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第17話 お米

 どうしよう。目の前の子、本当に私なの?


「そうだよ」


 ひっ、私、喋ってた?


「あたしはあんたなんだから、思っている事なんて筒抜けになっているんだよ」


 え~! そんなのありですか?


「ありあり! 私も喋ってないでしょ」


 ……そうなの?


「そう。よろしくねあたし」


「あ、はい」


 はい、じゃないでしょ! 本当に私ったら。でもどうすればいいのよ~! あ~! 本当にもう!


「聞こえてるよ」


 はっ、こんなことまで聞こえているの? ひゃ~、どうすればいいの? 普段妄想全開の、私の頭の中を覗かれているの? どうしよう、これからどうすればいいの!


「いいじゃないか。元々同じ人間だし、やがて交じり合うんだから」


 はぁ?


「うん。本当はね、妊娠中に魂が融合するはずだったんだ。321からあんたと別れさせられたあたしは、魔物を倒すミッションを伝えられてね」


 魔物を倒すミッション?


「ああ、冒険者を助けるといっても普通に冒険者が魔物に負ける場合はあたしたちは関係ないから。数年に一度どこかのダンジョンで、イレギュラーな、魔王の送り込んだダンジョンのレベルを無視した魔物があらわれた時だけの対応だから。それもあたしたちの担当はこの近くのダンジョンだけ。何千分の一の確率よ。一生を終えるまで来ないと思っていいわよ」


 そうなの?


「たぶんね。まあ、生前のあたしは無気力無感動無個性の塊みたいな、人生何事もなく過ごしたい人みたいだったからさ」


 えっ? 今と変わらないよ。


「321から、無理やりゲームさせられた時、世の中にこんなに面白いものが満ちあふれていたなんて! って感動したんだよね。で、ハマっちゃってさ」


 はぁ。


「あたしのほとんどを占めていた、生きるのに無気力な塊のあんたと離れたからだろうね。ラノベも読んで、漫画も見て、アニメにはまって。半年じゃ楽しみ尽くせるわけがないじゃない」


 わかりません。


「で、半年たって、『もう少し!』って言い続けたら、321も忙しかったんだろうね、あたしのことだけやっているわけじゃないから。すっかり忘れられたって話よ」


 はぁ。


「あんまり長いこと分かれていたから、かなりのところ魂の形が変わったみたいだね。融合できずにこうして分離しちまってる。321いわく、一緒に過ごしていればそのうち修復されるだろうから気にしないで、だって」


 気にしますよ!


「ということで、よろしくな。あたし」


 ああ! 私の一人生活が。


「ああ。心の中筒抜けじゃ落ち着かないよね。伝えたいことだけわかるようにセーブしようか」


 それ、できるんだったら早くしてください!


「分かったわかった。はい、これで良し」


 ふう。よかった。


「一応、私は実体がないから。見えているのあんただけね。会話すると、他の人からはあやしい独り言を言っている女に見えるから気をつけて。まあ、あんたなら心の中でしか喋らないか」


 他の人に見えないのか。それはまあ、なんていうか、安心した。


「じゃあ、あんたのこと教えて。どんな人生歩んできたの?」


 私のこと? 何も特別なことはないけど……。


 私は私の片割れに、お父さんと過ごした思い出を話し始めた。



「ふ~ん。何もない穏やかな日々。お父さんに仕込まれた料理の腕前。生前のあたしみたいね。というか、生前のあたしより幸せそうじゃない。お父さんのことは残念だけど、一人で生きていけるようになるまで一緒にいられたんだから、よかったね」


 うん。そう思えるようになったよ。


「321がぼやいていたよ。『あなたの願いが、作り置きのお弁当でも売って、他人と関わらず、お客さんに愛想を振り向けたくない。小銭稼いで本でも読めればいい』だから、転生先マッチングするの苦労したんだから。獣人の血が少しだけ混ざれば、お客さんも塩対応してくれるでしょ。本当はすぐ亡くなるはずの弁当屋の寿命を引き延ばして、なんとかあっちのあなたが育つまで生き延びさせるのに、どれだけ苦労したことか』って」


 え? 私の願い通りの生活になっているの? お父さん、私の願いで寿命が延びたの?


「よかったね。お父さんとの思い出がたくさんあって」


 ……うん。……なんだろう。涙があふれて……。


 そこから私は、もう一人の私に、言葉を口に出してお父さんの良い所を次々と話し始めていた。



 夕食を食べることも忘れ、いつの間にか寝てしまった翌朝。すっかりと心を許したもう一人の私、ルリと朝ごはんを作っていた。寝落ちする前に、彼女は私のことをルツィナ、私は彼女のことをルリと呼ぶように決めた。朝ごはんを作るといっても、ルリは何もできない。私の調理にいろいろ言うだけだ。


「へ~! 浄化の魔法って凄いじゃん。これなら卵かけごはんが食べられるね」


卵かけごはんってなに?


「卵を溶いてお醤油を少し入れてまた混ぜるの。それを熱々の炊き立てご飯にかけるとそれだけで最高においしいご飯に変わるのよ」

 

 え~っと、ご飯ってなに?


「え? ご飯、お米ないの? ライスよ」


ライス……シラミ? ああ、白い粒々の虫みたいな馬の餌?


