第41話 身バレ……じゃないよね
大満足の朝食を終え、片付けと掃除をしていると、玄関からノックの音が聞こえました。
「ルツィナ、私だ。弁当を取りに来た」
ギルド長さんです。今日の仕事は、このお弁当を渡せばお終いです。
「今……開けます」
ドアを開けて、隣にあるテーブルの上のお弁当を指差しながら「これ、です」と答えた。
「結構あるね。では22000ギル。これでいいね」
お金と大きな袋を渡されました。袋に詰めていると、最近よく見た冒険者さん4人がこちらに向かって歩いて来ます。っていうか走り出しました?
「おはよう、ルツィナ!」
「店長殿、おはようございます」
「店長さん、何作っているの?」
「……おはよう」
え~と、なんだっけ? そうだ、鋼鉄の剣のみなさんだ。お弁当100個買っていったか、今はお店に用はないよね。
「話がある、ちょっと入れてもらえないか。ハルモナもいるならちょうどいい」
えっ、リーダーさん? 話って、こっちには何もないんだけど。
(なんか真面目な話みたいだし、入れてあげたら?)
ルリがそう言っていますけど……。
「……入る」
えっ、えっ、……心の友さんがすんなりと入ってしまいました。そこからなだれ込むように、一気に……。
「ああ、やっぱりいい匂い。なにか新しい匂いもするわ。なに? どんな料理を作ったの?」
きれいなお姉さんが、興味深そうに匂いを嗅いでいます。
「ヴィラ、真面目な話をしに来たんです。邪魔にならないように。店主殿、ドアを閉めていただいてよろしいでしょうか」
あ、ドア開けっ放しのままだ。そうですね、閉めましょう。
って、閉めたら入って来たの認めたってことになるんじゃ……。
あ、閉まった……。
はぁ、仕方ありません。お茶でも出しますか。
「お茶とかはいい。話を聞いてくれ。ハルモナもギルド長としてだ」
リーダーさん。なんかいつもと違います。
「ちょうどいい。私もお前たちに話さなければならないことがあるんだ。そう、騎士の奴らには内緒でな」
え~と、ここは私の家なんですけど……。
「ちょっと待って! 問題はその騎士団よ。騎士団がこの子のお弁当に興味持っちゃって」
「そう……連れていく気、満々」
は? どういうことですか? 心の友よ。私何かやりました?
(落ち着け。話聞いてみよう)
そ、そうだね。訳わからないし。
「あの……お弁当に……問題、でも?」
「わたくしが説明してもよろしいでしょうか」
あ、賢者さん。
「そうして。他の三人じゃらちが明かないわ」
……そうですね、ギルド長さん。
「昨日の報告は、ギルドに提出した書類通り。氷剣からも出ていると思いますが、特に問題も見つからず、安全を確認しました。早めにギルドに行ったのですが、ギルド長は外出中でした。リリーに託したのですが、ご覧いただけましたでしょうか」
「ああ確認したよ。あの時は教会で情報を収集していたんだ。その件についてはすぐにでも話すが、その他に何かあったのか?」
「食事休憩時、我々が店主殿の弁当を食べていたのですが、氷剣の方々が弁当に興味を持ち、それにつられ騎士のみなさまも食してみたい、弁当を売ってくれと申し出を受け、それぞれに売りました」
「ほう。それで感想は?」
「騎士団団長が言いますには、保存効果、体力回復効果、魔力回復効果が付けられた、王族の主催するパーティーでも食べたことのない不思議な食事、だそうです」
え? 体力回復? 魔力回復?
(ルツィナの薬草混ぜたスパイスのせいじゃない?)
ああ、あれ効果出るんだ。
「保存魔法は確認していたが、体力と魔力の回復もか!」
でも、休憩って基本的に体力回復するために食べたり休んだりするんだよね。おかしくないよね?
「とにかく、弁当はギルド長から仕入れていることにして、店主殿については、わたくしたちは知らないことにしておきました。店主殿、騎士団に誘われても断るように。いいですね」
「は……はい」
って、どうなってるの?
