぎではなく、奇妙な緊張。

役割を失った人々は視線を交わし合い、しかしどう振る舞えばよいのか分からず、ただ立ち尽くす。

楽団の演奏は形式を保ちながらも、かすかな不協和音を混じえ、調和の仮面を剥がしかけていた。

「……どうすればいい?」

誰もが心の中で呟き、誰も答えを知らない。

ざわめきは波紋のように広がり、舞踏会という舞台はもはや予定調和の楽園ではなく、“行き先を失った物語”そのものとなっていた。

セシリアとリリアナは、視線で短く合図を交わした。

次の瞬間、二人はためらいもなく歩みを進める。

人々の視線が自然と集まるその場所――舞踏会の中心。

かつては「断罪の舞台」として、冷酷な台詞と決められた運命が突き付けられた場所。

だが、今は違う。

彼女たちは誰に命じられたわけでもなく、自らの意志でその場を選び、踏みしめる。

裾を揺らし、背筋を伸ばし、堂々とした足取りで進む姿は、もはや「悪役令嬢」と「ヒロイン」ではなかった。

そこに立つのは――自分自身の生き方を選んだ、二人の少女そのものだった。

二人は歩みを止め、自然と視線を絡める。

言葉は要らなかった。互いの決意を確かめるように、まるで最初から約束されていたかのように動き出す。

背筋をすっと伸ばし、ドレスの裾を両手でつまむ。

その仕草は舞踏会にふさわしい淑女の所作でありながら――纏う空気は、これまでの誰よりも凛としていた。

セシリアとリリアナは同時に、優雅に一礼する。

それは誰かに媚びるためでも、役割を演じるためでもない。

ただ、自ら選んだ生き方を誇るかのように。

その瞬間、二人の姿は会場の誰よりも眩しく映っていた。

会場全体が、その一礼に魅入られた。

観衆は息を呑み、まるで時が凍りついたかのように静まり返る。

シャンデリアの煌めきすら、彼女たちを讃えるために灯っているように見えた。

――そして次の瞬間。

堰を切ったように、ざわめきが広がった。

驚きに目を見開く者、困惑に言葉を失う者。

胸を打たれたように頬を赤らめ、思わず拍手を送ろうとする者すらいる。

その反応は一様ではなかった。

称賛、動揺、憧れ、嫉妬……それぞれの心から溢れ出る、ありのままの感情。

誰一人として「正しい反応」を演じることはなく、そこにはもはや台本に縛られぬ人間たちの自由なざわめきがあった。

楽団の音色が、ざわめきに呼応するように揺らぎ始めた。

最初は不協和音。

誰もが戸惑い、楽譜のどこを奏でればいいのか分からず、旋律は乱れ、調和を失っていく。

だが、その乱れは次第に一つの流れへと変わっていった。

まるで演者たち自身が「譜面ではなく心」に従い、即興で音を紡ぎ出すかのように。

高らかなヴァイオリンの音が、新しい旋律を切り拓き、管楽器が追随する。

やがて弦と管が絡み合い、揺らぎの中にしか生まれ得ない調べが大広間を満たしていく。

――それは決められた舞踏会の伴奏ではない。

未来をまだ誰も知らぬ、新しい物語の始まりを告げる音だった。

――断罪の舞台は、確かに幕を下ろした。

ここに始まるのは、誰の台本にも記されていない、新しい物語。

縛られることなく、自ら選び、自ら歩む未来。

その一礼は、混沌をただの崩壊ではなく――

希望へと変える最初の合図となったのだ。


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