第15話 契約
「商業ギルドとはどんな契約になっている?」
ギルド長が聞いてきたけど、契約も何も……。
「商業……ギルド、には、登録……して、いません」
だって、お父さんでも受け入れてもらえなかったんだから。商業ギルド。
「それは、獣人とのミックスだからか?」
「……はい」
ああ、冒険者さんたち、そんなに怒らなくても! 私は大丈夫ですから。
「ふはは。そうか。それで冒険者ギルドにはもちろん登録しているんだよね、ルツィナ」
「はい」
「君は何を望んでいるんだ? 金か? 名声か?」
「私は……、たまに贅沢、できる、くらいの……そんなになくても、安心して、過ごせる、それ、くらいの、収入と、安らかな時間が、あれば、いい……です」
忙しいのは嫌です!
「がむしゃらに売り上げを伸ばしたくないと?」
「一日10個くらい、お弁当、売れたら、いい、です」
え? ギルド長さん、なんでニヤッとわらっているの?
「だったら話は早い。ルツィナ、君は鋼鉄の剣と専属契約を結ぶがいい。100個近い弁当を用意するなら他には売れないだろう」
「は? どういう、こと、ですか?」
「六日分の弁当があれば、ダンジョンに潜りっぱなしだ。帰ってきたらしばらく休みを取るのが普通だ。月に三回ダンジョンに行くなら300個。一日10個のノルマは達成だ。それと、私にも毎日弁当を届けてくれ。それならプラス30個月々売れるだろう。そうすれば、こいつらが潜っている時は仕事がほぼなくなる。安らかな時間を確保でき、好きなことができるぞ」
「おっ、いいアイデアじゃねえか!」
「ハルモナ、あんたいいアイデア出すじゃない! この子の料理が食べられるならそれでいいよ。ね」
「私からもお願いします。ぜひ契約を」
「ボクも、賛成。だけど……値段……いくら? 赤字は、出せない」
え? なに?
「確かに、あんまり高いのはよしてくれよ」
「美味しいからリーズナブルで毎日食べられたら最高なんだけど」
「ですが、ギルド長いわく、金貨一枚の価値があると仰っておりましたし」
「金貨一枚……10万ギル。100個で、1千万ギル。無謀」
ひ~! そんな大金怖いです!
「だから、専属契約を結べと言っているんだ。そもそも弁当一つ1000ギル程度で売ろうとしていたんだ。100個10万ギルで契約。これには保存魔法をかけていない弁当も含めばいい。どうせ三日は浄化の魔法で安全に食べられるんだ。順番間違えなければいいだけだろう。その他に成功報酬をつけなさい」
「「「「成功報酬?」」」」
え? なに?
「お前らが潜って稼いだ金額の10%を払えばいい。弁当のおかげで探索は進むだろう? 保存食たべているだけじゃ、長期のダンジョンアタックは非効率だ」
え? どういうこと?
そんな表情を読まれたのか、ギルド長が私に説明してくれた。
「ルツィナにはわからないみたいだね。いいかい、ダンジョンに潜るというのは、死と隣り合わせの行為なんだ。ただでさえ神経も体力も消耗する。それはわかるね」
「はい」
「その中で長期の滞在。干し肉やチーズなどの保存食だけじゃ、心も体も維持できない。そもそも野菜なんか手に入らない」
確かに。
「そんな所で、この弁当あったらどうだ? 栄養だけではない。安らぎや満足感、体を維持する栄養。気力の充実。そう、希望が詰まっているのだよ、君の弁当には」
そんな、おおげさな!
「そうだよ! 夢も希望も詰まっているんだ! ルツィナの弁当には!」
リーダーさん、暑苦しい!
「あたしのために、契約して!」
あ、圧が!
「店主殿。効率的に、私たちにはこの弁当が必要だ」
効率?
「信じてる……作るよね」
ああ~、魔法使いさんに言われたら……断りづらい……
「私の弁当はその都度食べるから保存魔法は必要ない。さあ、契約を」
え? 私の意見は聞いてくれないんですか?
「何か言いたいことは?」
「あ……ありません」
あああ~。何で断れないの私! 言いなりになってしまったよ~!
「あ、でも」
「「「「何?」」」」
「ひっ、あ、あの、明日まで100個は無理……です。今から、仕込んでも間に合い、ません」
だって、仕込もうと思っていたのに、肉を焼き続けて、それも食べつくされたんだし!
「どうする?」
「そうねぇ。ない袖は振れないわよね、店主さん」
「明後日まで待つのが正解ですね」
「それで……いい。店主に、迷惑かけない」
よかった。わかってくれたみたい。でも……。
「それから、明日は、絶対に、お店、来ないで……ください」
「「「「えっ?」」」」
えっ、ってなに? やっぱり来る気だったの?
「それじゃあ、明日の飯は」
「……普通に、町の、食堂」
「え~。店主さんの焼いたお肉食べたかったのに~!」
「わたくしも、調理法を研究に」
「……来るなら、契約……しま、せん」
言えた! 頑張ったよ私!
ギルド長の説得もあって、明日は一人で仕込みです。
ああ~よかった。これで一人時間に戻れます。




