第30話 宝石商
どうするんですか! こんなにたくさん干物ばかり買って。
店を出て収納にしまいながら、私はルリに文句を言ってみた。
ルリは私にしか見えない。だから対応するのが私になるのは仕方がないんだけれど、訳のわからないものを大金を払って買わされるのって、こんなにストレスたまるんだ。
「ごめんごめん。でも、絶対後悔させないから。おいしいご飯のために頑張ったよルツィナ」
そうは言ってもお金使いすぎです。
「そうだね。じゃあ宝石売りに行こう。店どこだい?」
お店。行った事のない高級商店街の中にあるはず。
「そこは冒険者でも行けるのかな?」
ギルド通さず売りに行く人もいるらしいから大丈夫だと思う。結婚申し込むのに小さな指輪買う、庶民の人もいるらしいし。
「そうか。じゃあ行こう。今誰もいないよね」
待って、フード被って壁の方を向くから。
ルリが私の中に入って、体の感じが変わったように感じた。
「じゃあ、フードは外すよ。見た目が変わったから、赤い服を着ているのがルツィナではないと誰か見ていてくれたらラッキーだし」
そんなものかな? 任せましょう。
堂々とした足取りでルリがお店に入っていった。お父さんの一張羅だから、そこまで貧乏人には見えないよね。
「いらっしゃいませ。なにかお売りにでも?」
「ああ。指輪を見てもらえるかな」
店員さんは、私、いえ、ルリを値踏みするように足元から見ています。
貧乏人ってバレているよね。
「では奥にどうぞ」
店先にいられてはイメージが悪いと思ったのでしょうか? それにしてもルリは堂々とできていてうらやましいほど素敵です。
(まあ、なめられたら終わりだからね。よくあるテンプレだと買いたたかれるからね。いくらで売りたい?)
わからないです。金貨一枚以上で売れれば、さっきの買い物が許せそうな気がします。
(はは。ルツィナらしいね)
笑われてしまいました。宝石の値段なんて知りませんよ、本当に。
ルリが指輪を一つ出しました。
「売るかどうかわからないから、鑑定にしてくれ。鑑定料はいくらだい」
「指輪なら2万ギルです。価値があろうとなかろうと変わらないですので、売ってしまわれた方がよいのではないかと思いますが」
「2万ギルだね」
ルリは躊躇なく机の上に銀貨を2枚置きました。
店員さんは、ルーペを使い、指輪の中を見ています。
鑑定を終え、店員さんがまたこちらを見ました。二度ほど指輪と私を見比べて、わざとらしいほど大きなため息を吐きました。
「残念です。こちらは一見エメラルドに見えますが、グリーントルマリンという安価な石を使った指輪になります。中古品のようなので傷も多数あり、価値としてはほとんどないと言っても仕方がないものです。庶民向けに、そうですね。売値で5万ギルですので、こちら買い取りになりますと2割の1万ギルになります」
え? 鑑定料2万も払ったのに? 鑑定書には確かにグリーントルマリンと書いています。……エメラルドとの違いが、私にはわかりません。
「ですが、お客様は初めてお越しになられた冒険者様。どうでしょう、鑑定料を無料にして、1万、いえ、1万5000ギルで取引を行うのはいかがでしょうか。売っていただければ、こちらで値付けのために鑑定したことになりますので、鑑定料を損することもございませんよ」
え? 胡散臭そうと思っていたけど、もしかしていい人?
「そうか。ありがたい申し出だが遠慮しておこう。鑑定書を渡してくれ。この店とあなたの署名入りのな」
「自ら損を選ぼうと言うのですか? では3万ギルと鑑定料の2万を返すということで5万ギルではいかがでしょうか?」
あれ? 焦っています?
「それでは、そちらが大損ではないか。母の形見だが物入りでな。少しはいいねが付くかと思っていたんだが、その値なら形見として大事にしたい。鑑定書貰って行くぞ」
ルリは指輪をはめ、鑑定書を奪い取るように手にし、そのまま部屋を出て行きます。
「お客様! お待ちを!」
大声で叫びながら追いかけてきます。静かなお店なので、みんなが見ています。
貴婦人、とでも言うしかないドレス姿のご夫人が「そこの貴方、お待ちなさい!」と私に命令しました。
「その指輪、なぜ貴方のような人が? 店長、なぜわたくしにではなくこんな娘にこの指輪を売ったのですか? わたくしに真っ先に見せるべきものではないでしょうか」
(かかった)
は? ルリさん? 何をおっしゃったのでしょうか?
