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S級ハンターとの出会い

「すでに知っている者もいるだろうが、僕達はこの町の近くに出現した定着型ダンジョンを調査、探索するためにやってきた。しかし、僕達の面々には補助魔法を扱える者がいない。従って、補助魔法を扱える者を募集する。多少の危険は伴うが、それ以上の報酬を約束しよう。誰か補助魔法を使える者はいないか」


ハンターズギルド内にいたハンター達が、一斉にざわつき始めた。


S級ハンター四人組についていくだけで、多大な報酬がもらえるのだ。


誰だって飛びつきたくなる話である。


しかし、「補助魔法が使えること」という条件はかなり厳しい。


攻撃魔法なら使える人はそれなりにいるけれど、補助魔法を扱える者となると極端に少ない。


この町に限れば、おそらく私くらいだろう。


でも、なぜか手を挙げる気になれない。


あの爽やかな顔に、どうにも既視感があるのだ。


「ミシェル、手を挙げないの? チャンスじゃない」


「……そうなんだけど。なんだか気乗りしないのよね」


うまい話には裏がある。


それは、よくあることだ。


お金は欲しいけれど、命あっての物種。


アウラとレイチェルのこともあるし、無茶はできない。


いつまでも誰も名乗りを上げない中、業を煮やしたのか、赤髪をなびかせたつり目に水色の瞳の少女が前に出てきた。


「いくら田舎町でも、補助魔法が使えるハンターが一人くらいはいるでしょ。紹介してくれれば、いくらか紹介金も出すわよ」


ハンター達がどよめいた。


なんてことを言い出すんだ。


この場にいるハンターで、私のことを知らない者はいない。


このままでは絶対に名指しされてしまう。


咄嗟にギルドを出ようとしたその時、服の端をマリンさんに掴まれて足が止まった。


「はーい。ここのミシェルがE級ですけど、補助魔法が使えますよ」


「ほら、やっぱりいるじゃない」


少女がにやりと口元を緩めて、こちらを見据えて歩き出した。


「ちょ、ちょっとマリンさん、なんてことをしてくれるんですか」


耳打ちで抗議するが、彼女はあっけらかんと肩をすくめた。


「紹介金が出るとなった以上、他のハンターたちだってすぐにミシェルのことを言うでしょ。S級ハンターから逃げられるわけがないわ」


「うぐ……」


鋭い指摘に、私は言い返せずたじろぐ。


この場から逃げたとしても、S級ハンターたちが本気になれば、すぐに私の自宅を調べられてしまうだろう。


下手をすれば、アウラやレイチェルに余計な心配をかけることになってしまう。


「ちょっとそこの貴女。補助魔法が使えるんでしょ? どうして名乗り出てこないのよ」


やってきた赤髪のつり目少女は、開口一番不機嫌そうに口を尖らせた。


私は小さくため息を吐き、向き直って丁寧に会釈する。


「大変申し訳ありません。私は補助魔法を扱えますが、E級ハンターです。S級の皆様の足を引っ張る可能性があると考えた次第です。どうかお許しください」


「あら、貴女、ハンターのくせに意外と礼儀正しいのね。でも、まあ、E級ならそう考えても仕方ないわね」


補助魔法使いを募集しておきながら、なんという上から目線。


怒りと苛立ちで口元が引きつくが、私は感情を表に出さない。


笑顔、笑顔……。


「そうですよね。ですから、この件は……」


なかったことに、と言おうとしたその時。


「アルベルト!」


少女が後ろを振り返って呼びかけた。


「どうするの? この田舎ギルドには、補助魔法を使えるのがE級しかいないみたいよ」


「その言い方は良くないよ、プリシラ。こちらはお願いしている立場なんだから」


アルベルトと呼ばれた青年が颯爽と現れる。


整った金髪に青い瞳、爽やかな笑みで白い歯を見せるその姿は、絵に描いたような好青年だ。


