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第31話 閑話 ダンジョンランチ(鋼鉄の剣 他)

【鋼鉄の剣 バゥイ】


 わたくしたちは、ギルドから正式にダンジョンの探索を命じられました。

 こういった調査に関しては、当たり前のように報告書はわたくしの担当になります。


 ボルクもヴィラも、こう言うことは苦手ですから。


 わたくしたちの他には、今このダンジョンの最深部を調査している『氷剣の舞』。実力では鋼鉄の剣と同等程度です。剣士と盾使いと魔法使い、それに荷物運びのポーターで構成されています。全て男性です。


 それから、王国騎士団がたまたま近くにいたため、そちらからの圧力で調査に混ざることになりました。こちらは剣士のみ。隊長が女性、副隊長が男性。あとの二人は男女一人ずつ。


 ルツィナさんの店で弁当を引き取り、いまはダンジョンの前。氷剣の舞と騎士団の方々との調整が行われます。


「我々はダンジョンに疎い。あくまで調査ということでお前たちの後を着いていかせてもらう」


 ほう。騎士団は戦わないということか。氷剣のリーダー、レドンがあきれたように言った。


「なるほどねぇ。足手まといになるよりはましな選択だな。自分の身くらい守ってもらえるならそれでいいぜ。なぁ、鋼鉄のボルクさんよ」

「ああ。あくまで俺たちでやればいいんだな。いいぜ」


 まあ、そうですね。下手に貴族の護衛と揉めるのは避けた方がいい。それに、隊長殿は高位貴族の御令嬢のようですし。


「ところで、ルナという冒険者について心当たりはないのか?」


 どこで漏れたんだか。もう情報を仕入れているのか。


「我々も遠くから見ただけで、詳しいことはわかりません」

「そうか。数少ない目撃者だと聞いたが、その程度か」


 信じていようがなかろうが、分からないものはわからないんですよ。


「そうですね。見た目は華奢な少年のようでした。声も高め。しかし、圧倒的な剣捌きで、我々の手に負えない魔物を一撃で倒したことは事実でございます」


 これくらい言えばいいだろう。余計なことは言わないで下さいね、ボルク。


「そうか。できるなら会ってみたいものだな。その実力が言葉通りであるなら騎士団に取り上げてもいい」


 はいはい。わたくしたちに関与しないのでしたらいかようにでもすればいい。


「では、作戦を立てましょう。今回は調査ですので、各階の通路をくまなく回り安全を確認することが優先です。(くだん)の魔物が出た10階層までは早めに終わるようにしましょう」


 リーダー同士話させては進まない。わたくしと氷剣の頭脳役ヤックと話を進めましょう。彼とは何度か話したことがありますから。



「しかしよぅ、一階二階程度でも全通路回るとだいぶ時間がかかるよなぁ、ボルクよぉ」

「だな」


 二階を攻略してもう午後の二時を回っています。


「では、このセーフゾーンで昼食休憩取りましょうか」


 わたくしはヤックに同意を求めました。当然合意されます。


「騎士団のみなさまもよろしいでしょうか」


「ああ。そちらの判断に従おう。我々はあくまでお主たちの後をついているだけだからな」


 ああ、少しは信用され始めているようです。彼らはダンジョンになど潜ったことがないと言っていましたし、隊長殿は理性ある方のようで助かりました。


 感情はまったく読めませんが。


 まあ、気にしてもしょうがありません。シルル、弁当の用意しますよ。


「ディスピル」


 スモールの魔法を解除して弁当6個分を元の大きさに戻すと、シルルもフェザーの魔法を解除した。


「なんだそれは?」


 氷剣の方々が騒ぎ出しました。


「おや、知りませんでしたか? 交わしの魔法スモールは物質を小さくし、シルルのフェザーは軽くするのです」


「そんな便利な魔法があるとは。なるほど、ポーターがいらないはずだ」


 ヤックが感心しています。言っておりませんでしたっけ?


「ずいぶん便利そうな魔法だ。騎士団でも聞いたことがない。お前たち二人、騎士団に興味はないか? 私から推薦してやりたいのだが」


「申し訳ございません。我々は礼儀の何も知らぬ庶民でございます故」

「それほどの言葉を尽くしながら断るか。まあいい。いつでも声をかけてくれ」


 見せたのはまずかったか? ちょっとした魔法の応用なのですが。


「そうじゃない、その匂いのもとだ。それがお前らの昼飯だっていうのかぃ」

「おう、そうよ。特製愛情弁当だ!」


 ボルク、余計なことは言わないで下さいよ。肘でつついて黙らせました。


「ちょっと、味見させてくれねぇか」

「そうですね。六つあるようですから、わたくしたちにも分けていただきたいものだ」


 ボルク、喧嘩売らないで下さいよ。


「待てよ! 俺とバゥイは二個で一食分だ。余っているわけじゃない」

「いいじゃないか。干し肉と交換してくれ」


 はぁ。騎士団も興味を持ってしまったし。ここは折れるしかないか。


「みなさまには明日の昼食から、ギルド長より弁当が支給される予定です」


「何だと!」

「ほう。それはありがたい」


「だが、今食べてみてぇんだ。おあずけはねぇだろう、鋼鉄のぉ」


 そうなるよな。


「この弁当、いくらで取引きされているか、わかりますか?」


「弁当だろ。500か1000ギルくらいじゃねぇのか?」


「2000ギルと、ダンジョンで獲得したアイテム販売量の10パーセントの成功報酬です」


 氷剣のメンバーがあっけに取られています。


「おい、ダンジョン報酬10パーセントって言ったら、20階層で三日潜って100万かせいだら」


「その通りですよ、ヤック。100万はなかなか稼げませんが、もし1000万稼いだら100万ギル払うつもりですよ」


「そんなバカな」


「1万しか稼げなければ1000ギルしか渡せませんけどね」


 騎士団の方々もあきれたように見ています。


「それほどの弁当だと理解しています。まあ、今回は特別に一つずつお売りしましょう。一つ3000ギルでいかがでしょうか。予定していた長期の探索がなくなりましたから、余裕ができたのですよ」


