第42話 お菓子をつくるよ
「じゃあなルツィナ。今晩はシルルが行くからよろしくな」
リーダーさんが、絶望的な言葉を吐いて去っていきました。
なんで私は、夕方に冒険者さんが来ることを了解してしまったのでしょう。
「押し切られただけだよね」
そうですね……。
「でも、よく一人だけ来るようにしたね。ルツィナなりに頑張ったよ」
うん。頑張ったよ。四人で来られたら何もできないから。心の友一人だけで来るようにお願いしたんだから。
「名前、覚えてるの?」
うん! ええと……あれ? シシラ? シララ? だったっけ?
「シルルじゃなかった?」
あっ、そうかも。
「友達失格だね!」
いいんです。私の中の心の友なんですから。名前なんて呼び合うこともないし。
「大丈夫か? ぼっち慣れしすぎてない?」
う……そう、かも。
「ま、名前くらい覚えてやりな。そこからだよ」
そう、ですね。はい……。
「ま、後のことは後で考えて、お菓子作るよ」
うん。スイートポテトですね。え? でもサツマイモ自体、スイートポテトって言いませんか?
「そうだね。でもこれから作るのはスイートポテトを使ったさらにおいしいお菓子だよ。言うとおりに動いてみて」
はい! じゃあエプロン付けます!
私は気合を入れて準備に取り掛かった。
◇
「まずはイモを洗って。オーブンがあったらじっくり焼くのが一番なんだけど……、アルミホイルもないしな」
え~と、悩んでいるんですか?
「ああ、ごめん。とりあえず、ここにあるもので簡単に作るとしたら。まあ、輪切りにして煮るのが早いよね。ルツィナ、そのサツマイモ皮ごと輪切りにして。5センチくらいの厚さで」
わかりました。切ります。一個でいいですか?
「せっかくだから二個にしよう。余ったら次に使えばいいし。あ、皮も剥いておこう。じゃあ、鍋に敷き詰めて。そうそう。ひたひたより少し多めに水を張って。いいね。それくらいだ」
では、浄化魔法をかけましょう。
「蓋をして、沸騰したら弱火で10分くらい? 柔らかくなるまで煮たらお湯を捨てて。そうだね。半分は裏ごし用に取っておいて、半分を木べらで潰しながら水分を飛ばそうか」
半分は鍋から出して、半分を火にかけながら木べらで潰していきました。
「うん。そのくらいざっくりとしているのがいいよね。じゃあ火を消して」
はい!
「バターをひとかけら入れて混ぜる。余熱で溶けるから全体にからませて。そこにミルクを大さじ二杯。砂糖を大さじ一杯いれてよく混ぜて。生クリームがあったらコクが増すんだけど、ないよね」
ありません。高いです!
「お金ならあるじゃん。あとで買いに行こう。うん、いいね。味見してみて」
これを食べるのですか? いいんでしょうか。
「味見だよ! 少し口に入れて。あたしが判断するから!」
そ、そうですよね。じゃあ、遠慮なく……。
……………………なんですか! このおいしさは!
「ん? イモの甘味が薄いな」
は? 何言っているんですか! こんな甘くておいしいものに何を!
「やはり、生クリーム……まあ、はちみつを入れてみようか。はちみつを小さじ一杯入れて。それからバターもひとかけら追加で」
えええええ! まだ甘味とコクと風味を! 追加! 本気ですか!
「いいからやれ」
はいぃぃぃ! はぁはぁ。はちみつ。バター。こねこね。
「味見」
はいっ! ん? おいしいいいいいい!
「あっ、そうか。塩か。塩一つまみ加えて」
え?
「ほら。早く」
はいぃぃ! これでいいですね。こねこね。
「じゃあ、それを半分にして」
は?
「半分は、その一番大きなスプーンで掬ってそのままお皿に盛りつけて」
こう、ですか?
「そう。小さなサツマイモみたいな形に見えない?」
なるほど。確かに!
「本当は大きく成形してオーブンで焼きたいんだけど。まあ大丈夫」
またオーブン。そんな高いもの無いです!
「はい、作って。そうそう、いい感じ」
残った半分はどうするんですか?
「干しブドウ入れよう。一つまみ入れてみて」
はい!
「あ、少ない。あと二回。二回分入れてみて」
入れました。
「じゃあよく混ぜて成形。いいね。見た目で区別がつくよ」
それはそうですよ! 干しブドウが目立っていますから。はい、これで全部です。
「じゃあ、残りのおいも、裏ごししようか」
言われた通り裏ごしして、鍋で温めました。こちらは蜂蜜もブドウも入れず、代わりに薬草のミックススパイスを練り込みました。
三種類のスイートポテトが出来上がりました。
「おやつの時間だね。ドリンクはお茶? コーヒー? ミルク?」
甘いお菓子にはミルクかな?
「はは、お子様だねえ。まあ、ルツィナがいいならミルクにしようか」
ブラックコーヒー飲みたいんですよね。私には無理です!
では、気を取り直して。まずは最初に作ったはちみつ入りのスイートポテトを食べます。
うん。さっきの味見した時より、味がクリアになっています。お塩が全体を引き締めて下さっています! ミルクと最高に合う、素晴らしいお菓子になりました!
「う~ん。これはこれで素朴でいいか」
は? え? 何? 何が素朴でいいですって? 素朴? これが?
「うん。ま、次食べて見な」
次? 次ですね。このレーズンが入った方ですね。
ん? ふわぁ! これはまた!
凝縮したレーズンの甘さと酸味。クチュっとした歯ごたえが、ほくほくしたおイモの荒い粒たちと混ざり合い、何とも言えない幸せがあふれ出ます。
先ほどのシンプルな方をもう一つ。
うん。これはこれでおイモのおいしさがダイレクトに味わえます。
そしてレーズン入り。酸味と甘みの爆発が!
みんな違ってみんないい!
甲乙つける必要なし! 確かに素朴な味って言える……のか⁉
全然素朴じゃないよ! どっちも至高のおいしさだよ!
「ははは。ほら、まだ残っているのにそんなこと言っていいの?」
そうでした。裏ごししたやつ。一番シンプルな味付け。
ゆっくりと指でつまみ、口にいれます。
ん~! 何でしょう!
降りたての雪が地面で溶けるように、口の中に入れた瞬間にフワッと蕩けそうな食感。
舌でへにゃっと潰れ、さらさらとした粒子が、ねっとりと寄り集まっているこの感じ、なんて言えばいいんだ?
薬草のほのかな苦みが、おイモの甘さを強調させる。
なんて言うか、絶対の調和。
はちみつがない分、おイモの自然な甘さが引き立っています。
大人のための上品な逸品!
先ほどの二つが至高なら、これは、そう、至極! 至極というべきイモ料理!
「おおげさだなぁ。うん。まあまあいい出来」
まあまあですって!
「だって、生クリーム入れてないし、黄身を塗ってオーブンで焼いてもないし。あたしの理想から言えば、まだ製造途中だよ」
オーブン! またオーブン? あんな高いもの。
「いくらするんだよ。宝石売ったお金でも買えない?」
買える、んじゃない?
「生クリームは買えるよな。じゃあ、見に行こう。オーブンとか調理器具。お金は使ってこそ価値があるんだよ」
そうかもしれませんが……。私が大金使っていいのでしょうか。




