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第32話 教会へ寄付しよう

 こ・こ・こ……こんな大金どうすればいいの~!


 私から離れたルリに向って、私は心の中で叫ぶしかなかった。


「好きなもの買ったらいいじゃん。これだけあればどれくらい過ごせるんだ?」


 周りに人がいないから、直接語りかけてきます。まあ、耳から聞こえた方が私としても落ち着くし、誰か来たって姿も見えなければ声も聞こえないからいいんだけど。


 私は心の中で大声でルリに言ったよ。


『贅沢しなかったら、一生暮らせるよ!』


「それはよかった。じゃあ半年後は贅沢しても大丈夫なお金がはいってくるね」


 そうじゃない! こんな大金、怖くてしょうがないんです。

 そうだ! あの店主さんのように孤児院に寄付しよう。そうだ。それがいい。


「ちょっと待ちな! いきなりそんな金額寄付したら、いろんなところがおかしくなるんじゃないか? それに、貧乏なルツィナが、大金を寄付しようものなら、何事かと根掘り葉掘り調べられるぞ。下手したら犯罪者扱い。でなければ、ダンジョンでのことを話すのか?」


 それはだめです。でも、これだけの収入、落ち着きません。

 なにかいいことに使わないと。


 あ~。無理です! ゾワゾワします。


「じゃあさ、教会通して孤児院に寄付する。それはいいと思うよ。ただし、今回のお弁当の売り上げの半分、金貨一枚分だけ。それならなにか聞かれても、どうにかなるだろう」


 そ、そうですね。それなら。

 金貨一枚。大金ですし。


 良いことをしたら、きっとバチは当たりませんよね。


「まあ、それで気がすむならやったらいいよ」


 少しでもお金を減らして人に役に立つのはいいことですよね。

 じゃあ、教会に行きますね。いいですよね。



 教会は貴族街に一つ、中央に一つ、下町に一つあります。私が行くのは下町の教会です。もちろん孤児院があるのも下町の教会です。


 礼拝堂でお祈りをすませ、私は神父さんを探しました。


 掃除をしていた孤児の女の子に、寄付をしたいから神父さんに会いたいと何とか伝えると、女の子は喜びながら「今、同じように寄付してくれる商人さんと話しているから、ちょっと待ってください」と、礼拝堂で座って待っているように言いました。


「神様って平等じゃないのかよ」


 ルリが不満そうに言います。教会が分かれているのが気に入らないみたいです。

 さっき宝石を売った時に見えた教会は、それはそれは絢爛豪華な外装をしていましたから。


「ここは、掘っ立て小屋みたいだし」


 そうでしょうか? 立派な建物だと思いますが。

 神様は、平民が貴族に気を遣わなくてもゆっくりお参りできるようにわけてくださっているのですよ。私はそう聞いています。


「ふうん。確かに金持ちのお貴族様の隣じゃ気を遣いそうだね」


 わかっていただけたでしょうか。

 そんな話をしていると、あわてたようにギルド長さんがやってきました。


「神父は帰ってきた? 急いで会いたいんだが」


 孤児の女の子は、「今来客中ですので、少しだけお待ちください」と私の隣にギルド長を案内しました。


「おや、弁当屋のルツィナか。どうしたんだ? お参りか」


「え、と。あまりの大金だった、ので……半分、孤児院に、寄付を……しよう、かと」


「大金? ああ、弁当100個も売れたからな。いい心がけだね。いくら寄付するつもりだい?」


「金貨、いち、枚」

「金貨? 大丈夫なのか? 仕入れもあるだろう」


 金貨、大量にありますから……。とは言えず、黙って頷きました。

 話、変えたい。


(ルツィナ、ギルド長に「なにかあったんですか?」って聞いてみなよ)


 そ、そうですね。頑張ります。


「何か、あったん、でしょうか?」


 ギルド長が、きょとんとしています。失敗した?


「ん、ああ。そうだね、ルツィナにも協力してもらわないといけないから、話そう」


 えええええ? なんか藪蛇っぽい!


