第24話 タレ
「じゃあ、ルツィナも動けるようになったし、朝ごはんを食べよう」
ああ、ルリは元気いっぱい。私は疲労困憊ですよ。
「昨日取ったサルのお肉、絶対おいしいと思うんだよね。あれ焼くだけでいいから」
朝からお肉ですか。もっと軽いパン粥とかじゃ……だめ?
「もう、体貸しな! あたしが焼いて食べてやるから」
ええ? ちょっと待って! あれぇ~!
サニーさん~! 何とかして~!
「ルリ、10分で離れなさい」
「え~! 食べる所までいけるかな」
10分この状態ですか! 仕方ないですね。
「じゃあちゃちゃっとやるよ。肉は薄切りにするか」
お肉だけじゃなく、玉ねぎも薄く切っています。
え? 今度は玉ねぎをやすりがけに?
「おろし器がないからやすり使ってるんだろ。生姜がなかったんだっけか。しょうがないな。ニンニクと大根もおろしてと」
何作っているんですか?
「特製焼き肉のたれだよ。ごま油に白ワインを少々。味醂の代わりに砂糖? いや蜂蜜だな。そこに醤油を入れてっと。あ、胡麻もある。入れねば」
なんだかよくわからない液体ができました。
「ご飯炊いてる暇はねえしな。パンを薄く切ってっと。レタスもパンの大きさに合わせて。よっしゃ、じゃあ焼くか」
フライパンを温めて油をひきます。
「まずは玉ねぎを炒める。バターで香りをつけるよ」
細くバラバラにほどけた玉ねぎとバターが、甘い匂いを放ちながらフライパンをふるごとに舞い踊ります。
ルリは編み棒二本で、器用に料理をしています。
「箸は慣れると便利だからね。体で覚えるといいよ」
私の体ですが、不思議な指の使い方をしています。でも、本当に便利そうです。
玉ねぎがフニャッと柔らかくなるまで熱を入れると、いよいよルリはお肉を投入しました。
「ふふふふふ。我が秘伝の特製焼き肉のたれの真価、とくと思い知るがよい!」
何ですか? 急に声色を変えて喋ったと思ったら、さっきのいろいろ混ぜた液体をフライパンの中に入れました。
ジュワァァァァ―――――!
一気に泡立った液体が蒸気に変わり、様々な香りが暴力的に立ち上がりました。
ワインのアルコール、すりおろした玉ねぎの甘味、にんにく特有のくせのある辛み、はちみつのべたっとした甘さ、そしてお醤油の何とも言えない不思議な香りが食欲を刺激します。
「うはははは。幸せな芳香に包まれるがよい。貴様共はもはやこの香り無しでは生きられぬ体にしてやろう。なあ、サニー」
「だめ! やめて! ああ~!」
二人して何を言っているのかわかりませんが、本当にすごい香りです。
サニーさん、ノリがいいのですか?
「さてと、火を止めてっと」
パンの上にレタスを敷き、その上にお箸でお肉と玉ねぎを乗せました。
「ほら、サニーにもあるよ」
「私も? 食べていいの?」
「いらないならあたしが全部食うけど」
「ください! ルリ様!」
「ふはははは。我が眷属になるがよい」
「そこまでは付き合えないわ」
何がおかしいのか二人で笑っています。
「あ、あと一分しかない。とりあえず一口だけでも自分で食いたい。食べるよ、いいね。いっただっきます」
ルリは立ったまま一口食べた。その感覚は全て私と共有された。
固いパンと柔らかなお肉と玉ねぎ。しゃきっとしたレタスの葉っぱ。
一気にかみ切ると、甘じょっぱさが口に広がる。
薄いのに噛み応えのあるお肉は、特製のたれの中に濃厚な肉汁を混ぜ込み、新たな世界を構築し始める。
固かったパンはたれと肉汁に浸され、小麦の味をひきたてていく。
その濃厚な世界に、シャキシャキレタスが、爽やかな風を運ぶようにみずみずしい香気を放つ。
「おいしい!」
私の体が私に戻り、思わず声が出ていた。
私はミルクをカップに注ぎ、サニーさんと私の前に置いた。
「絶対……合うはず」
ゴクリ、と喉を鳴らし、サニーさんがミルクを見つめる。
その光景をじっと見ていた。
サニーさんが、カップを手に取り、ゴクゴクゴクとミルクを飲む。
無言のまま、もう一口パンを食べ、またミルクを飲む。
「なにこれ! 最高じゃない! お口の中がめちゃくちゃ喜んでいるわ! パンとお肉とミルク! こんなの食べたら他のもの食べられないじゃない! どうしてくれるのよ~! 最高! ああ~、明日からの食事がつまらないものに感じてしまうわ!」
「うはははは! 我が眷属になるか!」
「なるなるなる! なるから明日も食べさせて。ルツィナ様!」
「あたしじゃないのかい!」
「そりゃね。どうこき使われるか分からないし。ま、今は社畜だから眷属にはなれないけどね」
楽しそうにじゃれあっているけど……。本当においしすぎます。
「な、醤油の可能性凄いだろ。まあ、肉も凄いけどな。ほら、味わって食べな。あたしにも味が伝わるからさ」
ダンジョンの最高のお肉と、お醤油で作ったたれの味。本当に最高です。
たれのレシピ、ちゃんと聞かないと。
「え? あったもの適当に混ぜただけだから。いくらでも改良できるよ。生姜あったら入れたいし」
適当なのですか! それであれが? わからないですが、本当にすごい。本当においしいです。




