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死屍平原を進め

【クエスト・第一階層の死屍平原を突き進め】

 神域の最初に広がる死屍累々の『死屍平原』を進み、その先にある『村』を目指せ。


『ゾンビ平原』、私が勝手にそう呼んでいたこの場所は、本当は『死屍平原』というらしい。


風景に名前、どれを取っても悪趣味で、相変わらず鼻を突く死臭に満ちている。


正直、こんなところには二度と来たくなかった。


だけど、進まなければ私もその死臭の一部となって、死屍平原を彷徨う亡者やゾンビの仲間入り。


そんなの、死んでも御免被るわ。


私はアウラとレイチェルのもとに、五体満足で帰るんだから。


それにしても「村を目指せ」と言われても、この地獄のような場所にある村なんて碌でもないに決まってる。


まあ、それでも行くしかないんだけれど。


レベルも十まで上がって三度目ともなれば、さすがにゾンビ相手に苦戦はしない。


ゾンビたちの頭に表示される名前は、薄い黄色というより、もはや灰色に近いわ。


それだけ私が強くなって、敵が弱くなったということなんでしょうね。


クソ神が道標の光になると渡してきた『勾玉の首飾り』を装備すると、進むべき方向に光が伸びてくれる。


その光は迷いなく真っ直ぐに伸びていて、まるで自信満々な案内人ね。


しかし、ネルヴィアの性格を考えると『目的地を示す光』じゃなくて、『碌でもないところに誘う導き』に思えてならない。


この短期間でネルヴィアの性格の悪さは身に染みている。


神域の悪趣味加減、人のことを玩具扱い、今の私が使えない武器を確信犯で渡す等々、考えれば考えるほど不安でしょうがない。


それでも、今はこれに縋るしかないのよね。


ネルヴィア曰く、過去にはこの死屍平原を永遠に彷徨った人もいたそうだ。


ここ神域には地図もなければ、方角を確認する手段もない。


道標の光がなければ、亡者となるまでさまよい続けるのも、あり得ない話じゃないわ。


私は平原を走りながら、迫り来るゾンビを殴り倒しつつ、ひたすら前へと進んでいく。


当然、道中には新顔も登場した。


名前表示が薄い黄色のゾンビ犬に初めて襲われた時は、人型ゾンビとは違う身軽さと素早さに驚いたが、慣れてしまえばどうということはない。


ゾンビ犬は知恵もないから、動きを観察して飛び込んできたところを迎え撃てばいい。


結局は他のゾンビと同じ。杖で頭を叩き潰せば終わりだ。


他にも腐った大蛇『ロットンサーペント』というのもいた。


こいつは毒液で遠距離攻撃をしてくるが、幸いにも私は浄化魔法が扱える。


致死毒以外の毒は無効化できるので、倒すのに大して苦労はしなかった。


ただし、毒液は死臭を濃縮したようなおぞましい悪臭を放っていたので二度と当たりたくはない。


動きが鈍かったから毒液を回避して距離を詰め、杖で脳天を粉砕した。


もし、私に解毒手段がなければ厄介な敵だったと思う。


レベルこそまだ上がらないが、進捗は順調。


ゾンビを千体倒して得た称号「ゾンビハンター」による『ゾンビ系に与えるダメージ+10%』が効いているんだろう。


一挙にレベル十まで上げたのも大きかった。


「この調子なら地上に辿り着くのも案外すぐかもしれないわね」


ステータスの幸運値を上げたおかげで、やっと運が人並みになってきたみたい。


油断は禁物だけれど、レベルを上げてステータスを強化すれば、どこまでも強くなれる。


まさに夢のような祝福だわ。


ゾンビだらけのこの場所は、呪いみたいなものだけれど。


光に導かれるまま進んでいくと、遠目にオレンジ色の光と黒煙が見えた。


「何かしら。灯り……? いえ、煙の色からして火事っぽいけれど。目的地の村で誰かが火遊びでもしているのかしら」


この神域に私以外の人がいるとは思えないけれど、その可能性はゼロじゃない。


今度、機会があればネルヴィアに問いただしてみようかしら。


目を凝らしてみると、火の手がいくつも上がっていて、建物が燃えているようにも見えた。


目的地の村にある家の一部が焼け落ちているのかしら。それとも……。


考えを巡らせていた時、進行方向に小さな黒い渦が唐突に出現。


何やら蝋と黴を混ぜたような、独特の臭いが空気中に漂いはじめて鼻を突いた。


なによ、この臭い。


死臭にようやく慣れてきたってのに。


新たな異臭に思わず服の袖で鼻を押さえると、黒い渦の中から黒いとんがり帽子とローブを纏った、いかにも魔法使いといった風貌の存在が現れた。


見たところ腐ってはいないが、ミイラのように干からびている。


今どき、こんなダサい格好の魔法使いなんて見たことないわ。


一体どれだけ前から存在していたゾンビなのかしら。


「なんにしたって邪魔よ」


他のゾンビと同様に頭を叩き潰そうとしたが、ふと名前表示が目に入る。


『ゾンビマジシャン』、しかも名前が黄色文字だ。


「村が見えたから、敵も少し強くなったのかしらね。でも、私にはこれがあるのよ」


初見の相手には補助魔法をかけて万全を期すべき。


死んでも復活できるとはいえ、痛みは御免だわ。


「よし、これで終わりよ」


身体能力強化と魔法防御強化を発動。


どんな魔法を撃たれても、これで強引に叩き潰せるはず。


案の定、ゾンビマジシャンの杖からこぶし大の光球が放たれる。


見た目もしょぼく、威力も低そうだ。


「無駄よ。その程度の魔法なんて効かないわ」


名前に『ゾンビ』とある時点で、ゾンビハンターの効果が適用されるはず。


名前が黄色表示だったロットンサーペントだって、結局は杖で倒せたのだから。


最後に確認したステータスを思い返せば、この敵を倒せばレベルアップ間違いなし。


私は勝利を確信し、自然と口元が緩んだ。


ゾンビを千体倒した経験もあるし、これは断じて油断じゃないわ、自信よ。


光の球がこちらに命中する瞬間、私は歯を食いしばった。


いくら補助魔法で防御力を上げているとはいえ、多少の衝撃はあるはず。


しかし、直撃したにもかかわらず痛みはなかった。


なんだ、ただの虚仮威しだったのね。


拍子抜けして「ふふ」と噴き出したその時、ゾンビマジシャンが急に大きくなっていく。


「あ、あれ……?」


気のせいか、ゾンビマジシャンはほくそ笑んでいるようにも感じる。


ひょっとして私、何か重要なことを見落としたのかしら。


「きゃ……⁉」


私は急に足がもつれて転倒。おまけに杖がやたら重くなった。


「な、なんなのよ。なんで、急に杖が重くなるのよ」


杖を確認した瞬間、手が小さくなっていることに気づく。


声も舌足らずで、自分のものとは思えない。


慌ててステータスを開くと、私は目を瞬いた。


状態:幼児化


「幼児化、ですって。なによそれ⁉」


あちこち触ってみると、体全体が縮んで六歳前後の姿になっていた。


なによこれ、どうなってんのよ。


『ヘルプの状態異常一覧に「幼児化」が追加されました』


「は……?」


 脳裏に響いた案内を受け、私はすぐにヘルプを呼び出して確認する。


状態異常:幼児化

 六歳前後の容姿まで後退し、ステータス能力値が全て『一』となる。補助魔法効果も無効化され、敵を倒すことはほぼ不可能。時間経過で効果が切れるため、幼児化中は逃げるしかない。






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