第28話 味噌漬け
やっと帰った。……くたびれました。
「おつかれ。じゃあ今日はなにする?」
なにする? そうね。お弁当10個の注文を受けたから、それは作らないといけないよね。
「同じ弁当で昼食用だよね」
そう。だから大変ではなさそう。問題は、材料がないってことだね。
「じゃあ買い物か?」
その前に畑の管理と、罠仕掛けたところを確認しないと。畑は放っておくとすぐに雑草だらけになるから。
「そうか。スローライフは大変だね」
毎日やっていればそうでもないけどね。まずは、家のお掃除をしましょう。
冒険者さんたちが食器とか買ってきたから、棚が賑やかになったし。
ああ、また押しかけてくるのでしょうか。
「そう言いながら、なんか嬉しそうじゃなかった?」
う~ん、どうだろう。悪い人たちじゃないんだけど。勢いがありすぎて。
「戸惑っているのと、困っているのは違うよね。嫌なのともね」
そう、だね。嫌ってほどじゃ、ない、かな?
「ま、ダンジョンに潜ったなら明日の朝までは来ないだろう」
そう、だよね。まあ、朝くらいは賑やかでも、いい、のかな?
ルリに問われてみて、私の中の気持ちがよく分からなくなった。
「ルツィナは本当にきちんとしてるね。あたしなんか毎日掃除しなかったし」
本当に私の一部なの? ルリ。
「人間、いろんな面を持っているってことさ」
そう、なのかな?
「あたしといるのつらくない? ほら、あんたのガサツなところ抜き出したような感じじゃん」
そうだね。でも、嫌って感じはないよ。どちらかというと楽しい。
「それはよかった。じゃあこれからもよろしく」
ルリが笑顔で手を出してきた。私と全く違う顔で、屈託なく笑うルリは、とても魅力的に見えた。
「ルツィナも笑えばかわいいだろうに。ほら、笑顔の練習する?」
ずっと一人だったから。表情、変わること、なかったかも。
「そっか。じゃあ、これから一緒に楽しもうよ、《《わたし》》」
そう、だね。ルリは私だし、あれ? 一人? 二人?
「半人前が二人でいいんじゃね? 足りないところ補い合っていけば」
そっか。足りない所だらけなのかもしれないね。
「そうそう。あたしズボラだしさ」
はははって笑う笑顔、本当に魅力的だ。
「ルツィナも笑って暮らせるようになろうよ。ほら」
笑顔で差し出された手を、表情が固まったままの私が取った。
「オッケー。楽しい生活の始まりだ!」
ルリの言葉に、私の口角が少しだけ上がったような気がした。
◇
じゃあ、畑に行きましょう。
そう心の中で言うと、ルリが待ったをかけた。
「お味噌。レシピ貰ったでしょ。豚肉の味噌漬け、せっかくだから仕込んでおこうよ」
そういえばお味噌とともにレシピを貰っていたんだっけ。でも豚肉はお弁当で使い切って、今はないです。
「ダンジョン産の魔物の肉で、とりあえず作ってみよう。今から仕込めば夕飯に出せるからさ」
そうなの? まあそう言うなら……。
「味噌漬けは何でしてもいいんだ。魚でやってもおいしくできるよ」
そうなんですか。新しいレシピ、期待が上がります。
じゃあ、ニジマスが一匹あるから、これも漬けます?
「いいね。じゃあ三枚におろそうか」
虹鱒の切り身と、厚切りのお肉を用意しました。
何かあるといけないから、浄化の魔法をかけて。これでよし。
「タッパーはないよね。まあフライパンに蓋をしたらいいか。使えそうなものは……油紙だね。ラップの代わりに使いましょう」
レシピにそんなこと書いていないけど?
「そのレシピ通りの道具はないし、暗黙の了解があってね。こっちの世界じゃ理解できない道具もあるんだ」
なるほど。まあ、言うとおりに動きましょう。指示してください。
「まずはレシピ通りに材料を混ぜようか」
お味噌が大さじ三杯。
砂糖が大さじ一杯。
ミリン? 大さじ一杯だけど……。
「ないのは後回しね。あるものから入れて」
え~と、日本酒?
「それも後回し」
次は、ごま油小さじ一杯。
これで全部です。
「日本酒の代わりにワインでもいいけど、まあ水分が入ればいいよね。ワインが合うかわからないし。ミリンは甘味だけどこれも水分と考えれば……。うん。水を大さじ二杯。それに少しだけハチミツ入れてみようか」
言われた通り入れましょう。それを混ぜて肉と魚に塗りました。
「じゃあそれを油紙に包んで、フライパンの中で保存しておくよ。フタをして置いておけばいいから」
これでいいんですか、では浄化の魔法を。
「待った! 浄化しなくていい! 味噌は発酵食品だから、だいじな酵母菌がいなくなるかもしれない」
え?
「完成したらかけてもいいけど、細菌は全てが悪いものじゃないんだ。どんなものにもいいところもあるんだから、全てを滅ぼしてはいけない」
そうなのですか! あっ、だから私、ヨーグルト作ることができなかったのかも。
「ああ。やりそうな失敗だね。想像できたよ」
笑われてしまいました。ですけれど、私にとっては大事な情報になりました。
味噌漬けを仕込み終わりました。次は畑に向かいましょう。




