腐った屍肉
「い、いただきます」
神力の塊を口に入れた瞬間、おぞましい腐敗臭が鼻を突き、全身に鳥肌が立って拒否反応が走る。
続けざま、どろっとした酸味と共に腐敗臭そのままの味が口の中に広がった。
とても咀嚼できる代物じゃない。
なんとか小さくかみ切って、飲み込むようにして処理するしかないわ。
咳き込み、嘔吐きそうになりながらも、クエスト達成と満腹度の回復のため、私は必死に挑戦を続け、どうにか食べきった。
何だか、人として大切な何かを失った気もするけれど、誰も見てないし、たぶん大丈夫よね。
「う、うぉぇ……。くそ、クソS級ハンターどもめ。地上に戻ったら、この神力の塊をあんた達の口に押し込んでやるわ」
呪詛を吐いたその瞬間、お腹を中心に全身へと激痛が走る。
この痛み、間違いなく『毒』だ。
過去の経験から察した私は、慌てて浄化魔法を発動した。
「ざっけんな、どうして痛みが引かないのよ……⁉」
激しい腹痛、冷や汗、震える四肢、がちがちと鳴る歯。
まともに立っていられず、その場に崩れ落ちる。
私はたまらず、ステータスを確認した。
【ミシェル・ラウンデル ステータス一覧】
レベル:10【白ゲージ(経験値)】
振り分けポイント:0
状態:致死毒
体力:1444/1500【緑ゲージ】
魔力:520/5000(2000+3000)【青ゲージ】
スタミナ:1500/1500【黄色ゲージ】
満腹度:20/100%【橙ゲージ】
生命力:G(15)【体力量】
精神力:G(50)【魔力量】
持久力:G(15)【スタミナ】
筋力:G(15)【物理攻撃力】
健康力:G(10)【物理防御力+状態異常耐性】
技量:G(10)【武術全般の成長力率上昇、様々な要素にプラス補正】
敏捷:G(20)【身軽さ、攻撃速度】
知恵:G(11)【魔法攻撃力】
知識:G(10)【魔法防御力】
運:G(10)【幸運に巡りやすくなる】
根性:F(30)【経験値増加、自然回復力上昇。致命的な一撃を受けた際、まれに神の祝福が発動】
「なにこれ……致死、毒……?」
見慣れない表示に目を瞬かせたのも束の間、すぐに意味を理解して顔から血の気が引いた。
「死に至る毒、ですって⁉ ふざけんじゃないわよ」
根性を振り絞って再度浄化魔法を使うが、痛みは一向に収まらない。
このままじゃ本当に死んでしまう。
私は迷わず『カイネ直通念話』を起動した。
「カイネ、お願い。質問に答えて」
『おや、ミシェル。これはまた大変な時に呼び出しましたね。しかし、前にも言いましたが、私は力を貸すことはできません』
冷淡な声色。
でも、それは予想通り。
「わかってる。聞きたいのは『致死毒』についてよ。なんで浄化魔法で治らないの」
『その質問なら回答に問題ありません』
カイネの返答のあと、小さく咳払いが聞こえた。
『致死毒は、文字通り『死に至る毒』です。通常の浄化魔法では毒や猛毒は解除できますが、致死毒は別格。現状のミシェルでは、解毒は不可能です』
「……そう。じゃあ、もういいから石碑の部屋に戻して。どうせ死ぬなら、早く再スタートしたいの」
『残念ですが、それはできません』
「な、なんでよ。死んで戻るのと、今戻るのも、結果は同じでしょう」
『同じではありません。致死毒に苦しみ、耐え、死に至る……それも鍛錬。経験なのです。個人的には助けたいのですが、ネルヴィアが絶対に許可しません。頑張ってください』
「が、頑張れって……何をどう頑張れってのよ」
必死に叫ぶも、カイネはもう応答しない。
くそったれめ。
心の中で毒づきながらも、私はあることを思い出してステータスを再確認する。
【ミシェル・ラウンデル ステータス一覧】
レベル:10【白ゲージ(経験値)】
振り分けポイント:0
状態:致死毒
体力:1249/1500【緑ゲージ】
魔力:577/5000(2000+3000)【青ゲージ】
スタミナ:1500/1500【黄色ゲージ】
満腹度:20/100%【橙ゲージ】
生命力:G(15)【体力量】
精神力:G(50)【魔力量】
持久力:G(15)【スタミナ】
筋力:G(15)【物理攻撃力】
健康力:G(10)【物理防御力+状態異常耐性】
技量:G(10)【武術全般の成長力率上昇、様々な要素にプラス補正】
敏捷:G(20)【身軽さ、攻撃速度】
知恵:G(11)【魔法攻撃力】
知識:G(10)【魔法防御力】
運:G(10)【幸運に巡りやすくなる】
根性:F(30)【経験値増加、自然回復力上昇。致命的な一撃を受けた際、まれに神の祝福が発動】
「……くそ、そうだった」
グミ入りアイスの効果で体力が全回復していたことを、すっかり忘れていた。
地面を拳で殴りつけた瞬間、どこかで聞き耳を立てているであろうネルヴィアに向け、私は怒りを込めて叫んだ。
「ざけんなちくしょう。一思いにやれってのよぉおお」
しかし、返事はやっぱりなかった。
その後、私は体力が尽きるまで、致死毒による激痛に悶え、苦しみ、呻き、地を転げ回った。
やがて意識は遠のき、視界は闇に包まれていく。
『おめでとうございます。ミシェル・ラウンデルは称号【屍肉を喰らった者】を取得しました』
◇
「ん……うん?」
瞼に感じる強い光。
眩しさに目を細め、ゆっくりと上半身を起こす。
呆然としていると、どこからともなくあの独特な笑い声が聞こえてきた。
「おぉ、鉄杖の没落令嬢ミシェル・ラウンデルよ。また死んでしまうとは情けない」
石碑の上。
クソ神ことネルヴィアが、またもや不敵に笑っていた。
「は……。どの口が言ってるのよ」
私は乾いた笑いを漏らし、ジト目でネルヴィアから視線を逸らした。
満腹度ゼロに追い込み、クエストでとどめを刺したのは、あんただろうが。
にやりと笑ったネルヴィアは、ゆっくりと石碑から降りてこちらへ歩み寄ってくる。
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