第18話 閑話 冒険者たち(鋼鉄の剣 他)
【鋼鉄の剣 ボルク】
「はあ。今日はあの子の食事は無しってわけね」
うるせえ、思い出させるな。最初に声をかけて弁当買ったの俺だぞ。ルツィナの家に行って肉焼いてほしいのはお前だけじゃないんだ。あの料理とルツィナが時折見せる笑顔が最高なのに。なんで名前で呼んだらいけないんだ。
「……ボルク、やらしい顔、なってる」
なってねーよ。シルル、お前言葉少ないのに毒舌ってどういうことだ?
「……行くな。契約」
わかってるよ。ああ、行きたいのに。
「ボルク。私も店主殿の料理には深い分析を行いたい。だから今すぐにでも伺い、料理を食べつつ研究したいのですが、それは理性で止めているのです。君のように感情で動いてはまとまるものもまとまらない」
だ・か・ら、行くって言ってねえだろう! 信用しろよ」
「……信用? できない」
うっさい、シルル。
「ダンジョン……潜って……体力発散、しろ」
「そうですね。探索抜きに上層部を回るのはいいかもしれませんね」
「じゃあ、10階層回ろう。ドロップした魔物肉、差し入れしたら喜ぶと思うよ」
そうだな。ボーっとしてもあの子と料理を思い出すだけだ。滅多に出ない高級食材の魔物肉を差し入れして一緒に食べたら最高に幸せだよね。
「よっしゃ、行くぞ!」
俺たちは、高級食材の魔物肉を狩るため、10階へのワープポイントを目指した。
【とある冒険者】
「ちぇっ、今日も弁当屋が休みだなんて」
「本当に、気に入ってるんだな。獣人嫌いじゃなかったのかよ」
三人組のパーティで俺たちは初めて10階を巡っている。
リーダーが先頭を警戒しながら歩いている中、相棒が俺の独り言にツッコミを入れてきた。
でもさ、あの獣人の弁当、本当に美味いんだって。
「なんて顔してやがる。あんな高い弁当、しょっちゅう買うなんておかしくねえか」
そりゃレベル10になりたて、以前は一桁代しか回れなかったから金なんかたいして稼げなかったから、贅沢って言えば贅沢だけどさ。
「弁当のために飲むの控えるって、おかしくないか?」
「いいんだよ。おまえも食ってみたらいい」
「おい、なにくっちゃべっているんだ。ゴブリンがいるぞ。二体だ」
リーダーが剣を構えた。俺は、我が家に伝わる宝剣「スラッシュスター」を抜き、二体いるゴブリンの一匹を引き受けた。
実力がまだ伴っていないが、この剣のおかげで何度も命を救われた。早く剣に見合うようにならないと。
弁当、毎日買えるように。
獣人って嫌われているけど、俺は本当は気にしていない。
もっとも、あの子限定だけど。
16分の1なんて人間と変わらないだろう?
でも、仲間に馬鹿にされないように……いや、照れくさいから悪口を言ってしまう。
もっと強くなって、ちゃんと気持ちを伝えられるようになりたい。
「よーし、魔石が一つと銅貨10枚か。ぜんぜんだな。まあいい、休憩だ」
リーダーが俺たちの方を向いてそう言った。でも、その背後に、巨大なサルが見えた。
「あ、あれは?」
10階にあんなバケモノいるって聞いていないぞ。俺たちは混乱して叫び声を上げた。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
相棒が立て続けに魔法を放ったが、全然効いている感じがしない。
リーダーがつまみ上げられ投げ飛ばされた。壁にぶつかり、意識を失っている。いや、生きているのか?
「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤー……」
マジックポイントが切れた相棒に、容赦なく猿が右手で払うように手を振った。
だめだ。殺される。
「誰か、助けてくれ~!」
これ俺の最後の言葉になるんだろうか。パニックになりながら、どこか冷めた目で自分の事をあきらめていた。
「助けが欲しいか。ならば剣を寄こせ。そしてどけ!」
声が聞こえた。俺の剣を奪い去った真っ赤な服の男は、いきなり俺を蹴り飛ばした。
バケモノの間合いから外れたが、もっとやり方があるだろう!
