45. 解呪の場所
「………!」
見えている景色が受け入れられず、呼吸が苦しくなる。
まさか。
弾かれるように後ろを振り返った時、手から二十六個目の魔道具が滑り落ちた。
カシャアァァァァ……ン!
壊れ物のような音がしたが、構わなかった。たった二つの魔道具以外、わたしは必要としていない。その内の一つは五百七十年間追い求め続けてきたものだ。
だが視線の先に、巨大な取っ手に巻き付いた鎖があった。
「なぜ」
巨大な扉に囲まれた巨大な円形の空間。
それぞれの扉の前にそこで回収した魔道具が置いてある。自分が置いた通りに。
何も置かれていない扉は一つだけだ。
「―――――――――――――――!」
今度はその場所を確認するためにばっと振り返った。
最後に入った筈の扉―――――――――その扉の前だけ、確かに何もない。
一縷の望みが、現実に容赦なくねじ伏せられていく。
最初の広間だった。最初の広間の中央に戻されている。
なぜ。何を見落とした。
もう全部の扉に入った。
二十六個目を回収して―――――――――なぜここに戻される!!
五百七十年の呪いを解かなければ、わたしは人生を取り戻せない!!
息が苦しい。
何か手掛かりはないのかと周囲を見回すと、今落とした魔道具が回収した時の姿のまま床に転がっていた。磁器製と思えたが、強化魔法が施されているのか欠けもしていない。
「………!」
ガシャアアアンッ!!!
それを拾い上げて床に叩き付けた。石の床の上で混じり気のない音が立つが、やはり魔道具は壊れない。あった筈の血溜まりは予想通りに消えていて、白大理石の床にはなんの濁りもなかった。感情の行き場が見い出せない。
何が「破壊の仮面」だ!!こんな危険な魔道具、人手に渡って何に使われると思った?!!
レベルゼに抱き続けた幾つもの怒りが火となって体内を逆巻く。
その時。
ゴウ……ン………
空間が低い唸り声を上げた。
「?!」
はっとして身構える。
突然、白い神殿の中の明るさが増した。
「………!」
光源に気が付いて自分を保護魔法で包みながら床を蹴り反転する。
十枚目の扉。
六つ目の扉と、鎖で印を付けた五つ目の扉の間。
神殿の入口があった筈の場所の壁が消えており、全面が白く光っている。
現れたのは十枚目の扉だった。
「―――――――――これが……」
これが最後の扉。
予想していなかった存在に圧倒される。
巨大な光の扉に向き合い、ただ立ち尽くした。
「―――――――――――――――――」
どれだけそうしていたのか。
一度背中から鞄を降ろした。
リスタ―――――――――――――――――――
生成りの鞄を抱き締める。リスタを想わせる物を、他に何も持っていなかった。
数秒だけそうして、背中に鞄を戻す。
カンッ…………
足音が響いた。
広い空間を横切り、わたしは歩いてその扉を潜った。
最初に感じたのは冷気だ。
気温が急激に下がる。風が頬を撫でた。
「――――――――――――――――――」
全身からザッと血の気が引く音がした。
即座に戻ろうとしたのに扉がもうない。
嘘だろう。
九本の柱の神殿。正面に祭壇が見えた。
迷宮の外だ。