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16. 魔法使いの望み

自分は老いているから。


どれだけ言葉を交わしても、話は最後にはそこに行き着いた。リスタはわたしには、別の相手との幸せがあるとさえ考えているようだった。


リスタのそんな思いも分かってはいた。もし逆の立場だったなら、きっとわたしも同じように思う。


だが仮に別の誰かが現れたとして、その先は?子供さえわずかな年月でわたしの年齢としを追い越して、やがてはリスタよりも老いて去って行くのに?


それが些細なことだとは言わない。

でもわたし達の間で体の年齢が、どれ程重要だと言うのだろう?


姿や年齢だけの問題じゃない。わたしはこの呪いが子供に引き継がれないという確信を持てなかった。子供が産めないから駄目だと言うのなら、わたしは初めから子供を望んでいない。


理屈も感情も全てをさらけ出し言葉を尽くしたが、魔女は受け容れなかった。


「………わたしの姿が若いから、駄目だということですか」


長い話し合いの果てにそう尋ねた時、魔女は泣き出しそうなうなずいた。


「―――――――――――――――――――――」


格子窓からオレンジ色の灯りがこぼれていた。じきに閉館時間だ。一つのベンチに隣り合って座り、これが精一杯。


数日に一度数時間魔法図書館(ここ)で逢う――――――――――それ以上を望むべきではないのか。

今のまま独りで食事の席に着き、この先何十年も何百年も、これが二人の形だと自分に言い聞かせて。


だがこんな形ですら永遠には約束されない。魔法図書館の職員とわたしは違う。いつかはリスタも魔法図書館ここを去るかもしれない。リスタが去れば、この岸でわたしはまた独りだ。


図書館を去る職員の多くが「魔法図書館ここでは生きている気がしない」と言うという。あの日、タウナ―もそう言った。


だが図書館の外にはいても、世界から切り離されているわたしは生きていると言えるのか?



世界から、リスタから切り離された死んだような生を、わたしはもう生きたくはなかった。



共に生きたい。そして「共に生きたい」と望んで欲しい。



最初からこうすべきだったんだ。

「――――――――リスタ」


魔女がはっと目をみはる。重ねた手。そのひとの手を初めて、そんな風に握った。恋人にするように、強く。



「あなたが若返ればよいのですか?」

「え?」

「五百七十年間、誰も制圧出来なかったあの迷宮には、人を若返らせる魔道具もあるのです」



五百七十年、目指し続けた場所。


記憶を抑え込もうとしても心の片隅にずっとあった場所。


あの場所と決着をつけない限り、わたしが本当に望むものは手に入らない。



ʄ



リスタはわたしを止めた。


わたしが不死と知っていてなお。


リスタは魔力も魔法使いも今よりずっと強力だった時代を知っているのだと改めて思う。六百年前に大勢の帝国魔法使い達の命を奪った場所がどれ程危険な場所なのか、リスタは肌感を持って理解をしている。


翌日も翌日もわたし達は話し合い、翌日も翌日もリスタはわたしを止めた。


「あの迷宮が今日まで制圧されていないのは、挑戦者を退しりぞけ続けたからではありません」


グランタイル帝国が迷宮に挑む力を失い、その挑む者がないまま忘れさられたから。事実の半分だったが、「制圧不可能だったからではない」と話しても、彼女は誤魔化せなかった。



「あなたのためだけではありません――――――――わたしが受けた、この呪いを解く魔道具が、あそこにはあります」

「……………………!」



その存在を苦し紛れに話すべきではなかった。リスタの頭の回転は速かった。



「呪いを解いたあと無事に迷宮を出られなければ、あなたは死んでしまうのではないの」



一拍置いてそう訊き返された。



答えられなかった。


解呪の魔道具は大抵、近付いたり触れたりするだけで発動する。


「不老不死の解呪の宝珠」。


一番あって欲しくない場所にその魔道具はあるだろうと、わたしは確かにそう予想していた。


古代の魔法使い達が自分の力を誇るために遺した沢山の迷宮。


大魔法使いレベルゼの自負心は、殊更に強烈だった。


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