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ミシェルのお願い

「見事だったぞ。まさかあのクエストを本当にやり遂げるとはな。これまでの挑戦者のなかで、お前が最短クリアだったぞ」


「そりゃどうも……」


ゆっくりと立ち上がると、私はクソ神の目を真っ正面から見据えて凄んだ。


「ざっけんな、このクソ神が。最短クリアですって、だからなんなの。人の尊厳を踏みにじって楽しむなんて最低最悪よ」


一発打ってやらないと気がすまない。


右手で平手打ちを繰り出すが、その手はなんなく受け止められてしまった。


「クックク。いいぞ、その目だ。その目こそが……」


「ごちゃごちゃうるさいのよ」


右手が駄目なら左手がある。


素早く左手で平手打ちを繰り出すが、こちらも受け止められてしまった。


「さすが没落令嬢。伯爵家の箱入り娘が、荒波に揉まれて随分とじゃじゃ馬になったもんだ」


「お褒めに与り光栄よ」


「な……⁉」


両手が押さえられても、人にはまだ足がある。


私は力の限り、クソ神の股間を蹴り上げた。


予想外だったのか、見事に私の足は奴の急所に炸裂した。


こうなると分かっていれば、精神力じゃなくて筋力に全振りしたのに。


それだけが悔やまれるわ。


クソ神は苦悶の表情を浮かべて私の手を離し、股間を両手で押さえながらその場にうずくまった。


私は彼の前に仁王立ちになり、腰に手を当ててビシッと鼻先を指差した。


「どんなもんよ。でもね、私が受けた苦痛はそんなもんじゃないわよ。これで少しは人の痛みも理解できるんじゃない?」


「……やってくれるじゃないか」



ネルヴィアは喉を鳴らして笑うと、「しかし……」と呟いて、何事もなかったかのようにすっと立ち上がった。


「何故、目を丸くしているんだ。我は神だぞ? 人と同じ急所があるなどと、おこがましい考えだと思わんか。まぁ、面白かったから付き合ってはやったがな」


「あんたって、本当に性格が悪いわね」


ため息を吐いて呆れ顔を浮かべた私は、ジト目でクソ神を睨んだ。


「人に性格が悪いと言われても、何とも思わんよ。それより、お前は新たな称号を獲得している。見てみろ」


「え、そうなの? どれどれ……」


【称号】

・食べられちゃった:敵からの標的率+1%

・終わりなき鍛錬の始まり:取得経験値+1%

・ゾンビハンター:ゾンビ系に与えるダメージ+10%

・屍肉を喰らった者:屍肉を食べても致死毒、猛毒、毒にならず満腹度を回復できる。


「私、ゾンビの仲間入りを果たしたのかしら……」


心のどこかで無自覚に期待していたらしい私は、がっくりと項垂れた。


あれだけ悶絶したというのに。


要は屍肉を食べても死ななくなったというだけじゃない。


別に好きこのんで食べたわけじゃないのに、『屍肉を喰らった者』って呼び方もひどすぎるわ。


せめて効果は毒無効とか、毒耐性大幅上昇にしてほしかった。


「クックク。いいぞ、その反応。やはりお前は私を楽しませてくれるな。では、特別な褒美をやろう」


「あら、なにかしら? 新しい祝福とか?」


「近いが違う。此処にお前を導いた光を覚えているか」


「あぁ、あの道標の光ね」


「そうだ。その光を再びお前に授ける。これで一階層を迷わず、地上に続く『棄てられた宮殿』へたどり着けるだろう。過去には宮殿にたどり着けず、一階層を彷徨い続けた者もいたからな」


「あ、あはは……」


乾いた笑いしか出てこない。


ありがとうございますって、言うべきかしら。


ネルヴィアの右手から小さな光が発せられ、『くの字』の形をした小さな白い石が現れた。


「これは俺の力を込めた『勾玉』だ。首から提げていれば、地上への道標となる」


「地上への道標……⁉ ありがとう。初めてネルヴィアに感謝の気持ちを抱いたわ」


「そうか。では、もう一つお前が喜ぶものをやろう」


ネルヴィアが右手をぱちんと鳴らすと、何もない空間から神々しく光る『杖』と『全身鎧』が現れた。


「俺のクエスト達成報酬だ。杖と鎧、どちらを求める?」


「そうだった、それがあったわね」


一応、確認の意味で考えを巡らせるが、私の戦い方ならこれ一択。


「じゃあ、そっちでお願い」


私が指を差したのは杖。


たしか『神力の杖』という名前だったはずだ。


「防具ではなく、武器を取るか」


「攻撃は最大の防御っていうでしょ? それに、私の戦い方だと鎧は重すぎて無理なの」


私は補助魔法で自分を強化しつつ、一撃離脱を繰り返している。


ゾンビに囲まれた時は範囲攻撃を持たないせいで捕食されてしまった。


防御力が高くても、数で押し切られれば意味がない。


重たい鎧で動きが鈍くなれば、『逃げる』ことさえできなくなる。


ネルヴィアは私の答えを聞いて、喉を鳴らして笑った。


「自己分析もできているようだな。では、受け取るがよい」


「ありがたく頂戴いたします、ネルヴィア様」


一応、神様から武器をもらうのだから、形式だけでも礼儀を整えておこう。


彼が無造作に差し出した杖を丁寧に受け取ると、ふっと目の前から杖が消えた。


「あ、あれ……?」


「案ずるな。所持アイテム一覧に入っただけだ。武器や防具を手に入れたら、必ず確認して装備しろ。持っているだけでは意味がないからな。では、今後の活躍も楽しみにしているぞ」


「……楽しみにされても困るんですけどね」


あえて目を細めて返すが、私はふと、ある問題を思い出してハッとした。


「あ、ちょっと待ってください。どうしても聞いておきたいことがあるんです」


「なんだ。神域を出たいというなら自分の足でなんとかしろ」


ネルヴィアは眉間に皺を寄せて顔を顰めるが、私は首を振った。


「いえ、そのことではありません。ですが、どう考えてもこの神域を脱出するには時間が掛かります。せめて家族に、弟妹だけには私の無事を伝えてもらえないでしょうか」






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