俺は、真っ赤な男を見続けた。
「ぐわっ、熱い、何だよこれ。321どうなってるんだ!」
なにしているんだ? 緊張感がまるでない。隙だらけじゃないか。
「しかたねーなー。がまんしてやらぁ。心頭滅却すれば火もまた涼しって、やっぱり熱い!」
おい、真面目にやれ! サルがあきれているぞ。俺だけ逃げていいか、って足が動かねえ。
「これが、我に与えられた禍々しい力とやらか。ならば我も運命を引き受けようぞ。見るがいい、我が剣筋を。秘儀、ファイヤー・エンブレム・アターック!」
襲い掛かってきたサルの右腕をかいくぐり、近くに寄ったサルの首を一撃で刎ねた。
キラキラと、光の粒子に変わったサルのバケモノ。赤い服の男は俺に近寄って、剣を置いた。
って、俺の剣が溶けたようにボロボロになっている。もはや原型をとどめていない。
「な、なんて事してくれやがった! おれの剣が。我が家に伝わる剣士の魂が!」
「……命には代えられない」
「剣士の魂って言ってるだろう! 剣が壊れるなら死んだ方がましだ!」
俺の言葉を聞いて、男はわなわなと震えていた。
「なん……だって。ふざけ……るな、よ~!」
怒り狂った大声で怒鳴られた。
「助けてくれって叫んでいたのはお前だろう。なに、死んだ方がまし? だったら今すぐ死んでしまえ! お前が死んでお前の剣がゴブリンにでも拾われたらいいのか! それで次々冒険者が倒されれば本望か! 女性がゴブリンに連れ攫われても平気なのか! お前の大切な剣でよう! そんな剣など壊れた方がましじゃないか!」
……、言い返せない。
「カス、ボケ、冒険者なんかやめちまえ! 321,とっとと地上に送り返してやって。こいつらの面倒見きれねえ」
男がそう言った瞬間、俺たちは地上に戻っていた。リーダーも相棒も大怪我をしていたが、命だけは助かった。その後、俺たちは冒険者を廃業することになった。
【鋼鉄の剣 ボルク】
10階を巡っていたら、叫び声が聞こえた。
四人で声のする方に移動したら、俺たちが見たこともない巨大なサルが遠くに見えた。
「バゥイ、あれは?」
「わかりません。新種なのか、深い階層の魔獣なのか」
バゥイも知らない魔獣。一瞬で体が震えた。
バンッ、とでかい音がした。冒険者が吹き飛んで壁に当たったようだ。
「助けないと!」
「無理……諦めて」
全員が暗い表情をしている。
「それより、逃げないと。あたしたちまで巻き込まれる」
すまん。俺たちにはどうしようもない。また冒険者が吹き飛ばされて壁に当たったようだ。
「誰か、助けてくれ~!」
悲痛な叫びを顔をしかめながら聞くことしかできない。
どんなパーティだ? ギルドに報告するために、もう一度冒険者パーティがどんな奴らなのか確認しようと見返した。
赤い服の冒険者? あんな奴いたっけ?
なにかおかしな動きをしている。なんだ? 何を言っているんだ?
俺たちは身をひそめながら、赤い服の冒険者を見つめた。
勝負は一瞬だった。赤い服の冒険者が、一撃でサルを倒した。
何だったんだ、今のは?
しばらく現実を受け入れることができなかった。
誰だ? あいつは。
バゥイがふらふらと近寄りながら、彼に聞いた。
「あなたは誰ですか」
何か言っている声と重なった。が、彼は名乗った。
「……ルナ、よ~!」
まだ距離があるせいか、彼は大声で名乗ってくれた。
倒れている仲間に近寄り介抱をしているんだろうか。
彼との話は後でいい。俺たちは、倒れている残りの二人を助けることにした。
よかった。まだ息はある。
バゥイとシルルが回復魔法をかけた。なんとか命は助かりそうだ。
ほっとしていたその瞬間、俺たちに、明るい太陽の光が降り注いだ。
「……地上。戻った」
「要救助者だ! 誰か、ギルドに報告を!」
近くにいた冒険者が医者を連れてきた。あとはまかせてギルドに報告しよう。
俺は赤い服の冒険者ルナを探したが、どこを探しても彼は見つからなかった。




