12. 老学者との再会
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ようやく戻って来たリスタがわたしの姿を見付けて微笑んだ。
それだけで胸が締め付けられるように痛む。
恋が病なら最早重症だ。
夕暮れを迎え、来館者が帰り始めていた。
来館者がほぼ帰宅した後なら、職員は割と自由らしかった。閉館間際のこの時間は魔法書を探さず、ただゆっくりリスタと話せる大切な時間だった。
こちらへ向かって来るリスタを迎えようと、扉の広場を目指す人の流れを横切って歩き出した時。
目の端が見知った人物の姿を捉えた。
見知った人物、と言うのは不正確かもしれない。自分が知っていた姿から、その人の姿は随分変わっていた。それでもわたし達は彼に気付いた。人波の反対側で魔女が息を呑む。
「タウナー……?」
リスタの声は掠れていた。
老学者もほとんど同時にこちらに気付いていた。右手を軽く上げ、彼は付き添いの男性に車椅子を止めさせた。
「これは。老醜を晒してしまいましたな」
魔女を見上げて穏やかに微笑んだ後、老人は目を丸くしながらわたしに視線を転じた。
「あなたは全く変わっていませんな」
そう言った老学者は車椅子に座っていて、劇的と思える程急速に老いが進んでいた。
背筋がしゃんとした、背の高い人だったのに。皺が深くなり、腰が曲がった姿は、以前より一回り小さく見えた。
他者との再会は自分が世界から切り離されていると思い知らされて、辛いことがある。凍り付いているリスタも多分同じ気持ちなのだろう。
図書館を辞めた後のタウナ―と、わたしは実は何度か会っている。ただこの時の再会は四年振りで、そのたったの四年で、彼は急激に老いていた。
もう死期が近い。
経験でそう思った。
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人の流れから離れた場所でわたし達は向かい合った。
「本を書かれたのですね」
「ご存知でしたか」
いつかと同じ、黄昏色に染まった迷宮。車椅子の老人が魔女の言葉に目を瞠る。
タウナ―は退職後に研究書を数冊書き上げている。彼の名が記された本は魔法の頂点である本の迷宮に、きちんと収蔵されていた。
哀し気な微笑みを浮かべて魔女が告げる。
「素晴らしい内容でした」
言葉のない数瞬。
そして老学者は静かに微笑った。
「わたしの記憶は魔法図書館に残ります。あなたが時々開いて下さるのなら、人間としてわたしは本懐を遂げたと言えるでしょう」
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「これで最後かもしれません。あなたにもう一度会えてよかった」
そう言って扉を潜って行く車椅子の老人を、魔女は張り裂けそうな瞳で見つめていた。
「お送りします」
わたしは車椅子の横に付き添い、彼と図書館の外に出た。
予定していた所まで書き終わらず……(><;)
出来るだけ今日中に続きを投稿します。