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今宵も星は、黙して灯る  作者: 若絵真 宙
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出生

昭和26年、四国の片田舎に産声を上げた(ショウ)は、6人兄弟の末っ子として、まさに蝶よ花よと育てられた。

終戦後の好景気に乗り、紳士服の仕立て屋を営む父親、峰岸 一郎その商売は順風満帆。

家にはいつも活気が満ち溢れ、昭は何不自由なく、のびのびと成長していった。

一郎と8歳も年の離れた優しい母親は、昭にとって心の拠り所であり、甘えん坊の末っ子をいつも温かく包み込んでくれた。

しかし、その穏やかな日常の底には、誰も知らない秘密が横たわっていた。


昭のすぐ上の兄、英一は、母親が父親と結婚する前に付き合っていた警察官の子供だという事実。

その真実を知る者は、この家には誰一人いなかった。

昭にとって、英一は年の近い遊び相手であり、頼れる兄であり、特別な存在だった。二人はいつも一緒にいた。

裏の小川でザリガニを捕まえ、夕焼けの空の下で秘密の基地を作り、時には兄弟喧嘩もした。英一は少し無口で、昭のように感情を表に出すことは少なかったが、昭は英一の深い優しさを誰よりも感じていた。


やがて昭が小学校に入学し、活発な少年へと成長していく一方で、英一は思春期を迎え、どこか陰を帯びるようになる。

学業も優秀で、人望も厚かった英一だが、時折見せる物憂げな表情に、昭は漠然とした不安を覚えることがあった。

それは、成長するにつれて、英一が父親と顔が似ていないことに気づき始めたからかもしれない。


昭の子供時代は、まさに遊びに満ち溢れていた。

当時大流行していた赤胴鈴之助に憧れ、父親が作ってくれた模造刀を手に、近所の空き地を駆け回り、チャンバラごっこに明け暮れる日々。

土埃にまみれ、額に汗を光らせながら、悪者を退治する正義の味方になりきっていた。

そんな昭の傍にはいつも、少し照れ屋で、それでも楽しそうに付き合ってくれる英一の姿があった。

昼間は元気いっぱいに遊び回った昭にとって、夜は特別な時間だった。

一日遊び疲れて眠りにつく前、兄の英一と一緒に同じ布団に潜り込み、ぎゅっと抱きしめ合って眠るのが何よりも楽しみだったのだ。

英一の温かい体温が、幼い昭に安心感を与え、心地よい眠りへと誘った。

兄弟の深い絆は、そんなささやかな日常の中で育まれていった。

昭にとって、英一は単なる兄ではなく、心から信頼し、甘えることのできる存在だった。


しかし、その穏やかな兄弟の情愛の裏には、いつか露呈するかもしれない秘密が潜んでいた。

警察官の血を引く英一の存在は、まるで静かに時を待つ時限爆弾のように、家族の未来に影を落としていたのだ。

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