腰に帯剣していることから、剣士だろう。


プリシラと比べると、かなり好印象だった。


「S級ハンターのアルベルト・カトルナフだ。よろしくね」


「あ、はい。私はE級ハンターのミシェル……ラウンデルです」


アルベルトが差し出した手を握り返して自己紹介すると、プリシラが目を瞬かせた。


「えっ、ミシェル・ラウンデルって……貴女、没落したラウンデル伯爵家の長女なの?」


「……そうですね。仰る通りですが、ハンターとして活動する上で何か問題になるのでしょうか」


それとなく凄みを込めて返すが、彼女は動じることなく、珍しいものを見るように口元を緩めた。


「いいえ、問題はないわね。気を悪くしたなら謝るわ。S級ハンターのプリシラ・マレリーよ。よろしく、E級没落令嬢さん。あ、私、口が悪いのは生まれつきだから許してね」


「口が悪いのが生まれつきなら、直す努力はすべきです。品位のないS級ハンターなんて、陰口の的になるだけですから」


「へぇ、言ってくれるじゃない」


このやり取りで、プリシラの性格がとんでもなく悪いことは確信した。


S級ハンターとはいえ、こんな人物と一緒にダンジョンに潜るなんて絶対にごめんだ。


そう思った瞬間、プリシラは不敵に笑った。


「ところで貴女、S級ハンターからの正式な依頼は断れないって知ってる?」


「え……?」


首をかしげてマリンさんに視線を送ると、彼女はバツが悪そうに頷いた。


「プリシラ様の言う通りよ。S級ハンター直々の依頼は、『ハンターズギルド』の指令と同じ扱いなの。断ったら、今後の仕事の斡旋が難しくなるかもしれないわね」


「そ、そんなの困ります……」


慌てる私に対して、プリシラはわざとらしく切り出す。


「まあ、でも……E級没落令嬢の補助魔法なんてたかが知れてるし、わざわざ依頼するほどでもないかもね」


「いや、依頼する価値はある」


突然、低く重い声が響く。


見ると、四人の中で最も体格が良く、丸縁のサングラスをかけたスキンヘッドの薄褐色肌の男が私達の傍に立っていた。


「なによ、バーストン。どこに没落令嬢の補助魔法の価値があるっていうの?」


「簡単な話だ、プリシラ。補助魔法の上昇幅が低かったとしても、基礎能力が高い俺たちには十分な効果がある。それだけだ」


「私も、その意見に賛成するよ。E級だろうが、補助魔法があるに越したことはないからね」


バーストンの言葉に同意したのは、細い目をした飄々とした雰囲気の男だった。


彼を見た瞬間、プリシラが嬉しそうに微笑む。


「あら、ランティスも賛成するなら、私も賛成するわ」


「ありがとう、プリシラ。でも、決めるのは今回のリーダーであるアルベルトだよ」


その言葉に全員の視線がアルベルトに向けられる。


「じゃあ、ミシェルさん。改めて、S級ハンターとして依頼するよ。僕たちの調査に同行してもらえるかな?」


もう、断る道は残されていなかった。


私はため息をつき、力なく頷く。


「……畏まりました。ただし、皆様がどれほど強くとも、万が一ということはあります。ですので、ハンター保険の適用をお願いします」


ハンター保険とは、事前に掛け金を支払うことで、ダンジョン探索中の怪我に治療費が、死亡時には遺族に保険金が支払われる制度である。


ただし、審査は厳しく、不正には重い罰則があるため、利用者は少ない。


「わかった。じゃあ、僕持ちで掛け金を最大にしておこう。それで、これまでのことは水に流して、協力してもらえるかな?」


「……わかりました。ご配慮ありがとうございます、アルベルトさん。では、改めてよろしくお願いいたします」


その後、私はハンター保険の手続きを済ませ、彼らと共に町外れに出現した新たなダンジョンへと向かった。






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