表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/21

ダンジョン探索

「すごい純度の魔鉱だわ」


「はは、こりゃすげぇ。いくらでも取り放題だぜ」


ダンジョンに入って早々、周囲を照らすと、そこには様々な色を持つ巨大な魔鉱が所狭しと並んでいた。


ダンジョンの造りを見渡せば、無秩序に並ぶ墓石、骸骨を模した塔、荒れた大地の上には無数の髑髏が転がっている。


悪趣味にもほどがある雰囲気だ。


しかし、そんなことなどお構いなしに、プリシラは目を輝かせ、バーストンは高らかに笑い、ランティスも平静を装いつつ口元が緩んでいた。


「ふっ、ふふふ……。やった、やったぞ。僕はとうとうやり遂げたんだ。これでハンターズギルドに、いや歴史に僕の名が残るぞ!」


アルベルトは歓喜に震えていた。その姿はもはや狂気じみてすら見える。


だが私は喜べなかった。


これだけ純度の高い魔鉱があるということは、それだけこのダンジョンの魔力濃度が高いということ。


つまり、S級ハンターですら見たことのない、高難易度のダンジョンである可能性が高いのだ。


「あ、アルベルトさん。もう十分です、早く脱出しましょう」


「ミシェル、この期に及んで何を言っているんだ。ここは宝の山だぞ? まだ見ぬ遺物オーパーツだってきっとある。まだまだ探すぞ」


「で、でも……」


私が危険を訴えようとしたその時、地面がぐらりと揺れた。


地震かと思ったが違った。


地面から腐った手や頭がぬっとせり出し、腐敗臭が鼻を突く。


腐った肉を引きずり、現れたのは亡者ことゾンビである。


思わずたじろぐが、アルベルトは笑みを浮かべたまま剣を抜き、現れたゾンビを次々と切り伏せていく。


「ミシェル、俺のそばを離れるな」


「は、はい!」


バーストンが私の背後に立ち、守るように構える。


プリシラは炎魔法で、ランティスは弓・剣・魔法を駆使してゾンビたちを次々と薙ぎ払っていく。


しかし、ゾンビたちは際限なく呻き声と共に湧き出てくる。


「E級没落令嬢、さっさと補助魔法を発動しなさい。こいつら、弱いけど数が異常だわ」


「わ、わかりました……!」


癪だけど、今は反論している余裕はない。


私は全力で魔力を注ぎ、補助魔法を発動した。


魔力を使い果たし、思わず膝をつく。


「へぇ、E級でも補助魔法は補助魔法ってわけね。これならいけるわ。アルベルト、一気に焼き尽くすわよ」


「わかった。全員、バーストンのもとに集まれ」


バーストンを中心に集まると、プリシラが跳躍して炎魔法を展開。


爆音と共に炎が辺りを焼き尽くし、ゾンビは灰と化した。


「ふぅ、これで終わりね」


「お疲れ、プリシラ」


ランティスが空から降りてきたプリシラを受け止める。


私はバーストンの陰からS級ハンターたちの力を目の当たりにし、ただ驚くばかりだった。


D~B級、時にはA級ハンターに同行したことはある。


でも、S級の力は桁違いだ。


これだけの力があれば、未踏のダンジョンを好機と捉えるのも当然かもしれない。


もし、私にもこの力があったなら。


E級ハンターであることを、こんなにも悔しいと思ったのは初めてだった。


「あれ……。ゾンビの肉片が動いてる?」


私は自分の目を疑った。


焦げた肉片や斬り捨てられたゾンビの破片が、一か所に集まり始めたのだ。


「なんか嫌な予感がするぞ。プリシラ、ランティス、魔法を撃て。僕も斬撃を飛ばす」


アルベルトの指示で一斉に攻撃が放たれ、肉片に命中。


爆音と煙が辺りを包んだ。


「……倒せたか?」


アルベルトが剣を構えたまま見つめていると、爆煙の中から赤い光が閃いた。


次の瞬間、狂風が煙を吹き飛ばし、強烈な腐敗臭が鼻を突く。


現れたのは、赤く爛れた肉と骨に覆われた、ゾンビ化したドラゴンだった。


腐った翼を持ち、赤い目で私たちを見据えている。


「う、嘘……」


その咆哮に耳を塞ぎながら、私は身がすくんだ。


「怯むな。こいつが階層ボスだ。倒すぞ!」


アルベルトの号令で戦いが再開。


私は魔力ポーションを飲みながら、補助魔法を繰り返し発動し続けた。


