第4話 16歳の誕生日②(販売中です)
冒険者ギルドが開くのは午前八時。
今日の仕事を決めて、ダンジョンに向かう冒険者が、お店の前を通過するのが八時十五分頃から九時半頃までだから……。
その間にお弁当をどれだけ売れるかが、日々の生活費と仕入れのための現金回収になるの。
私は庭に出て『お弁当あります』と書かれたのぼりを出した。
そして家に戻り、両開きの扉を開けて、直接中に入られないように大きなテーブルを扉の前に置いてお弁当を並べた。
お弁当は日替わり。その日にある材料で作らなくてはいけないため、毎回値段が変わる。
今日のメインはタヌキのお肉。ていねいに下処理して、薬草と煮込んで、灰汁と臭みを取ったお肉を贅沢に使っているから、少しくらい高めにしましょう。
本日のお弁当。ラクーンの肉と根菜の煮物。800ギル。三日保証。在庫五個。
前日のお弁当。ポイズンスネークとニンニクの炒め物。500ギル。二日保証。在庫十二個。売れ残りなので一割引き。
前々日のお弁当。虹鱒の塩焼き。650ギル。残り一個。本日限り。大体三割くらい引く。
スープはお弁当を買った人には200ギル。スープだけなら300ギルで売っている。
水代わりに買う人は多いので、大抵売り切れる。
スネークの肉は人気がないね。さっぱりしてクセがないからおいしいんだけど。食わず嫌いが多い。
虹鱒は、売れ残ったら今日の晩御飯だね。誕生日だからできれば売れてしまって欲しい。冷たい弁当は今日は勘弁してほしいな。
庭の向こうに見えるダンジョンに続く街道を、冒険者たちが歩いている。
声を出して呼び込むほど、積極的にはなれないのが私のダメなところだけど。
常連の人が買いに来てくれれば。
あっ、獣人嫌いなのにたまに買っていく冒険者さんがこっちを見ている。近づいてきた。
「何がある? ああ? 毒入りスネークなんかの弁当誰が買うんだ。これだから魔物食いは」
怒ったようなドスの利いた声で文句を言われる。
「ほう、虹鱒の弁当、三割引きか。スープも買うからまけろ。500でいいよな」
お弁当は三割引きで455ギル。半端なので450にした。スープを付けると650ギル。
あんまりだ。そもそも一度まけると他の人も調子に乗るから絶対まけてはだめだとお父さんから言われていた。
「ろ……650……ギルです。おまけ……は……できま……せん」
「ああ? まけられないならはっきり言えや! ああ?」
しつこいけど、言い続けたら諦める。いつもこの人はこうだから。
何度も怒鳴られながら、それでも拒否を続けた。
「弁当買うのになに怒鳴ってるんだ。いい加減にしろ、ガキが。朝から気分悪くなる」
見たことがない冒険者さんが、私とその人の間に割り込んだ。
「誰じゃおめえ……は?」
怒鳴っていた冒険者が黙った。見るからに格が違う。
「たかだか100ギル値切るほど落ちぶれてるなら恵んでやろうか、クソガキ」
「ちっ、ほらよ、650でいいんだよな。獣臭いくせに」
苦々しそうにコインを叩きつけながら捨て台詞を言うと、割引のお弁当とスープを搔っ攫うように持って走り去った。
「大丈夫かい?」
「あ……りがとう……ござい……ます」
キラキラの鎧姿の剣士、でしょうか。後ろにはお仲間の様な三人もいます。
「ダンジョン前に弁当屋があるのか。ん? 保存魔法がかかっているのか?」
「はい。そう……です」
「それはありがたい。試しに四つ売ってくれないか? 初めて入るダンジョンだから、保険はいくらあってもいい。何もなければ今日のお昼に味を確かめればいいだけだ」
ああ、すごく人気のありそうな冒険者様だ。恐れ多い。私の様な人見知りには眩しすぎてつらい。
「これが……今日保存をかけた分……です。三日……持ちます。タヌキの肉と……ニンジンと……大根のお弁当です。パン……も付いて……います。こちらが昨日……作った……スネークと、ニンニク……のワイン炒め。パンもついています。一割引いて……います。今日の……スープ……は、ミルク風味……です。300ギル……ですが、お弁当の数、だけ……100ギル安く、して……います」
商品紹介ならちゃんとできる。商品には自信あるから!
「そうか。じゃあ四つずつもらおう。スープも四つでね」
そんなに一気に買って下さるのですか。いくらになるかな。800×4で3200ギル。500×4で2000ギルから一割引くと1800ギル。スープは200×4で800ギル。全部足したら5800ギルだ。
「5800ギル、に……なります」
「え? 計算早いな。すごいね。俺は『鋼鉄の剣』というBランクパーティのリーダー、ボルクだ。よろしく。君は? なんていう名前?」
え? 名前? 久しぶり聞かれた。
「ルツィナ……です」
「ルツィナ? 月から名付けられたのかい? いい名前だね。ルナとルツィ、どっちで呼んだらいいかな?」
どっちも嫌です。名前で呼ぶのお父さんしかいなかったよ。ルナとかルツィとか、無理無理無理!
「ルツィナ、で」
「分かった。略さず言うよ。しばらくダンジョンに通うからよろしく」
お客さんで通ってくれるのかな。それなら嬉しい。
手を振って仲間のもとに去っていった。もう一ヶ月分くらい人と話した感じです。
このやり取りが目立ったのか、そこからお弁当を買う人が増え、スープも含めて全部売れました。
嬉しいけど、あしたのお弁当、どれくらい仕込めばいいのでしょう?
とにかく、まずは材料集めからです。




