15. 魔女と魔法使いの攻防
「あなた何言ってるの?」
返された表情と声は険しかった。
「駄目でしょうか」
「駄目に決まってるじゃないの!」
本の城壁の間に魔女の声が響き、わたしは言葉を詰まらせた。
断られることを考えていなかった訳ではないが、ここまで強い口調で言われるとさすがに堪える。
魔女は慌てて口調を和らげ、言葉を接いだ。
「わたしおばあさんよ?」
そんなことは分かっている!
呪いが解けない限り自分は永遠に若いままで、二人の年齢の差は永遠に縮まらないことも分かっている。
それでも傍にいたいんだ!
図書館の魔女の存在を知った時、どれだけ衝撃だったか。
五百七十年、独りで世界の営みから切り離された岸にいた。
同じ時間を生きているというだけで、わたしにとってあなたは、生まれて初めて会えた人間のように特別だった。
でも最初からそれだけじゃなかった。
あなただからだ。
また逢いたいと思ったのは、リスタだからだ!
何十年も、何百年もあの迷宮のことだけを考えてきた。でもいつからか、迷宮のことよりあなたのことを考えるようになっていた。
あなただからだ!
火に向かって駆けて行く姿にどきりとしたのも、子供が好きだと言われて自分もそうなりたいと思えたのも、焦がれ続けた「終わり」を求めるよりもこの岸で共に生きたいと思ったのも、リスタだからだ!!
共にいたい。
もう散々悩んだし、考えた。考えて考えて、体が結ばれなくても、共に生きられるのならそれでいいと思った。
そう願っていたのはわたしだけだとでも。
そちらの気持ちに気付かないとでも思っているのか!
「年齢はわたしが上です」
「年齢は上と言ったって………わたしここを出られないわ」
「わたしが魔法図書館の職員になります」
同じ場所で暮らせるし、わたしが老いないことも不審に思われない。
わたしが職員になる。それが多分、考えられる中の最良の選択肢だった。
ここでの仕事にも区切りが付いていた。ミラトルにはもう大きな魔力を必要とする仕事は残っておらず、いなくなっても問題はなかった。
「駄目」
「なぜ」
「なぜって―――――――――――――」
拒むリスタに、わたしは懸命に気持ちを伝えた。
「五百年の記憶と孤独を分け合えるのは、あなただけです」
「それは」
「でもそれだけで、こんなにあなたに魅かれない」
ようやく気持ちが届いたのか、リスタが息を呑んだ。
それから魔女とわたしは話し合い続けた。途中で魔法の中庭に場所を移して、何時間も。
「………わたしの姿が若いから、駄目だということですか」
そしてわたしは、最後にそう尋ねた。