「ダンジョンはね。神様の領域なんだ。だから、何か起こった時は、神が指示を出すことが多い。それを聞きに来るのもギルド長の役目なんだ」


 へ、へぇ。


「今回、ダンジョンを封鎖して調査をしているのは、ダンジョン内にイレギュラーな魔物が出たためだ。過去の事例によく似ている。それを確かめに来たのだが。まさか来客がいたとはな」


 そうですね。私の順番を譲りましょう。


「ああ、わたしに気を遣わなくともよいぞ。寄付ならすぐに終わるだろう。私の話は長くなりそうだからな」


 そうですか。それならさっさと渡して帰りましょう。


(そうしな。ややこしい話に巻き込まれたらめんどくさ……)

 どうしたの? ルリ。


(サニーのやつ、ダンジョンに魔物がもう一頭いるって言ってたよな)


 そういえばそうでした。って、この情報知ってるの私たちだけ⁈

 教えた方がいいのでしょうか?


(やめておこう。何で知ってるか教えられないし)


 そうだよね。教えられませんよね。


「どうした、ルツィナ」

「あっ、なんでも……鋼鉄の、みなさん、大丈夫、で、しょうか」


 またあんな魔物が出てきたら大変です。


「ああ。過去の事例では一頭出たら数十年は何も起きないみたいだ。今回は何の犠牲もなく終わった。実にありがたい話だ」


 そう、だといいんだけど。


(サニーがいるって言うならいるだろうね)


 そ、そうだよね。でも言えない。

 どうすればいいんでしょう! 何も知らなかったらよかったのに。


 ギィっと扉が開き、宝石商の店主さんが神父さんと一緒に出てきました。


「おや、そこにおられるのは冒険者ギルド長のハルモナ様ではありませんか」


 あ~! 店主さんが近づいてきます。


「おや、宝石商の御主人。こんな下町の教会で何をしているのですか?」


 そうだよね。あの町の人なら、さっき見えた立派な教会に行くよね。


「それがいろいろありまして。ダンジョン産の一級品の魔石宝石の取り引きに関わったものですから、神への感謝として孤児院に500枚の金貨をおさめようと思い相談にまいりました。一度に寄付をするといろいろと困るそうでしたので、何回に分けるか相談をしていたため、ギルド長をお待たせしたようで」


 ああ、さっきの話、もうしていたんだ。


(ちゃんとやってるようでよかったよ。な、一気に大量の寄付は、孤児院も困る話だろう)


 そうだね。


「ずいぶん景気の良い話だな。しかし、魔石宝石などよく出て……。待て、誰か売りに来たのか?」


「はい。なんと言いますか、迫力のある少女が」


「迫力のある少女? もしかして赤いローブを着ていなかったか?」


「ええ。赤いローブを着ておりました」


「名前は! ルナ、あるいはルナヨというのではないか」


「ああ……、名前を聞くのを失念しておりました」


「何だと、犯罪がらみかもしれないではないか」


 犯罪、関係ありません!


「いえ、あのような魔石宝石があれば、すぐに評判になり宝石商の間で一級品としてリストアップされます。きっと新しくドロップされたものであろうかと」


「新しくドロップ。そうか。まだ街にいるか。店主、見かけたらギルドに報告してくれ」


「犯罪者、なのでしょうか?」


「いや、凄腕の冒険者だ。ギルドに寄らずにダンジョンに入ったようだが、こちらとしては感謝と報酬を与えたいと思っているんだ」


「はあ」


 (ほら、離れるよ。何かヤバそう)


 そ、そうだね。


「あの……寄付しに、行きます」


「ああ、神のルツィナ、君に加護があらんことを」


「ありがとう、ござい、ます」


 私は神父さんに寄付を申し出、扉をくぐろうとした。

 その時、宝石商の店主さんがこう言ったのが聞こえた。


「おや、あの後ろ姿。さっきのお客様にそっくりですね」

「ほう」


 えっ、店主さん何を言って! それにギルド長まで興味を持っているの?


「でも、顔も雰囲気も違うので別人でしょうね。あんなにおどおどするような方ではありませんでしたし」


 バレないですよね。大丈夫ですよね。神様、ご加護をくださいませ。

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