「それよ! ラノベでよく使われていた話そのままね。いい、卵かけごはんはお醤油の潜在能力を最大限に引き出す最高の料理の一つなの。お米、手に入る?」


 うん。町にいけば。


「よっしゃあ。じゃあ食べたら買い物に行こう」


 あっ。今日は忙しいの。お弁当100個、17種類も考えて作らないといけないのよ。


「何それ、なんで? 17種類?」


 うん。


「だったら、なおさらお米が必要だね。おにぎりがあればなんとかなる」


 おにぎり?


「作ってみた方が早い。まずはご飯を食べよう」


 ルリの言う通り、黄身が半熟にした目玉焼きにお醤油をかけて食べた。

 え~! こんなにおいしい卵料理、初めてだ。

 黄身を固めないで熱を通すと、こんなにもトロトロで舌に絡みつくの?

 濃厚なコクと甘みが、お醤油のコクと辛さに交じり合って……。


 流れ出た黄身は、お皿代わりにしたパンに吸い込まれる。まるで、乾いた大地に潤いを与えるように。


 初めにザクっと固いパンの歯ごたえと麦の香りを味わい、卵で柔らかくなった濃厚な箇所までたどり着くと


 ふわぁっと、大地の恵みが私の口の中でもたらされた。

 一斉に芽吹いた種が、茶色の大地を緑に変えるように、夕立が砂埃を消し空気を清浄に変えるように。


 でも、出てくる言葉は一つだけ。


「おいしい!」


 目の前のもう一人の私が笑っていた。


「あなたが食べると、あたしにも味や歯ごたえが伝わるの。感情もね。よっぽど感動したみたいだね」


 ばればれだったの!


「いいじゃない。あたしもおいしく食べられるんだから。食後はコーヒーがいい。淹れて」


 ミルクと砂糖を入れたら、「あたし、ブラックがいいんだけど」と怒られました。ブラックコーヒー、苦手なのです。



 ダンダンダン。戸を叩く音がする。


「今日もやってないのか! 弁当買ってやろうと出向いたのに!」


 あ、いつものまけろの人だ。


「なにあれ?」


 なんだろう? 常連さん?


「ああいうのはクレーマーって言うのよ。体貸しな、ぶん殴って黙らせてやる」


 わ~、いいから! 居留守使うから!


 専属契約だから、お弁当屋はどうすればいいんだろう。ギルド長に相談しないと。

 やっと去っていった。

 冒険者さんたちに見つからないよう、畑仕事を少しだけした。


 お米を買いに町まで行った。ルリは、町を見ながら「わ~、本当に異世界だ。すご~い」と喜んでいた。


 私は、父の形見のダボっとした赤いローブを着てフードを被り存在感を消しているのに、とにかく話しかけてくる。


「ねえ、あそこの店は何なの?」


「野菜とか、日本とそんなに変わらなそうね。味は同じかな?」


「え、大根おろしをやすりでおろしているの? おろし金ないのか!」


 次々と言葉にして感想を言うルリ。その都度、私の頭は言われた所を見るために動いてしまう。まるで初めて都会に行ったお上りさんのように。


 目立ちたくないのに。


 早く帰ろう。


「待って、あの編み棒買う。竹製だよね。あの細さお箸にちょうどよさそう」


 オハシ、ってなんだろう。まあ、早く帰ろう。人ごみ苦手だし、お弁当作らないと。


 帰り道、日本の国のお弁当の常識を教えてもらった。100個作るのに役に立つ情報が満載だった。でも、キャラ弁? そんな手の込んだことよくやりますよね! なんで?



「まずはご飯を炊く準備をしてからよ。幸いジャポニカ米みたいだからよかったよ。まずはよく研いで吸水させないと」


 研ぐってなに?


「水洗いの事だけど、お米の場合は研ぐっていっている。まずはお米を量ろう。秤ある?」


 グラム図るのとキログラム量るのあるけど。どっちがいいの?


「そうだな。一合確か150グラムだったから、この鍋の大きさだと六合は行けるね。900グラム量りたい」


 じゃあ、グラム秤でいいか。


「そうそう。それを一旦鍋に入れて水を注ぐ。そうだね、同じ量ぐらいでいいよ」


 これくらい、かな?


「水を入れて、手で円を描くように混ぜ合わせる。ほら、白く濁るだろう」


 シャカシャカと音を立てて米同士がぶつかりながら透明だった水を白に変えた。


「これが糠。ざるに上げて水を切る。これを三回繰り返す」


 だんだん白さが薄くなっていったね。


「そこに水を入れる。お米の重さ1に対して大体1.4倍の水を入れるんだ。900グラムだから4×9=36。900に360を足して1260グラムだね」


 え? 早い。計算合っている?


「水の量で固さは調節できる。固さは好みだけど、まずは普通に炊いてみよう」


 計算を確かめたら確かにあっていた。細かいからグラム秤を二回使って水の量を決めた。


「このまま、三十分以上置いておくんだ。米に水を吸わせるんだ。夜に仕込んで一晩おいておくのも大丈夫」


 なるほど。時間が大切なのね。


「じゃあ、待っている間に他の仕込みをしようか。ここからはルツィナの番ね」


 そうね。まずは下ごしらえから始めないと。味付けは後でそれぞれつければいいから、まずは野菜と肉をまとめて煮込みましょう。


 野菜の皮むきを始めた時、


「ルツィナ、ダンジョンに魔王の放った魔物が出たの! 今から転送するから!」


 って声が聞こえた。


 待って! 武器は? 戦い方なんかわからないよ~!


「武器は冒険者の持っているものを使いなさい」

「ルツィナ、目立ちたくないんだろう、さっきのローブを羽織って!」


 言われるがままにローブを羽織った瞬間、私はダンジョンの中に移動していた。


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