(無自覚、あれ、私何かしちゃいました? って展開か?)
なんですかそれ?
「そうか。ここで聞けてよかった。しかし面倒だな」
面倒ごと来ないで~!
「あ、あの……私」
「大丈夫よ。ルツィナちゃんは私たちが守るから」
え? おねえさん、ルツィナちゃんて……なんか近づいて来ていませんか?
「ん……ルツィナ、守る」
ああ~! 魔法使いさんは、許す!
「俺たちを信じな! ルツィナ!」
あなた達が引き寄せたのでは? 近い近い~!
「店主殿、あなたはわたくしたちの希望、いえ、宝なのです。お守りいたします」
ええ! わたし財宝扱いなのですか!
「そうか。では、ルツィナの身辺はお前たちに任せる。騎士団の動向を常に警戒しておけ」
「「「「はっ!」」」」
なんで? 何がどうなっているの?
「この話はここまでだ。では私の話を聞いてもらおう」
え? だから、何がどうなっているんですか? 私どうなるんですか~!
「まずはダンジョンについてだ。教会で神の御使い、中天使サビナ様よりお告げを頂いた」
(サニーじゃん!)
サニーさんだね。
「中天使? ギルド長、中天使とは? 大天使、小天使のどちらかではなく?」
(ああ、中(間管理職で苦労している小)天使ね。うきゃきゃ)
思い出しました。サニーさんそんなこと言ってたね。
「いや、確かに名乗っておられた。中天使サビナ、サビナ……なんとかと」
「覚えてないんですか!」
「よく聞き取れなかったんだ。大丈夫、神父なら覚えているだろう。中天使サビナ、あるいはサニーと呼べと言われたんだ」
サニーさんでいいと思う。
「そこで言われたのは、9階までは安全が確保されているということだ。まあ、念には念を入れるのと、他の冒険者に対しての安心を与えるため、この調査は続行するがな」
「安全が確認されたのか! いいじゃねえか」
「待てボルク、9階まではということは、その下はどうなっている」
「うむ。10階より下に、もう一頭厄災クラスの魔物がいるそうだ」
知っています……。
「「「「!!!!」」」」
あ、みんな驚いてる。
「待って! 厄災クラスの魔物って、一回出たら数十年は出ないはずじゃなかったの!」
「ボクも、そう聞いた」
でもいるんだよね。サニーさんから聞いています。
「どうするんだよ、ハルモナ!」
「ギルド長! この情報は!」
(パニくるよなぁ。うん)
そうだよね。あれ見てるから……。
「ああ。お前たちと氷剣の舞には知っていてもらわねばならん。その上で今後の方針を考える。とりあえず11階以降はしばらく封鎖だ。いいな」
「騎士団には?」
「9階までの調査がすんでから教える。それまでは誰にも漏らすな。氷剣の舞にもだ。彼らには、私がタイミングを見て教える故、お前たちは何も言うな」
「「「「はっ」」」」
うん。あれは大変だよね。よく倒せたねルリ。
(まかせな。次もあたしたちの出番かな?)
そうならないように祈りましょう。
(え~、また欲しいものあるのに~!)
私は嫌ですよ~!
「ダンジョンの話はここまでだ。最後にもう一つ」
まだあるんですか~!
「お前たちが見たという、ルナ、あるいはルナヨと名乗った、赤いローブを着た冒険者についてだ」
「見つかったのか!」
え? ルナ? ルナヨ? ――名前なんか名乗っていないよね、ルリ。
(うん。ダンジョンで話もしてなかったじゃん)
じゃあ何で? ルリでもルツィナでもないルナってなに?