「失礼ですが、わたくしから事情を説明をしてもよろしいでしょうか」
「ええ。よろしくてよ」
ルリが恭しく礼をしました。
「わたくし、この指輪を鑑定してもらいに来ただけなのです。高く売れるようなら売りたいと思っていまして」
「そうなのですか? ではおいくらで? なぜこちらのお店には売らないのでしょうか?」
ルリが店員さんを見て、それから紙を差し出しました。
「こちらが今作っていただいた鑑定書になります」
「見させて頂いてもよろしくて? ……なんですの、この評価は。どこからどう見ても最高級のエメラルド。国宝級とまでは行かなくとも、これほどの透明度と発色と大きさ。店長、どうなっているのでしょうか」
店長さん? がこちらに来て頭を下げています。
「お客様。うちの店員がなにか勘違いをしたようです。もう一度鑑定をさせていただけないでしょうか」
「いや、また銀貨2枚取られては大損だ。この店の鑑定書はどこでも通用するんだろう。それが信用ってもんだよな」
貴婦人の店長を見る目が、ゴミを見るようになっています。
「店長さん。どうやらこのお店はわたくしが贔屓にしていたことに泥を塗るような行為を行う所のようですね。このような見る目のない店員に鑑定を任せるなど、どれほど教育がなされていないのでしょうか。今後のお付き合いも考え直させていただきます」
え? どういうこと? 何が起きているの?
(つまりさ、あの鑑定した店員、わざと偽物の鑑定書を書いたんだよ。あれだけの魔物からドロップした宝石が安物のはずないだろう。安く買いたたいて、自分の懐にでもしまおうとしたんじゃないか? それを店長がご夫人から詰められている所さ」
「おい、カール。貴様にはあとで問いただす。お客様、申し訳ございません。その鑑定書お返し願えませんか?」
「やだね。一度出したものは責任があるだろう。この指輪と鑑定書、他の店で見てもらったらどうなるかな? まあ、こちらのご婦人が話したらそれだけで十分だろうけど」
「申し訳ございません。金貨、金貨2枚で引き取らせていただけませんか!」
「5枚ならいいよ。ご婦人にも言わないように説得してみてもいいし」
「50万ギル……。しかし」
店長さんが悩んでいます。ルリはご婦人に話しかけました。
「この指輪、いくらの値が付くと思いますか?」
ご婦人に指輪を預けました。
ご婦人は指輪を真剣な眼差しで見ています。執事さんもじいっと見つめています。
「これほどのエメラルドは見たことがございません。トーマス、あなたならいくら付けます?」
執事さんが困ったように私を見ます。
「そうですね。オークションに出せば……5000万は下らないでしょう。店頭価格としては、店長、どうでしょうか」
店長は間違えたらあとがないのでしょう。「お借りしてもよろしいでしょうか」と頭を下げ、指輪を手にすると右目に丸い筒型のループをかけて調べ始めました。
「これは! 魔力がこもっている。しかも大量に……魔石宝石か。店頭販売では、私でしたら1億ギルを付けさせていただきます。もし、お客様がよろしければ、二割、いえ、三割、3000万ギルで買い取らせていただきます。これだけの品でしたら、すぐに買主が見つかりますでしょうから」
「そうですね。夫を脅しても私が買いますわ」
は? 3000万ギル? なんですかその単位は?
「そいつが、2万ギルで買い取られようとしていたのか」
ルリがぼそっと言うと、店長の顔が青ざめました。
「4000万ギル、いえ、5000万ギルで買い取らせて頂きます。ハーナー様には6000万ギルでお売りさせて頂きます。そしてその中から500万ギルは孤児院に寄付し、贖罪をさせていただきます。ですから、どうかその鑑定書と噂を流すことだけはご勘弁願えませんでしょうか」
「その店員さんの処分は?」
「もちろんを詐欺を働いた者として訴えます」
もういいんじゃない? かわいそうになってきたよ。
「じゃあそれでいいや。現金で貰える?」
「も、もちろんです」
「じゃあ、すぐに用意してくれ」
え? 現金だと金貨何枚なの?
「そちらのご婦人もそれでいいかな?」
ルリが聞くと、満面の笑顔で答えてくれました。
「ええ。時価の四割引き。よい買い物ができました。もしかして、他にもお持ちでは?」
なんでわかるの?
「まあ、あるけど。これはその指輪と対になっているルビーの指輪なんだけど」
ご婦人の目が見開かれました。
「それは! お売りにならないの?」
「これだけお金が入ればもういいかな? でもまあ」
思わせぶりに何を言うの?
「半年間、このお店の悪評が流れなかったら、売りに来てもいいよ。貴女が悪評を流さない担保としてね」
「なるほど。先ほどのわたくしへの説得でしょうか。もちろんですわ。では半年後を楽しみにしていますわ」
店長さん、涙を流して喜んでいるよ。
あ、もう時間? じゃあ早く逃げましょう。
「ではまた。用事があるからこれで失礼するよ」
外に出たら、赤いローブすぐに脱いでカバンにしまいましょう。
それにしても金貨500枚って、重い。早く収納したいです。