どれくらい経っただろうか。


ふと気づけば、魔力ポーションはあと一本しか残っていない。


「アルベルトさん、残り一本です!」


「くっ、俺たちはS級だぞ。こんな腐ったドラゴンに負けるわけがない」


彼が切りかかるも、刃は弾かれた。


ドラゴンは赤い目を細め、大口を開けて黒い煙を吐き出す。


「っ……!」


腐敗と汚物を混ぜたような激臭に目、鼻、口、喉が焼かれるような感覚。


私はすぐに気づいた。


「これ、瘴気だわ……」


過去に一度だけ、瘴気を持つ魔物と戦ったことがあった。


瘴気は体力を奪い、毒にし、最悪の場合は呪われる。


「皆さん、これは強力な瘴気です。私のそばに集まってください、浄化します」


「わかった、頼む!」


全員が集まると、私は全力で浄化魔法を放った。


「はぁ、はぁ……。これで何とか……でも、魔力ポーションはこれで最後です」


「……そうか。なら、残念だが引き時だな」


「ち、しょうがないわね」


「まぁ、命あっての物種だ」


アルベルトが渋々頷き、他の面々も悔しげな表情を浮かべる。


「アルベルトさん、皆さん。お力になれず、申し訳ありません」


「いや、君はよくやってくれた」


そう言って彼は目を細めた。


「渡した帰還石の使い方だが、少し魔力を注ぐ時間が必要だ。僕たちが時間を稼ぐ。その間に、君は少し離れた場所で使ってくれ」


「……はい、わかりました」


私は少し離れた岩陰に隠れ、帰還石を取り出す。


「アウラ、レイチェル……お姉ちゃん、ちゃんと生き延びたよ」


魔力を注ぎ、帰還石が赤く光る。


だが、次の瞬間、鋭い音と共に砕け散った。


「え……?」


転移しない。


何が起こったのか理解できないまま振り返ると、ドラゴンが咆哮を発してこちらに突進してくる。


「な、なんで⁉」


間一髪で避け、壁に激突したドラゴンが瓦礫に埋もれる。


だが、気が抜ける暇もなく、アルベルトたちの笑い声が響いた。


「あっはは、よくやってくれたよ、ミシェル。君に渡したのは帰還石じゃなく、『魔笛』だ。魔物を引き寄せる魔道具さ」


「え……どうして……」


「帰還石には発動に時間がかかるのは本当なんだ。それで、君に『囮』になってもらう必要があったんだよ」


言葉の意味を理解できず、私は一歩、彼らに近づく。


「じゃ、じゃあ私も……!」


「だーめ」


プリシラが冷たく笑った。


「この帰還石、四人までしか使えないの。短い間だったけど、楽しかったわ、没落令嬢」


「すまないが、これも運命だ」


「でも、保険には入ったんだろ? 君の家族には金が残る。よかったじゃないか」


「ちょっと待って……お願い、待ってください!」


彼らが転移魔法に包まれる。


その光に手を伸ばした瞬間、火球が私を弾き飛ばした。


プリシラの魔法だ。


「うるさいのよ、E級没落令嬢。命の価値を考えなさい。S級ハンターの代わりはいないけど、E級の補助魔法使いなんて、いくらでもいるのよ」


「その通り。君は利用されたのさ。帰還石もポーションも保険代も、僕たちが『与えてやった』ものだよ」


アルベルトの顔を見た瞬間、私は思い出した。


私たちを騙した、あの男と同じ目、同じ笑い方だった。


「ざっけんなよ……S級ハンターがそんなに偉いっていうの⁉ アルベルト、プリシラ、バーストン、ランティス。私は絶対に生き延びて、お前たちにこの手で鉄槌を下してやるわ」


「ふふ、楽しみにしてるよ。でも、まずは生き延びてみなよ。じゃあね、E級没落令嬢さん」


アルベルトが白い歯を見せた瞬間、光と共に彼らの姿は消えた。


ダンジョンから脱出したのだ。


「ざけんな……ちくしょう……!」


涙を袖で拭き、私は当てもなくダンジョンの奥へと走り出した。






ミシェルの活躍を楽しんでいただけた方は、ぜひ『ブックマーク』、『評価ポイント(☆)』、『温かい感想』をいただけると励みになります!

いただきました応援は今後の執筆活動における大きな力になります。どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