デイリークエスト
『デイリークエストはその名の通り、メニューのクエストに二四時間経過ごとに更新されるクエストです。一度確認してみてください』
「わかったわ」
カイネの言葉に従ってクエスト画面を開くと『デイリークエスト①』という文言があった。
【デイリークエスト①】
腕立て伏せ 0/10
腹筋 0/10
スクワット 0/10
以上を二四時間以内に達成した場合『筋力+1』と一定の経験値を得られる。
「なにこれ、今まで一番の朗報じゃない。ちょっと泣きそうなんだけど」
今までの理不尽に次ぐ理不尽。
まるで呪いのような死の連続と比べれば、この内容はなんて優しく、慈愛に満ちているのかしら。
そんなに筋肉があるわけじゃないけれど、腕立て、腹筋、スクワットをそれぞれ10回ぐらいだったら今の私にもできるはず。
一定の経験値を得られる、というのも有り難いが、何よりも目を見張るのは『筋力+1』というステータス上昇効果があることだ。
レベルアップでもらえるポイントをアイテムボックス開放に振りつつ、物理攻撃力も上げることができる。
これはすごく大きい。
『そう思われるなら良かったです。しかし、この手のクエストは日々クリアすることで内容がだんだんと厳しくなっていきますのでご注意ください』
「厳しくなる、か。回数が増えるってことかしら。でも、カイネ。『この手』って言い方をしたってことは、今後もレベルアップすれば似たようなクエストが受注できるようになるってことなの?」
『おっと、これは口が滑りましたね。しかし、その件をお答えすることは致しかねます』
「そう、わかったわ」
カイネの口調からして、おそらく私の予感は当たっているようね。
今後の方向性を考えれば、デイリークエストをクリアしながらレベルアップ。
同時にデイリークエストの種類が増やしていければ神域踏破に前進できるわね。
でも……、やっぱり過去に神域を出られた人がいないというのは、どうしても不安を覚える。
石碑や亡者になったという過去の挑戦者達の失敗談を聞ければ、まだ対策できるんだけど、それは駄目っていわれちゃったのよねぇ。
ネルヴィアやカイネとのやり取りを思い返していたその時、ふと閃き、私は目を細めて虚空を見つめた。
「ねぇ、カイネ。もし『貴女』が神域に挑戦するとしたら、どう立ち回るかしら。参考までに聞かせてくれない?」
『……それは面白い質問ですね』
言葉に間があった。
挑戦者達の過去は聞けないけれど、先を知るカイネが考える攻略方法を尋ねるというのは抜け道になるかもしれない。
意図は察しているはずだから、あとはどう判断してくれるかね。
『そうですね。これはあくまで私個人の考え。独り言とでも思って聞いて下さい』
祈るような思いで虚空を見つめていると、カイネからの含みのある声が脳裏に響いた。
予想以上の有り難い答えで、思わず胸が高鳴る。
私は平静を装いつつ頷いた。
「もちろんよ。それで、どうするのかしら」
『私がミシェルと立場、同ステータスに置かれたなら、幸運値を根性:F(30)と同じ数値まで上げつつアイテムボックス開放を目指すでしょう。そして、亡者達を倒しながら、盾、を取得する、といったところでしょうか』
「幸運値を根性と同じ数値に上げつつ、か……」
盾を取得する、ってことは幸運値が敵を倒した時のアイテムを落とす確率に影響を与えるんでしょうね。
実際、『腐った屍肉』というアイテムは、幸運値を少し上げてから手に入るようになったもの。
でも、気になることはまだある。
「わかったわ。でも、どうして『盾』が必要なのかしら」
防御力という点では、確かに盾は有利だ。
でも、手が塞がってしまうのはいただけないし、カイネが口にした以上、何か私の知らない利点があるんじゃないかと思ったのだ。
『鋭くてよい質問です。実は神域にある装備は、どんなものにしろ神力が多少なりとも宿っています。つまり、どのような盾にしろ持っていれば敵の魔法をある程度防げるんですよ。もちろん、程度はありますけどね』
「それって、ゾンビマジシャンの幼児化対策ができるってこと?」
『そうですね。相手の使用する魔法の規模にもよりますが、ゾンビマジシャンの幼児化魔法ぐらいなら盾があれば防げるでしょうね』
「な……⁉」
私は目を瞬いた。
前言撤回、盾は素晴らしい防具だわ。
魔法を防いでくれるというなら、お鍋の蓋だろうが木の板だろうがなんでも構わない。
敵が使用する魔法の規模に左右されるというが、なんにせよ魔法を防げるというのは大きな利点。
神域攻略には必須だわ。
そして、その盾を素早く得るのに必要なのが幸運値というわけね。
「つまり、幸運値を上げてアイテムボックスを使えるようにすれば、盾を含め、いろんな攻略アイテムをストックしておくこともできる。遠回りに見えるけど、直接的な攻撃力を上げるよりも結果的には近道になるということね」
『まぁ、そう考えてくれてもいいですよ。しかし、これはあくまでも私がミシェルと同じ立場にあるという仮定での独り言です。これ以上の質問はご遠慮ください』
「……わかった。すごい参考になったわ、カイネ。ありがとう」
『いえいえ。私はミシェルを気に入っていますからね。これからも頑張ってください。それでは、これで説明は以上です。また、何かあれば』
カイネがそう告げると、脳裏に綺麗な鈴の音が鳴って返事がこなくなった。
会話は終わり、ということだろう。
でも、アウラとレイチェルからの手紙、デイリークエスト、今後の方向性。
するべき道が定まったわ。
私は深呼吸をすると、虚空に向かって手を突き出した。
「私は必ず神域を攻略して、アウラとレイチェルのところに帰ってみせる。そして、S級ハンター共に鉄槌を下してみせるわ」
鼓舞するように叫ぶと、私はその場の地面に両手を突いて腕立て伏せを始めた。
「とはいえ、まずはデイリークエストをクリアしないとね……」
筋力ステータスを多少なりとも上げていたおかげか、意外と腕立て伏せ10回は簡単にこなせた。
腹筋にうつりながら、私は虚空を睨み付けて意気込んだ。
「クソ神、クソゾンビ、クソS級共。どいつもこいつも見ていなさい。この筋トレで、私は確実に強くなっていくんだからね。せいぜい、うぬぼれて笑っておきなさい。その笑顔、絶望で凍り付かせてやるんだから」
この地味な筋トレこそが、未来を切り開くのよ……って、私は本来後衛の補助魔法士なのに。
この考え方、まるで前衛の脳筋みたいね。
でも、いいのよ、これが攻略への第一歩なんだから。
『E級没落令嬢』をここまでご愛読いただき、誠にありがとうございました。
今回の更新をもちまして、ひとまず第一章が完結となります。そして誠に勝手ながら、作者都合により本作の更新をしばらくお休みさせていただきます。
続きについては、いろいろと思い描いていることもありますので、折を見て、また皆様にお届けできればと願っております。温かく応援してくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。
また本作の続きや、あるいは別の物語で、皆さまとお会いできる日を心より楽しみにしております。
MIZUNAより




