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運命の遍歴 ルミナス学園 数え切れぬ周回の果てに  作者: 南蛇井


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18/24

……収束……戻せ……矛盾は……消去……

――二人の足元で揺らめいていた“影”が、静かに溶け落ちていった。

砕けた断罪の舞台も、糸に絡め取られたヒロイン像も、跡形もなく消え去る。

その瞬間。

白の無限空間に、ぱきん、と硝子が割れるような音が走った。

境界のない世界にひび割れが広がり、裂け目は蜘蛛の巣のように全方位へと伸びていく。

――ノイズ。

深淵から響いていた低音の“律”が、突然、乱れた。

重厚で冷たいはずの声が、一瞬だけ人の呻き声に似た歪な響きを帯びる。

「……ぁ……ぎ……ッ……」

セシリアとリリアナは同時に息を呑んだ。

音ではない、意識に直接響いていたその声が――確かに“苦しみ”を含んでいたからだ。

白の空間に走る亀裂は止まらなかった。

ぱきぱきと音を立てながら世界を侵食し、空白の大地に黒い影を落としていく。

その中で――“律”の声が震えた。

「……矛盾が……走っている」

冷たい均衡を保っていたはずの響きが、初めて揺らぐ。

それは機械的な無機質さを残しながらも、苦悶を押し殺すかのような、歪んだ叫びにも似ていた。

「……道理が……収束点が……見失われていく……」

セシリアとリリアナは思わず互いを見合った。

――この存在が、確かに“動揺している”。

予定調和を外れた彼女たちの選択が、“加護”という絶対の律そのものを追い詰めていた。

白の空間に、二人の足跡が刻んできた“逸脱”が影のように浮かび上がる。

ひとつは――断罪の舞台。

本来なら孤立し、冷たい視線の中で破滅するはずだったセシリア。

だが彼女の傍らには、手を取り合ったリリアナの姿があった。

もうひとつは――ヒロインの微笑み。

本来なら「選ばれる」ことで物語を完成させるはずのリリアナ。

しかし彼女はその結末を拒み、“ヒロイン”という枷を打ち砕いた。

「……予定調和から、逸れている……」

加護の声が、軋む歯車のように軋んだ。

二人が選んだ協力と拒絶――そのわずかな歪みが、世界そのものに矛盾を刻み込んだのだ。

破滅と選択という定型が崩れた瞬間、律は確かに揺らぎを始めていた。

白の空間を震わせる加護の呻きが、二人の胸に深く刻み込まれた。

セシリアは唇を噛み、揺れる胸中を抑え込む。

(……私たちの選択が、世界を揺るがしている? 舞台を壊したことに、意味が……あった……)

その戸惑いの奥で、黒い絶望に沈みかけた心に、かすかな光が差し込む。

「破滅しかない」と決めつけられていた未来に、わずかでも抗う余地があるのなら――それは希望に他ならなかった。

一方、リリアナは小さく息を呑む。

(……なら、私たちはもう、駒じゃなくなれるの……?)

胸の奥に広がるのは恐怖ではなく、震えるような高揚。

これまで与えられるだけだった未来を、初めて“自分で選べるかもしれない”という予感が芽生えていた。

互いに目を合わせる二人の瞳には、同じ熱が宿っていた。

それは運命に抗う者だけが知る、確かな意志の輝きだった。

白一色の空間が、突如として激しく脈打った。

鏡面のように滑らかだった景色がひび割れ、細かな亀裂が走る。

やがて――世界そのものが崩れかけのガラス片のように、鋭い光の破片となって四散していった。

その只中に、加護の声が断続的に響く。

「……収束……戻せ……矛盾は……消去……」

低音はノイズに掻き消され、まるで乱れた電波のように言葉が途切れる。

揺るぎない律であったはずの存在が、必死に自らを保とうともがいているのが伝わってきた。

――だが、もはや覆せない。

ナレーション:

「世界は拒み、同時に縋った。

 矛盾を消そうとしながら、矛盾に依存せざるを得なくなっていた。」

崩壊と再生の狭間で、二人の存在だけが、ひときわ強く浮かび上がっていた。


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