第19話 その頃のルツィナは
「これを成功させたら、お味噌が貰えるから。頑張ろう!」
って言われても! どうやって何と戦わせられるのですか!
とにかく! ローブを着て、フードを被らないと。
わたわたとしながら、髪をすべて隠した。
「あ、あいつじゃない?」
ええっ! あんな大きい魔物? 無理! 絶対無理!
「でしょうね。あんたじゃ無理!」
他の人でも無理だよ~!
その時、サニーさんの声が聞こえた。
「ルリ、あなたがやりなさい。さあルツィナ、ルリに体を預けて」
え? 体を? どうやればいいの?
「ルリ、とっとと入って」
「あ~はいはい」
え? あ? 体が勝手に。
「腕ほっそい! 筋肉が全体的に足りなさすぎる!」
そう言われましても。
「大丈夫。加護つけるから。あとで筋肉痛になるだろうけど我慢してねルツィナ」
え~! 聞いていない。
「死ぬよりましでしょ。ルリ、五分間だけあなたのイメージする動きができるようにしてあげるから。なるべく早く倒しなさい。使えば使うほど、ルツィナが後で大変になるから」
「わかった。瞬殺してやるよ」
何で私の意見は聞いてくれないんですか~! 逃げましょう。帰りましょう。
「「それは無理」」
あ~!
「あの冒険者たちを見殺しにするのかい」
それは……。
「大丈夫。あたしに任せな」
うう。帰りたい。でも、見殺しにはできない。
「倒したら味噌くれるんだろうな」
「もちろんよ。でもね、この中で一番いい武器使っても今のあなたでは倒せない。魔王の送り込んだチートだから。だから、私が武器をチートに変える。高熱の剣にするから。その剣を使えば、焼いたナイフでチーズを切るように一気に斬れるはずよ」
私は覚悟を決めて体をルリに預けた。
ルリは、剣を持った冒険者さんに駆け寄った。
「助けが欲しいか。ならば剣を寄こせ。そしてどけ!」
私の声と、ルリの声が混ざったような、聞いたことのない響きが声帯から出た。
ルリが剣を構えた。なんか剣から温かさを感じる。
「ぐわっ、熱い、何だよこれ。321どうなってるんだ!」
「剣に熱を加えたの。千度は超えた熱量よ」
「熱を全身で感じる! 持ち手が熱い! あちちちち」
そう? あんまり感じないけど。
「ルツィナは体の支配権をほとんど預けたから。意識しないと十分の一くらいしか感じないわ。ほら、そうしないと怪我した時大変でしょ」
そうなの!
「あたしはっ!」
「あなたは、そのまま感じないと逆にヤバいから。ほら、倒さないとこのままよ」
「ちっ、しかたねーなー。がまんしてやらぁ。心頭滅却すれば火もまた涼しって、やっぱり熱い!」
ルリが文句を言っている。え? こうなりゃ、役になりきってやる? コスプレ? 中二病? なにそれ? なんか不穏な感じが……。
「これが、我に与えられた禍々しい力とやらか。ならば我も運命を引き受けようぞ。見るがいい、我が剣筋を。秘儀、ファイヤー・エンブレム・アターック!」
え~~~~~! なにそのこっぱずかしいセリフ!
あっ、でも、一撃で倒した。え? 本当に?
って、なに! レベルがっ! レベルがどんどん上がっていく!
「ルリとあなたは本質的に一緒だから。ソロ討伐扱いね」
サニーさん! どういうこと?
「レベル62のマウンティングゴリラを一人で倒したんだから、とんでもない経験値が入っているはずよ」
私、どうなっちゃうの?
「よっしゃー。ジャイアントキル成功だな」
なんですか、それ!
「まあいい」
よくないです!
「冒険者助けるのが先だろ」
確かに。
さっきルリが蹴飛ばした冒険者さんは?
ルリが近寄って行って、怪我していないか確かめている。
この冒険者さん、いつも値切っているあの人だ。今日も怒鳴っていた。
え? なんで怒るの? 助けたのに。
ルリ。よく言ってくれた! そうだよ! 命大事だよ。
父さんとお弁当売っていた時、優しい常連の冒険者さん、何人もいなくなっていった。
お父さんだって……もっと長生きして欲しかったよ。
ルリが怒っているのわかる。私も、あんな風にはっきりと言えたら。
サニーさんが冒険者さんたちを地上に戻した。
そしてルリが私から離れた。
「ふう。もう無理」
私の体が、私に戻った。手、手が痛い!
「あんだけ熱いの持ったんだ。火傷もするさ」
慌てて手を見た。思ったほどひどくない。火傷にはなっていなさそう。
「ヒールかけておくわね。しばらくは痛いでしょうけど、手は普通に使えるから」
キラキラとした光が、両手の上に降り注いだ。
「ドロップ品、貰っていいのか」
「もちろんよ。他に冒険者はいないし、全部拾っていきなさい」
「やった。ゲームしていた時からリアルでやってみたかったんだ」
「魔王が送り込んだチートだからね。ドロップ品も破格よ」
ルリに指示されるがまま、ドロップ品を収納していった。金銀財宝とはまさにこの事。ダンジョン産の毒のないドロップ肉もたくさん取れたし、魔石は両手で抱えても持ち上がらないほどの大きさだった。
まあ、収納魔法があるから、問題なく持ち帰れるけど。
でも、売ることできないよね、この魔石。
「全部拾えた? じゃあ、家まで戻すよ」
サニーさんの声が頭の中で響き、私はさっきまでいた台所に戻った。




