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10. 魔法使いの楔

ʄ


魔女が望む限り、わたしは彼女と共に生きられる。


魔女を穿うがくさびの姿が見えれば、見えなかった時より向き合い易くて覚悟が決まった。


告げられずにいたことを遂に告げようとした夜。


「アルト、あなたもしかして年を取らないの?」


不思議そうな表情かおをしたリスタに先にそう言われた。


はっとする。


それを告げに来た筈だったのに、いざ話そうとすると声が震えた。


「わたしのこれは――――――――――呪いなのです」



あなたと同じ時間を生きてきたのだと、わたしはようやくリスタに告げた。



ʄ


魔法と呪い―――――――――――どちらも魔法使いが魔力で生み出すものだが、悪意で掛けられるものは「呪い」と呼び分けられていて、呪いは大抵、解除や停止を受け付けない。術者の魔力や技量が高ければその分だけ、解呪は一層難しい。


「わたしは当時、グランタイル帝国に仕える帝国魔法使いでした」


閉館間際の図書館。オレンジ色の魔法のの中で、わたしとリスタが話す声だけが静かに響いていた。


胸の奥に仕舞っていた記憶を久しぶりに取り出すと、自分が思っていたより苦痛を覚えた。

大勢の仲間を失い、故郷も家族も捨てた過去は、五百七十年を経ても痛みを与えるわたしに穿うがたれたくさびだ。



王朝も国名も変わり、もう見る影もないかつての大国。五百年以上前に、その帝国の最高位の魔法使いだった自分。

五百七十年前のある日、当時の帝国領内で「レベルゼの迷宮」が見つかり、帝国の高位魔法使い達にその制圧命令が下された。短い期間しか与えられず、その無茶な命令で百人近い仲間が迷宮で命を落とし、辛うじて生き残ったわたしには、気付くと呪いが掛かっていた。


「人類史上最強」と謳われている古代の魔法使いは二人存在している。

一人がレベルゼで、もう一人が魔法図書館の創造者、パウセだ。


帝国最高位の魔法使いだった自分でも、古代の大魔法使いには遠く及ばなかった。魔法使いの数も一人が持つ魔力の量も、古い時代程大きい。


自分の時が止まってから何度も試みた。だが五百七十年、挑んでも挑んでも解呪は叶わず、死ぬことも叶わなかった。


わたしにも結婚する筈だった相手がいたが、「永遠に若い夫」を受け容れられなかったあの女性ひとを、責めることなんて出来ない。



「古代の魔法使いが造った迷宮には、古代の偉大な魔道具がたくさん遺されているのです」



世界から切り離される前のわたしの話を、魔女はじっと聴いていた。


「呪い」と言うだけで恐れて忌み嫌う人は、昔も今も決して少なくない。それがわたしが他人ひとに打ち明けることや定住することを避けてきた理由の一つだったが、リスタは全く嫌悪を見せなかった。


魔法も呪いも、彼女は正しく理解していた。



決められた時間ぎりぎりまでの、長くはないが短くもない時間。伝えたかったことを話し終えると、リスタはそっと微笑んだ。


「わたくし達、同じ時間を生きているのね」

「はい」


真っ直ぐに魔女を見つめた。だが魔女は、微笑んだまま言葉を接いだ。


「どうぞこれからも魔法図書館ここにいらして。わたくしきっと、これからの長い月日も、あなたの話し相手くらいにはなれるわ」

「――――――――――――――――――」


違う。


この先の果てない月日を「友人」として過ごしたいのではなかった。それ以上の存在としてこの岸で共に生きたかった。



体が結ばれることはないのかもしれない。それでも構わない。


そういう存在として、わたしの手を取ってほしいのだ。



慈母のように微笑む彼女に、言えなかった。


お読みくださった方、ありがとうございます。


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