咲かない雑草の願い
短いです。楽しんで貰えたら嬉しいです。
「痛っ!」
また踏まれた。人間だ。あいつらは無遠慮に無配慮に私たちがこうやって必死に生きてるのに踏みつけてくる嫌いだ。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫!そっちは大丈夫」
「大丈夫、いつものこと。もう慣れたよ」
そうもう慣れた。
「うんしょ、うんしょ」
隣にいる友人はいつものごとく芽を葉を伸ばす。踏まれた後はいつもより一生懸命に。
「ねえ、頑張ろう。そしたらさ…」
続きは聞きたくない。
「私たちも花が咲くかも!どんな花だろう」
友人はいつもこうだ。でも私は知っている。私たちは咲かないただの雑草だということを。
「そうだね。どんな花かな?」
「綺麗だといいな~」
夢見がちな友人と変わらない景色が私の全てだ。今日も変わらない日々が過ぎていく。きっと明日も明後日も。変わらない日々がずっと続いていく。と思ってた。友人が病気になった。
「ゴホッ、ゴホッ、もう私ダメかも」
「元気出して、また春になったら暖かくなるから」
「ゴホッ、ゴホッ、春か~そしたら私たち咲けるかな?」
「うん、春になったらきっと咲けるよ私たち。楽しみだよね、だから…」
「うん、頑張る」
友人は冬になり、寒さが続き弱ってしまった。私たちは咲かない。咲かないけどいいじゃないか、そう言ったって。こんな嘘はありでしょ?
「暖かくなってきたね」
「うん、一時はダメかと思った」
友人はなんとか持ち直した。これぞ雑草魂。私たちは寒さにも人間にも負けない。雑草だから。
「うんしょ、うんしょ、咲くかな~」
「咲くかな~」
ごめんね、咲くわけがないんだ。でもいいよね。こんな嘘なら。
「うんしょ、うんしょ」
今日も友人は負け時と芽と葉を伸ばす。私も友人に釣られて芽を伸ばす。友人と目線が合わなくなるのが嫌だからだ。
「咲け~!!」
咲く訳がない。
「やったー!咲いたー!」
えっ!?隣の友人を見る。桜の花びらが友人の葉に止まり花が咲いていた。
「見て見て咲いた!桜だよ私!」
「うん、綺麗!」
あっ、風が吹き友人のところに止まっていた花びらが私の葉に止まる。
「あっ!咲いた!」
「うん、私も咲いちゃった」
この日のことは忘れない。ほんの細やかな願いが叶った瞬間。友人と共に笑いあった。私たちは咲いたのだと。
カシャッ!
「隆太何撮ってんの?」
「ん?雑草」
「は?なんで雑草?」
「いーじゃん、好きなんだよ。アスファルトの隙間から生える雑草」
「見して」
覗き込んだスマホの画面にはアスファルトの隙間から元気に芽を伸ばす二つの雑草があった。まるで写真を撮られることを喜んでいるかのように笑っているかのように見えた。
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