「まあ、ルナに統一しよう。ルナはうちのギルドには立ち寄ってない。だが、昨日、宝石商でダンジョン産の魔石宝石を売った疑いがある」
「「「「宝石商?」」」」
「ああ。聞いただけだが、王族に奉納してもおかしくない、未登録の魔石だそうだ。そんなものこの街で売ることができるのは、厄災の魔物を葬ったルナ位なものだろう。赤いローブを着た女の子だったそうだ」
「「「「女の子?」」」」
ヤバい! バレてるよ、ルリ!
(大丈夫だって。あたしのことは知らないし、名前も違うじゃん)
でも、ルリとルナじゃ、一文字しか違わないよ~!
「ええっ! 女の子だったのかよ、あいつ!」
「確かに、声は高かったわよね? バゥイ」
「ええ。背もそんなに高くありませんでしたから、てっきり少年なのかと思っておりましたが」
「……ありえなく、ないかも」
ああ~! 男の子と思っててくれたらよかったのに!
「店主の言うには、ルツィナの後姿がルナらしき人物と似ていたそうだ」
「そうなの?」
「背の高さはそのくらいだったかも知れませんね」
「もっとでかくなかったか?」
「……それは、ボルクの、印象」
でかいです! そういうことにしておきましょう。
「そうだルツィナ。確か以前ギルド室に来た時、赤いローブを着ていたよね。いま羽織ってくれないかな? みんなの記憶がはっきりするかもしれない」
ギルド長! やめて下さい~!
「あ、あれ、汚れて……、水に漬けている、ので」
「そうか。何でもいい、ローブっぽいものならなんでもいいから着てくれ」
(しつこそうだし、断るのも変だから、この間買った白のローブ着たら?)
そうだね……。追及されると面倒だよね。
私は寝室に行き、白いローブを羽織ってみんなの前に戻った。
「かわいい!」
「……かわいい」
おねえさんと心の友が褒めてくれました。
「す、素敵だ」
あ、ありがとうございます。リーダーさん。
「バゥイ、どうだ?」
「そうですね。店主殿後ろを向いていただけますか? 剣を持っていただいても」
えっ、嫌です!
「ボルク、剣を店主殿に!」
「えっ、重くて、持てない」
はずっ!
(レベル的には大丈夫だよ)
筋肉! 鍛えてないし!
(いや、少しくらいは補正がかかるから。最大値は無理だけど、剣くらいなら振り回せるよ)
知ってるけど! そういうことにして!
「店主殿。その剣は魔法がかかっていますから、包丁くらいの重さにしか感じられないはずです」
「そうだ。ぜんぜん重くないから。使ってくれ、ルツィナ!」
そんな、爽やかなのか暑苦しいのかわからない感じで、迫ってこないで下さい!
わかりました! わかりましたからぁ~!
「そうです。そのまま後ろを向いて、剣を振り上げて!」
こうですか! えいっ!
「うむ。確かにあの時の冒険者に似ている」
「そうか? もっと迫力があったぞ」
「背丈の話でしょ。まったく、単純なんだから」
「何だと! 俺はだな」
「……うるさい。黙れ」
も、もういいですか?
「ありがとう。では身長は……ルツィくらいだと140センチから150センチくらいか。小柄な痩せ型。赤いローブを着た少女。髪の色とかはわかるか?」
「フードを被っていましたので」
「遠かったしね」
「……見えなかった」
「覚えてない!」
「そうか。しかし、宝石店の少女と酷似していたということが分かったのは、大変ありがたい」
ありがたくないです……。
「ルツィナそっくりの冒険者か~。そういえば、ルツィナってルツィとかルナってよく言われない?」
おねえさん! 何言って!
「確かに。ルナだね」
ギルド長まで!
「まあ、宝石店の店主も、雰囲気が全然違うと言っていたし、ルツィナが厄災級の魔物など倒せないのはレベルを知っている私からすれば当たり前のこと」
今のレベル、知りませんよね。
「ルツィナ、もしそのような人物を見かけたら報告するように。お前らもだ。いいね」
冒険者さんたち、「「「「はい!」」」」って言っているけど、私、教えなくていいよね。
うん。言えない!
早く帰ってください~!




