第36話 閑話 教会にて②
【ギルド長】
宝石商の店主がルナと名乗った冒険者らしき人物と接触していた?
しかも少女?
なぜ、名を聞いていない? 連絡先もだ。
ギルドの書類には該当するものは見当たらなかった。
しかし、まだこの街にいるとすれば、どこかの宿に泊まっているのか?
「おや、あの後ろ姿。さっきのお客様にそっくりですね」
「ほう」
ルツィナくらいの背格好の少女?
そういえば、ルツィナも赤いローブを着ていたような……。
「でも、顔も雰囲気も違うので別人でしょうね。あんなにおどおどするような方ではありませんでしたし」
まあ、そうだな。あのおどおどしたルツィナがダンジョンに潜るわけはないか。
「少し話を聞きたい。よろしいかな」
私は店主を引き留めて、ルナの特徴と宝石を買ったご婦人の事を詳しく聞いた。
◇
「お待たせいたしました。こちらにどうぞ」
ルツィナが寄付を終え礼拝堂を出て行った。彼女にも聞きたいことはあったのだが今はまあいい。
ダンジョンについての情報が教会に届いていないか。これを確かめないと今後の対応ができない。
ダンジョンは神の聖域の一つ。ゆえに、何かあった場合、ダンジョンに一番近いこの教会に神託が下りることが多い。
「ダンジョンにイレギュラーな魔物が出た。厄災が起きたのかもしれない。神父殿、何か伝言を預かってはいないだろうか」
まあ、ないだろうな。あればあんな悠長にルツィナと話などせずに、私に言いに来るだろうから。
案の定神父は驚いた顔をし、懺悔室に来るようにと私に指示した。
「神託を願う時は懺悔室で行うことになっております」
そうなのか。確かにここなら誰にも邪魔はされないからな。盗み聞きもできない。
狭い部屋の中で、神父は祈り始めた。
なんだ? 光が小さな祭壇に集まる。いや、内部から光が漏れているのか?
何とも言えない不思議な感覚が私を包む。これが……神なのか?
「私は321。中天使サビナ・スヴェトヴァ。これから先はサビナ様、あるいはサニーと呼ぶがいい」
「おお、321様。御名を与えられ中天使になられたのですか」
神父が感動の声を上げている。仲良しなのか?
「これよりダンジョンについて伝える。今回の件は魔王の仕業である。本来であれば
50年に一度の大厄災が起きる所だった」
やはり。私の背がぞくりと震えた。
「しかし、冒険者により厄災を起こす魔物は倒された」
「おお!」
神父が声を上げた。そう、魔王が絡んでいるなら、このダンジョンを擁するこの街は真っ先に襲われていたはずだ。
「では、厄災は終わったと……」
私の声をさえぎり、サニー様は仰った。
「まだだ。今回はもう一頭ダンジョンに魔物が放たれたようだ」
そんな記録はない。この200年、私が見聞きした中で魔物が二頭も出たことなどないはず。
「魔物は10階にいる。そこ以降に行かなければ動くことはない。ダンジョンの封鎖は神の望む所ではない。10階より先を立ち入り禁止にし、ダンジョンの封鎖はすみやかに解くように」
「お言葉ですが、一応9階までの安全を確かめたい。10日間の封鎖は認めて欲しい」
ギルド長として、これだけは譲れない。調査して安全宣言を出さねば誰も入ろうとしないだろう。
「認めよう。ダンジョンの繁栄は神の望み。しかし、もう一頭の厄災も排除せねばならない。その事を忘れぬように」
「はっ」
厄災級の魔物の討伐……。受けるものなどいるのか? どれほどの被害がある? 騎士団は動くまい。資金は? 保障は? あ~考えることが多すぎる。とりあえず、本部に連絡を。
よりにもよって、このタイミングでここのギルド長になってしまうとは。
このピンチを抜けるには? 移動届を出しても無理だろうね。
ルナ。そうだ、ルナを探せば。
何としても協力を取り付けなければ。
私はまだ見ぬルナの姿を、ルツィナの背中を思い出しながら想像していた。




