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46. 不老不死の解呪の宝珠

「なぜ……」



喉から押し出された声は奇妙に掠れていた。


霧の森に閉ざされた白い迷宮。

一番必要な魔道具は手に入らない魔法でも仕掛けられているのか。


五百七十年を掛けてここまで来たのに。


叶わないのかもしれない。



絶望感で苦しくなった、次の瞬間。



それ(・・)に気が付き、雷に打たれたかのような衝撃を覚えた。



魔道具の気配がある。


迷宮の外なのに。




まさか




視線がそこに吸い寄せられる。


全てがあまりに予想を超えていて受け止めきれなかった。そこに凍り付いたまま数秒、息も出来ない。


そして唐突に状況を理解すると、今度は痛い程に激しく心臓が打ち始めた。



まだ見つかっていない魔道具は一つだけだ。



真正面。広い床の反対側。レベルゼの名が刻まれた祭壇から魔道具の気配がする。


よく見ると、何か小さなものがその上に載っている。迷宮に入る前には何もなかった筈だ。



懸命に自分を落ち着かせた。



これが最後の魔道具―――――――――――この勝負をくぐり抜けなければ、終わらない。



魔法書を読み漁っては、古い時代の魔法や罠の知識を吸収してきた。そして知識を吸収しては魔法と技術を自分で更に進化させてきた。魔法書でれる範囲を超えて来るだろう、レベルゼに備えるために。


レベルゼに挑めると思えるまでに、そうして六百年近くが掛かった。


あらゆる種類の罠を想像し、魔法の気配を探る。



だが―――――――――――――



祭壇の上の最後の魔道具と入り口の鍵となっている魔力をそそぐ場所以外、魔法の気配がない。いや、ほかに迷宮の周囲の広大な範囲に掛けられた人を退ける魔法があるが、それは挑戦者を絞るふるいだ。


それ以外に罠となる魔法の存在を感知出来ず、なんの攻撃も受けないまま時が過ぎている。



「………」



足を踏み出す。


わずかな異変にも反応出来るよう神経を研ぎ澄ませながら、一歩一歩、ゆっくりと歩いた。


迷宮の入口の神殿は扉の広間と相似形を成しているが、広間程巨大ではない。

距離の半分を過ぎると、祭壇の真ん中に載せられているものがはっきりと見えた。



「――――――――――――――――」



胸がどくりと波打つ。


初めて見る魔道具だった。


金細工の小さな台座に嵌め込まれた、半透明の小さな丸い石。



――――――――――――――「解呪の宝珠」だ。



あとほんのわずかな距離。耐えられる限界の緊張に耐え、そのわずかな距離を詰めて行く。


一度の罠の発動もないまま、そして宝珠が目の前に迫った。



その時。



「――――――――――――――――――――――――」







解呪







体から力が抜け、その場に膝を着いた。





今。




解呪された。





今確かに、自分のものではない魔力が体の中を走った。




あっけなさ過ぎる幕切れに気持ちが追い付けなかった。

一瞬魔力を感じた以外は体に変化もなく、実感も持てない。




これで――――――――――――――――――

これでわたしとリスタは――――――――――――――――?




感情が溢れ出して何も考えられない。


激しい動揺の奥で、心のどこかが警告を発していた。



何かがおかしい。


なぜ迷宮の外に出された。


なぜなんの罠もない?


ほかの魔道具は。



「からくり小箱」と「解呪の宝珠」以外を欲しいとは思わないが、回収したほかの魔道具はどうなる?もう一度扉の広間に戻らなければならないのか?



自分を落ち着かせようと深呼吸を二回繰り返す。




リスタ――――――――――――――――――――――




今どんな状況にいるのだとしても目指す結果は一つだ。



帰らなければ。



無事に彼女の許へ帰るまで、目的を果たしたことにはならない。もう不死ではないのだから、一瞬たりとも気は抜けない。


三回目の深呼吸をし、そこから更に時間を置いて、わたしはようやく立ち上がった。


五百七十年求め続けた魔道具を手にするために。



慎重に残りの数歩を歩く。


そして遂に、わたしはその前に立った。



つたの浮彫りが施された祭壇。やはりなんの罠の発動もない。


震える手を伸ばす。両手だったが、数百年を掛けて辿り着いた魔道具は片手にすっぽり収まるくらいに小さかった。



頭に古代の言葉が流れ込んで来る。




不老不死の解呪の宝珠――――――――――――――――――


三ペディウス以内の距離まで近付けば、不老不死の呪いを解除する。




わたしは……わたしは人間に戻れたのか。



そう思った瞬間。空気がびりびりと揺れた。



「!!」



はっと身構える。柱と床が音を立てながらひび割れ、生贄を嘲笑うかのように砕けた。


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