 ボルクが止めようとしましたが、黙らせました。買わなければそれでいいのですし。


「よし、いただこう。12000ギルでいいのだな」


 騎士団、さすがというか、余裕がありますね。


「くっ、明日から食えるなら待つか」


 そうそう。それでいい。無理することはありません。

 騎士団にだけ弁当とスープを渡し、休憩に入った。


 弁当の中身は……なんでしょう、真っ白い三角の塊が二つと野菜と肉を炒めたもの。あのお醤油の芳しい匂いが広がります。


「これは、ライスか? わたしたちは馬の餌だと思っているのだが。冒険者というものは、このようなものをありがたがって食しているというのか。なんとも不憫な」


 なんでしょう。このムッとする感情は。


「いらないなら……返せ」


 シルル、お黙りなさい。


「いいから食おうぜ。俺は信じてるからよ」


 ボルクの声に、わたくしたちは一斉に食べ始めました。

 え? ……これは……。


「「うまい」」

「「おいしい」」


 ライスと塩。それだけなのに、何と言いますか、そう、店主殿の優しさのような、そんな素朴な甘みが口いっぱいに広がります。


 勢いよく竹筒を振って、湯気が立つほどの温かいスープを飲みました。


 こちらも、塩味なのですが、野菜の甘味と肉から出たコクがあります。素朴さと素朴さが掛け合わさると、なぜこれほど幸せになれるのでしょうか。


 中の具材も柔らかくゆで上がっており、口の中でとろけます。 


 醤油味の炒め物は……。香ばしい焼き上がりが何とも言えません。肉は脂を落とした後に焼いたのでしょうか。さっぱりと、しかし醤油の旨味と塩辛さが絶妙に絡み合い、未知の領域に達しています。


 もう一口白い塊を口にしました。


 ん? 口の中でライス以外の何かが……。


 何だ、この旨味は!


 醤油でもない、何か新しい味が口の中に広がっていく。

 圧倒的な旨味とコク。醤油と似ていないけれど、同じような雰囲気を持つ、新たな調味料なのか?


 細かな肉の旨味を最大限に引き出し、なおかつ食べたことのない独特な甘さと何とも言えない風味。


 店主殿! あなたという人は! どれだけの腕と調味料を隠し持っているのでしょうか。


 一気に食べてしまいました。もう一つの塊も食べてみると……。


  こちらは醬油で味付けしたのですか! 同じ材料なのに、全く違います。

 甲乙などつけがたい。最高の料理です。


  まるで、全く色の違うルビーとサファイアが、元は同じ石であるように。


「うまい! 初めて食ったが、こんなにうまいのかライスってやつは。さすが俺のル……」


 名前出すな! 店主殿に迷惑がかかるだろう。

 俺はボルクの背を叩き、発言を止めた。


「気に入らなければ、返品なされてもよろしいのですよ、騎士団のみなさま。こいつがいくらでも食べそうですので」


「おう! いくらでも食えるぞ」

「あたしにも寄こして」

「……ボクも」


 こいつら……。まあ、いいです。


「そうだな。騎士なら、戦場では木の根を食べても生き延びなければいけない状況もある。食せ」


 部下の方々、こちらの反応を見て食べたそうにしていましたからね。ここで返すわけにはいかないでしょう。


「隊長! これは!」

「おいしいであります!」


 気品を保とうとしていますが、どうやら難しそうです。

 隊長殿は、一口一口噛みしめながら、何かを考えているようです。


 半分ほど食べた後、隊長殿はわたくしに頭を下げました。


「このような食事、王家のパーティーでも食したことがない。先ほどは失礼な態度をしてしまった」


「いえ、下々の食事、御口に合いましたこと何よりでございます」


 お前ら口をはさまないようにな。


「少し聞きたいのだが。この食事にはいくつかの効果があるようだが。まずは保存効果。数日間状態が保たれるようだが、どのようにしてこのような効果をつけているのだ?」


 バレたか?


「そうなのですか。わたくしどもは存じ上げません」

「そうか。他にも、体力と魔力が回復する効果もあるようだが。これは?」


 え? そんな効果がついているのか?


「そちらも存じ上げません。まあ、食事と休憩は気力と体力を回復するためのものですから」


 いや、本当に知らないのです。


「そうか。……まあいい。誰が作っているのだ? ぜひ会って感謝を述べたいものだ」


 引き抜こうとしているのか? ボルク、喋るなよ。


「平民の職人でございます。貴族様が会いたいなどと知らせたら逃げ去ってしまうことでしょう。それほど、平民は貴族を恐れているのですよ、騎士様方」


「そうか。まあいい。しばらくはこの弁当が味わえるというわけだな」

「騎士様がことを起こさなければ、ですが」


 ちょっかい出さないでくれよ。

 まあ、話は終わったみたいだ。これ以上この話はどちらにとってもリスクしかない。


 氷剣のヤツらが、こちらを見て物欲しそうにしている。


「なぁ、2個だけ売ってくれないか。6000ギルでいいんだよな」


 欲しくなりますよね。わかりました。

 そんなにがっつかなくとも……。明日からは人数分支給されるのですよ。


 さて……。

 騎士団に目を付けられましたね。みんな、店主殿を守り抜きますよ。


 こっそりと伝えると、みんな黙って頷いてくれました。

 帰ったら、ギルド長と相談することにしましょう。

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