第33話 閑話 教会にて①
私の神父としての名はヨゼフ。大切な師匠につけていただいた名前だ。
元の名は……もう忘れてしまった。
師匠は腐敗した教会を改革しようと、幹部たちを神の名のもとに告発しようとしたのだが、結局政治力には勝てず異国へ追放された。
そのおかげで私は中央から左遷され、このような地方の下町の教会に移動させられた。
もう20年も前の話だ。
師匠の教えは正しい。師匠の言葉は優しく厳しいものだった。
私には力などない。だからせめてこの下町の人々と孤児のために尽くそうと心に決めているのだが……。
いかんせん、物価は上がっているのに予算は減らされる一方。どこかで抜かれているに違いないのだが……。
孤児院の雨漏りなど、私が頑張ってふさげるのも限界に近くなってきた。
神が私にどんな試練を与えても、甘んじて受け入れる覚悟はあるが、孤児にまで試練を与え続けるのはどのようなお考えがあっての事なのか。
たまに、売れ残りの野菜などを寄付して下さる方々のおかげで、なんとかなってはいるのだが……。
そんな時、いきなり金貨50枚もの寄付の申し出を受けることになった。
◇
「ええと、宝石商の ディアマント様……でございますか? ご寄付をなさりたいとのお申し出とお伺いしましたが」
「ああ。ここに金貨50枚ある。これを孤児院のために役立ててくれ」
はぁぁ? 金貨50枚? 500万ギルも! なぜだ?
「失礼ですが、ディアマント様のお住まいは高級街にございますよね。なぜあちらの聖堂ではなく、この下町の教会へ寄付をなさろうと思ったのでしょうか?」
500万ギルもの大金、聖堂へ寄付すれば名誉も与えられ、評判も上がるというもの。
孤児院への寄付など、大したアピールにもなりはしないというのに。
「ああ。大きな取引があって、その条件に孤児院に寄付をするという契約を交わしたんだ。神父が警戒するようなことは何もない。それに……」
「それに?」
「寄付をしようと現金を用意している時、頭の中で神の御使い様の声が聞こえたのだよ。中天使サビナ・スヴェトヴァと名乗った御使い様はこう仰っられた。『寄付は下町の教会にしなさい。神父とよく相談してしかるべき方法で』とね」
御使いの声? サビナ・スヴェトヴァ様? もしや321様の関係者ございましょうか? ……おお、神よ! 孤児を見捨てることはなかったのですね。
おもわず両手の指を組み、神への祈りを捧げていた。
「そうでございましたか。であれば寄付のやり方をご相談したいのですが」
「金貨50枚、置いていくのではだめなのか?」
説明を誤らないようにしないといけない。
ゆっくりと言葉を選びながら話さねば。
「実は……ご存じだとは思いますが孤児院への寄付は全てが孤児のために使われているわけではございません」
「ほう。神父がそれを言うのか?」
「はい。食料など物納でしたら孤児のために使えるのですが、聖堂に現金で寄付された場合、まず半分は手数料として聖堂の会計に入ることになります」
「半分もか。せいぜいが二割程度と思っていたのだが」
「その後、司教、神官などの手を通る度に、なぜか分かりませんが目減りしていき、最終的にはわずかばかりのお金が孤児院へ回ってくるのです」
「さもありなん。組織というものは恐ろしいものだな」
孤児に対する扱いだからですよ。
「おそらく、御使い様もその事を案じてくださったのでしょう。ですからディアマント様に直接お声がけなさられたものかと思うのです」
「そうか。私は孤児院に500万ギルを寄付すると言った。しかし、実質数十万しか孤児院が受け取らなければ契約違反となるのかもしれんな」
数十万も来ませんね。数万来れば御の字でしょう。
「御使い様の声が聞けてよかったよ。ではここで寄付をすれば問題ないのではないのか?」
そう思うでしょうが、駄目なのですよ。
「ここに500万ギルもの寄付があったとなれば、必ず回収に来られます。回収されない場合は、私がどこかに飛ばされ、仮の神父として聖堂から派遣された者がきます。そして、自由に寄付を使うことでしょう。それは神の意志に背くことではないでしょうか」
「なるほど」
「次に来る方が、孤児のために尽くして下さる方でしたらいいのですが……。あいにく、孤児院でもひどい所は」
「わかった。それでどうすればいい。私は孤児院に500万払わないといけないのだ」
孤児のために資金が欲しい私と、お金を寄付したいディアマント様。
シンプルな話が、難しいことになるのは、教会のシステムが利権まみれなせいなのですが……。
私たちはしばらく話し合いました。
「では、ボロボロの孤児院を修繕しよう。私が指定した工房へ私が直接支払いをすることにする。おそらく2~300万ギルはかかるだろう。それと布団や衣料などを揃えよう。残りは毎日食料を納めよう。月に換算すれば結構な額になるだろう? 500万ギルに達するまで何年かかっても行う。これでどうだ」
素晴らしいご提案を頂きました。ボロボロの孤児院が修繕され、長期的に食料の提供が行われる。全て物納ゆえ、本部からのちょっかいも来ない。いくらか事情は聞かれるだろうが、そこは口裏を合わせれば。
私たちは握手を交わし、契約書を交わした。




