05. 二人の距離
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それからしばらく魔法図書館に通った。
多分「集いの仲間」程度には認定して貰えていて、ほぼ毎回リスタに手伝いを頼んでも変に思われてはいないようだった。
リスタに探して貰うのは変わらず古い魔法書だったが、わたしは少しだけ、他の本も読むようになった。
最初はリスタが読んでいた本を後追いで読ませて貰っていたのだが、その内お薦めの本を尋ねたり、自分から希望を出すようにもなった。
動機の大部分は共通の話題が欲しかったからだが、目的を果たす前に少しだけ―――――――もう少しだけ、人間らしい時間を過ごしたいと思い出していた。
急ぐ必要は、なかった。
本を読み合うようになって驚かされたのは、リスタの教養の深さだった。
睡眠が要らない魔法図書館の職員にとって、図書館が閉館した後の時間は長いと言う。夜の間にリスタは大量の本を読んでいて、五百年図書館で過ごす間に、彼女の知識は凄まじい量になっていた。
リスタが「魔法図書館の魔女」と呼ばれているのは、長く図書館にいることだけが理由ではなかったのだ。
そんな教養の深さもあって、リスタが平民出身であると知った時にも驚いた。彼女の立ち居振る舞いは気品に満ちていたが、それは生まれつきなのだと知った。
どこの国にも身分は高いのに、品のない人間はいた。生まれた階級の問題ではないのだと思う。
もちろん仕事で図書館に行けないこともあり、リスタが他の来館者に対応している時もあった。それでも週に一度も話さないと言うことはなく、わたしはリスタの色々な面を知るようになった。
乱読家のリスタは、読む本の種類を問わなかった。
小説の登場人物について語り合った時には、珍しく熱を込めて喋る彼女につい笑ってしまった。物理の本を読んでいた時には驚き、貴族の家紋がただ延々と収録されている本を彼女が眺めていた時には、困惑した。
いつからそうでなくなったのかもう思い出せないが、自分もずっと昔は種類を問わずに本を読む方だったので、リスタに薦められた本は何を読んでも楽しかった。
本を読んでは感想を伝えたり聴いたりしながら、やがて少しずつ、わたし達は個人的な話もするようになっていった。
リスタが生まれた国のこと。彼女が最近応対した来館者のこと。絵本のこと。わたしの仕事のこと。
少なくともわたしとリスタは、「図書館の職員と来館者」というだけの関係ではなくなっていたと思う。
自分が一番リスタと親しい。そんな風に思い出していた。
もう「絵本の会」の人達よりわたしの方がリスタと親しいと思ったし、リスタに「絵本の会」の他に懇意な関係があるとは思っていなかったのだ。
だがその日図書館に行くと、リスタが他の職員と談笑していた。
職員同士でも同じ相手と続けて会うことは少ないと言う魔法図書館で、その老紳士とリスタが話しているのを見るのは三回目だった。
以前の二度はそれほど気にならなかったが、三回目はさすがに偶然ではないと気が付く。
髪は真っ白だったが、見栄えがする老人だった。高齢なのにすらりとしていて、リスタと並ぶと、二人はまるで長年連れ添った夫婦のようだった。
息が苦しかった。
彼はリスタより数百年も年が下かもしれないのに。
わたしの方がリスタと年が近い筈なのに、わたしとリスタは並ぶと親子よりも年が離れて見えた。