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予期せぬ出会い

「う……ん……」


瞼に明るい光を感じ、私の意識はゆっくりと覚醒していく。


私、生きているんだよね。


確認するべく身体を起こそうとするが、全身が激しい痛みに襲われ、そのまま再び伏してしまった。


「あいたたた。でも、痛いってことは生きてるってことね。あはは、どうだ、くそS級ハンターども。私は生き延びてやったぞ」


仰向けに大の字となって呟くが、返事はない。


当たり前だ、独り言なんだから。


首を動かして周囲を見渡すと、床には荘厳で神秘的な白い大理石が敷き詰められており、建物は円形状の造りになっているようだ。


壁には神々しい壁画や装飾が施され、巨大な柱が等間隔で並んでいる。


さっきまでいた骸骨、ゾンビ、墓石、腐ったドラゴンがいた不気味で趣味の悪いダンジョンとは思えない空間だ。


どうやら、ここには魔物や敵はいないみたいね。


私は気絶している間に自然回復した魔力を使い、身体の回復に努めていく。


こういう時は、E級であろうが補助魔法を使えて本当によかったと思う。


しばし回復に専念することでようやく立ち上がれるようになった。


まだ走れはしないけれど、歩く程度なら何とかなる。


「……あれ、なんだろう」


改めて周囲を見渡すと、何やら大きな石碑が最奥にそびえ立っている。


身体を引きずるように足を進め、石碑を間近で見てみると、びっしりと文字が刻まれていた。


しかし、その文字は一般的なものではない。


「これ、全部古代語で書いてあるじゃない」


『ほう、その文字を知っているか。中々に面白い者が来たものだ』


「……⁉ だれ⁉」


頭の中に突然響いた声に驚くが、すぐにその性格の悪そうな物言いにハッとする。


「貴方ね。ダンジョンで彷徨っている私に道標を与えたのは」


『クックク。察しも悪くないな。ますます面白い。では、ここにたどり着いた褒美に姿を見せてやろう』


間もなく、石碑の上に忽然と見慣れない服装の優男が現れた。


雑に伸ばした黒髪は左目を隠し、右目の黒い瞳だけが確認できる。


あからさまに性格の悪そうな人相だ。


「お名前を尋ねてもよろしいかしら」


S級ハンターですら立ち入れないようなダンジョンの奥地にいるなんて、絶対に悪魔か化物か。


碌でもない存在であることは間違いない。


ここは機嫌を損ねないよう、丁重に対応すべきだと判断した私は、令嬢時代に学んだ口調と作法で会釈した。


「いいだろう、特別に教えてやる。我が名はアルマス・ネルヴィアだ。アテニア帝国では、ネルヴィアだけの方がわかりやすいかもな」


「アルマス、ネルヴィア……」


はて、どこかで聞いたことのある名前だ。


確か令嬢時代の教育で習ったような。


私は記憶を辿り、ハッとする。


「ま、まさか鍛冶と武具の神として名高いネルヴィア様とでも仰るんですか」


「話が早くて助かるな。その通りだよ、ミシェル・ラウンデル」


ネルヴィアはいつの間にか私の背後に立っていた。


そして彼から発せられる魔力とはまた違う『何かの力』にゾッとする。


間違いない、この方は神の一人だ。


「ですが、どうしてネルヴィア様がダンジョンの奥地にいらっしゃるのでしょう。まさか、何者かに封印された……とか?」


アテニア帝国に伝わる神話には、ネルヴィア様を含めた十二の神が登場する。


彼等はこの世界を創った神であると同時に、かつては対立して世界を荒廃させたという伝承もあった。


私、ひょっとしてとんでもないことに巻き込まれているんじゃないだろうか。


「クックク。気になるか。ならば教えてやろう。我がダンジョンの奥地にいる理由。それは……」


「そ、それは……」


ごくりと喉を鳴らして息を飲み、身構えると、ネルヴィアはにやりと笑った。


「単なる暇つぶしだ」


「……え、暇つぶしですか」


予想外の答えに、私は肩透かしを食らって目を瞬いた。


「そうだ、暇つぶしだ。神というのは案外暇でね。昔は人間界を良くしようなんて情熱もあったが、今では愚かな人間の行末をただ傍観している方が面白くてな。特にすることもないんだよ」


「はぁ、そうなんですか」


よくしようという情熱の結果、伝承に残るほど世界を荒廃させてしまったということであれば、とんだ大迷惑である。


私は今、とんでもない歴史の真実を聞かされているのかもしれない。


「うむ。しかし暇を持て余していた時、ふと思ったのだ。下界と神界を繋げたダンジョンを造り、ここに辿り着いた者には褒美として我が祝福を授けようとな。そして、その者が何を成すのかを見て我は楽しむのだ。どうだ、両者に得のある良い考えであろう。クックク」


「そ、そうですね……」


私は相槌を打つが、口元がひくついていた。


暇つぶしで人に祝福を与えるなんて、出鱈目な話だ。


神の祝福と言えば、伝承に登場する英雄や勇者が受けたもので、その内容は未知数。


ただ、とんでもなく強そうではある。


「さて、ミシェル。貴様はここにたどり着いた初めての者だ。それも、たった一人でな。褒美として逃げた者達の分も含め、五つの祝福を授けてやろう」


「え、本当ですか⁉」


祝福の内容は未知数だけど、神の力だ。


今より弱くなることはないだろう。


私を捨て置いたS級ハンター達に鉄槌を下すため、アウラを筆頭にラウンデル伯爵家を再興するため、力は多いに越したことはない。


「我は嘘はつかん。まずはお前の悩みを解決する祝福を与えてやろう」


ネルヴィアは指先に小さな光の球を生み出すと、私の胸にそれを沈めていった。


「これは『武具と鍛錬の祝福』だ。この祝福を受けた者は、ありとあらゆる武具の才能に満ちあふれる。そして経験を積み、己を鍛錬することでどこまでも強くなることが可能となる。ただし、どちらも『鍛錬』が重要だ。鍛冶の如くな」


「は、はい。ありがとうございます」


ありとあらゆる武具の才能に満ちあふれ、鍛錬を積めばどこまでも強くなれる。


強さを渇望していたE級ハンターの私にとって、これほど素晴らしい祝福はない。


「あれ、でも、ちょっと待ってください」


「どうした」


「いえ……鍛錬しないと強くなれないってことは、今すぐに強くなれるわけではないんですか」


「クックク、その通りだ。だが安心しろ。このダンジョンは私が全てを支配し、創造した、いわばお前のいた世界とは異なる神域。どのように死のうが、必ずこの場で蘇れる。つまり、死を恐れずに鍛錬できるというわけだ。どうだ、素晴らしいだろう」


「あ、あはは。死を恐れずに鍛錬ですか。確かに……素晴らしいですね」


まぁ、何にしても強くなれるというのなら……いっか。


私は苦笑しながら頬を掻いた。


「そして、残り四つの祝福だが、これらはこの場で渡してもつまらん。このダンジョンで各階層に潜むボスを倒すことで渡すことにしよう」


「え、えぇ⁉ ちょっと待ってください。私はE級ハンターで、補助魔法しか使えません。逃げたS級ハンター達が倒せなかったボスを、私が倒せるはずないではありませんか」


「何を言っている。だからこの神域で死にながら『鍛錬』すればよいと言ったではないか」


「な……⁉」


死にながら鍛錬。


つまり、私はこの神域で、あり得ない強敵と戦い、死にながらでも経験を得て強くなれということ。


なんて恐ろしいことを、さも当然のように言ってくれるのよ。






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