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43. 最後の魔道具

出口を失うかもしれない。



よぎったのは一瞬の恐怖だ。


上からは小さな点としか見えなかった光は近くで見ると両手で抱えられないくらいの大きさがある。

全体的に白く光っていて、これがきゅうなのか平面的な円なのか判別し難い。

不思議な物体だった。


それが数えきれない程に大量に、左から右へと動き続けている。あの時は分からなかったが、この光は渦を巻いているのだ。


今その側面から中心に向かって突っ込もうとしている。


「―――――――――――!」


音速を超えると周囲に激しい衝撃が生じることは分かっていた。ただこの光はその衝撃にも耐えるのだろうとわたしは勝手に思い込んでいた。


光の一つ一つ―――――――おそらく全てが、挑戦者を転移させるわなだったからだ。


この光の中のどれかが迷宮の外に繋がっている。



――――――――――――速度を落とすと捕まる。



やいばではなく、光に。



光の扉はただ大量に散らばって動いているというだけではない。近付くと強烈な力で挑戦者を吸い寄せて、呑み込んでしまう。


降って来るやいばも吸い寄せるので、運が悪いと体を切断される。


あの時の仲間もここで四人が命か手足を失った。


当時のわたしの力では、自分や仲間を守り切れなかった。



最終的に、だが五人が脱出を果たした。


今の速度で視認することは出来ないが、この「扉」は光の中に向こう側の景色が微かに見える。五百七十年前、何度か扉に捕まりかけた末にその中の一つに外の景色を見付けたのだ。


外への扉が幾つも用意されていたのか、それともわたし達が途轍とてつもなく幸運だったのかは分からない。



「………」



恐怖が冷気となって胸を這い上がる。


躊躇はあった。唯一知っていた外への脱出口だ。



だが迷ったのは一瞬だけだ。




ごうっ…………!!!




炎の膜の向こうで白く光る円が次々と砕けていく。


速度は落とさなかった。罠の方が砕けていくので、もうそれを回避する必要もなかった。



この渦を突破しなければ届かない。



逃げ道を残しておくことはやめた。


魔道具の気配はまだずっと先にある。



人類史上最強の魔法使いが造り上げた光と闇の中をただ真っ直ぐに突っ切る。気付くと上下の間隔も失っていた。


二十秒――――――――――三十秒――――――――――――


やいばを置き去りにする速度で、あの時自分達を追い詰めた罠を全て通過する。



「!」



唐突に闇が現れ、はっと息を呑んだ。


何もない巨大なくうがあり、無数の光の扉はその外を回っている。


渦の中心に到達したのだ。




何もない。



中心のたった一つの光を除いて。




ほかの光の数倍は大きいその中に、魔道具の気配を感じた。




あそこに――――――――――――!



二つに一つ。


この呪いから遂に解放されるのかもしれない。



だが希望はすぐに、激しい緊張に取って代わった。



「っ………!!」


引き摺り込まれる!



これまでの光とは格違いに吸い込む力が大きい。


既に音速を超えているのに更に速度が上がろうとしている。抗うと、保護魔法がびきびきときしんだ。


「……!」


魔道具はあそこにある。


ただこの速度で突っ込んで、果たして無事でいられるのか分からない。



――――――――――――――もし解呪されたら



そこにあるのが「解呪の宝珠」であったら、そこに到達すると同時に死ぬ可能性がある。危険な衝撃は避けなければならない。



背中の荷をず前に抱え直して、抱き締めた。これだけは絶対に守りたかったから。



速度を……!!



そして保護魔法がなければ到底耐えられない急制動で引力に逆らう。


炎の膜となっていた保護魔法が、するとめきめきと音を立てながら潰れ始めた。


速度を落とせても保護魔法が潰れれば終わりだと感じる。この負荷に人間の体は耐えられない。


レベルゼの迷宮と自分の保護魔法がせめぎ合う。



「っ!!」



白い円が近付いた時、目測を誤っていたと気付く。


その光は思っていたより遥かに大きかった。



街一つ、すっぽり呑み込みそうに巨大だった。



ドオオオオォォォォ………………………ン…………………!!!



そこに突っ込むと、爆発的な音がした。




ʄ


少しの間気を失っていたと思う。


――――――生きている、と思いながら目を開けた。


雲に覆われた白い空と、葉のほとんどを落とした秋の終わりのような木々が見えた。


跳ね起きて、最初に胸に抱えている物を確認した。


心臓が激しく打つ。


鞄の蓋を開けて中を覗き込んだ。



容れ物は無事――――――――――――――――



茶色い革張りの箱には、魔法が何重にも掛かっていた。



中味は――――――――――――――――――



魔法を一部解除して箱を開けた。



「―――――――――――――――――――」



体の奥底から息をく。


無事だった。傷一つついていない。


「……!」


小さな箱を声もなく、鞄と容れ物ごと抱き締める。



それからようやく、ここはどこなのかと考えた。


柔らかな地面に、まばらに生えている木々。


まるで迷宮の外だ。



まさか、とぞっとする。



外に転移させられたのか?!



だがその時、自分のすぐ背後に魔道具の気配を感じた。


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