第16話 新しい私
これから夕食を作って欲しい、という冒険者さんたちをなんとか断って、私はひとりで家に帰った。
お弁当100個分? 六日間の食事?
初日は二食、2種類。二日目から五日目までは三食、12種類。六日目は二食、2種類。計16種類のお弁当を4人分だから64食で足りるはずなのに。
「女子と同じ量で足りると思っているのか? 男子は一度で二つくらい食えるぞ」
って何なの! 32食プラスして96食。のこり4つは万が一の予備? 帰ってから食べるからって。
予備も含めて17種類のお弁当を考えるだけでも大変じゃない! どうしたらいいのよ!
でも、ギルド長が言っていた、「死と隣り合わせのダンジョン」って言葉が忘れられないまま心に残っている。
「栄養だけではない。安らぎや満足感、体を維持する栄養。気力の充実。そう、希望が詰まっているのだよ、君の弁当には」って言われた時、なにか誇らしさと責任を感じたんだ。
私みたいなダンジョンに潜らない、安全な所で採集している、なんちゃって冒険者と違って、命かけているんだよね。そんな人たちの役に立たないと。
手を抜いてはだめだ。束の間の食事の時間を、楽しめたり安らぎを与えられるようなお弁当を作りたい。
いままで手を抜いていたわけじゃないけど……。誰かのために作りたいと思ったのは初めてかもしれない。
心の友の魔法使いさんのために頑張ろう!
帰り道、そう思いながら歩いていた。
◇
冒険者さんたちが買ってきた食材を見ながら、お弁当の構想を練った。
100食を持ち歩くのは大変だろうと思っていたんでけど、さっきギルド長のところで教えてもらえた秘密のおかげで心配はなくなった。
心の友の魔法使いさん……名前何だっけ? まあいいや、魔法使いさんの補助魔法がすごかったの。
重量を無効にする重力の魔法、フェザーを使える数少ない魔法使いさんなんだって。だから重そうな鋼の防具を纏ったまま移動できるし、長期間の探索もできるんだって。鋼の剣は、戦う時だけ重さを戻して使うって言っていたよ。
それでパーティの名前が二つ名みたいな『鋼の剣』になったみたい。
安いし、頑丈だからってリーダーさん笑っていたけど……。
凄いのは魔法使いさんだから!
ああ、心の友じゃなくて、本当の友達になれないかな。
言ってみたいけど……断られそう。
「……無理」って言いそう! いや、きっと言うに違いない。
お弁当屋とお客様の関係を崩してはいけないのよ。
心の友でいいじゃない。それ以上何を望むって言うのルツィナ。
心の友のために、心のこもったお弁当を作るのよ。それが私にできること。
「なにくだらないことを考えているのよ。やっと一人になったのに」
え? あっ、サニーさん?
「321もいるけど、目の前を見なよ」
言われたまま目を凝らした私の前に、見たこともない黒髪の異国の少女が立っていた。
「ええと……あなた……は?」
「あんたに欠けたあんたの一部。あ~説明めんどい。サニーに聞いて。大体がサニーのせいだからさ」
え? は? どういうこと? 私の一部? なにそれ? サニーさんって、なんか偉い人の奴隷、じゃない、眷属? みたいな? この世界を管理している神様みたいな? そんなに偉い感じしないけど。なんかすごい人だよね。
「えらく高速で考えられるのに、話すのは下手くそなんだな。はぁ。それもこれも321のせいだからな。ほら、説明しなよ」
「あ~! こんな風に育てるつもりじゃなかったのに~」
あっ、サニーさんの声がする。
「聞こえる? 聞こえたら返事して」
「聞こえて、います」
「そう、よかった。どこから説明しなきゃいけないんだろう。まあいいや、最初からね」
「はい」
サニーさん、説明詳しくお願いします。
「あなたは、地球という別次元の異世界で事故により死んでしまった女性の転生者です」
転生者って言葉は初めて聞くけど、なんとなく理解できた。
「理解できたでしょ。だってあなたの魂が覚えているからよ。ルツィナ、あなたの魂はとっても純粋だったの。だから、勇者か聖女になって欲しかったのよ。上司のウケがいいからね。ごめん、あの頃社畜として洗脳されていたから」
ああ。サニーって名前つけた時のことを思い出したよ。
「それでもスローライフを望んだあなたに、冒険者を助ける条件だけで丸呑みしたよね。私頑張ったよね」
ごめんなさい。記憶に残っていません。
「あなた、生前から欲が薄く、ラノベもゲームもやっていない、浮世離れをした人だったじゃない」
覚えていません。ラノベって何ですか?
「だから私はいろいろ考えました。この世界でダンジョンに潜って冒険者を助ける条件が、あなたに死を与えるミッションになったら困ると思ってね」
死? ダンジョン怖いですよ。
「だから、生前のあなたにあった、プライドとか、隠れた攻撃性とか、わがままな所の人格を選んで隔離して」
はい?
「別の空間で、ラノベを与え、RPGやアクションゲームをやらせたのよ」
ごめん。何言っているのかわかりません。
謎の少女が声を出しました。
「321から与えられたラノベやゲーム。あんなに面白いもの、なんで生前にやったことがなかったんだと、本当に後悔したよ。いや~、すっかりハマっちゃってさ」
何言っているんでしょうか? ほら、サニーさんもあきれていますよ。
「ダンジョン攻略の参考になればって与えただけなのに。なんで16年もハマり続けるんですか!」
「だって新作、次から次に出るし。クオリティは上がり続けるし」
「チュートリアルで辞めて良かったんですよ!」
二人でなに言い合っているのですか? まったく理解できないのですけど。
「ふう。そうね。ルツィナ、あなたが今達観しているのは元々の魂の影響もあるんだけど、さらに攻撃性がかすかにあった魂がこうして分離しているからなのよね」
うん……無くていいかな。
「でも、あなたを転生させる条件に、魔王の放った魔物に殺されそうな冒険者を助けるって条件があるし、年齢が満ちたから、いつそれが起こるか分からないから」
はぁ?
「明日にでもダンジョンに飛ばされて戦える?」
無理! 無理です!
「だから、あなたから切り離されたこの子をあなたが取り込まないといけないのよ」
ええ~! 黒髪の子が私に言います。
「あ、ちなみに今見えていて話せるのは、ルツィナだけだから。馴染んで受け入れられるようになったら、あたしはあなたと一体になれる。その時初めてルツィナが本当に完成するの」
意味が……分かりません。
「魂が分かれすぎる時間が長くてなかなか混じることができないと思うけど、よろしくね、私」
サニーさん! 説明して! 訳がわかりません!
「説明よりも早く慣れてね。その子とはしばらくはこうして見えて会話できると思うけど、やがて一体化したら消えるから。頑張って。ああ、もう時間が! じゃあ、次の機会で! またね」
「じゃあ、よろしくね私」
目の前にいるの、本当に私なのですか?!




