03
「リーダー、ホントに私なんですか?!」
「そうだ、変更はない」
何度目でしょう、朝食が終わったのに私はまだリーダーに問いかけてしまっています。
しかも、リーダーに宛がわれている部屋で、です。
ちょこちょことリーダーの後をついて回っていた姿は、周りからもドン引きされていたことでしょう。
私も必死なのです。
自分でも、腕には少しばかりの自身はあります。
でも、あまり戦闘経験のない私では力試しも何も、何もできないままボコボコにされるのがオチでしょう。
なので、私は食って掛かります。
痛いのは嫌です、相手をボコすのも嫌です。
そんな私の気持ちを差し置いて、リーダーはお茶を一啜りしながらの応答です。
「そもそもだ、お前修練では物足りんだろ」
「いえ、毎日が地獄です」
「嘘を吐くな。腐ってもマキ式体術の家系だろう。
実際、役職についてはいないがお前の戦闘術は周りより頭一つ抜きんでている」
エリ・マキ、私の本名です。
そしてマキ式体術っていうのは、私のオジジが受け継いだ、異世界より伝来したニンジツ?ハッキョーケン?っていうものが本流の格闘術です。
まぁ、ぶっちゃけると結構ヤバめの格闘術で、急所攻撃とかは当たり前です。
体を効率的に使って、相手を無力化する……か弱い女の子が使っちゃいけないものです。
名前に体術と入ってますが、実は武器を使ったりもします。
一応、小さい頃からやらされていました。
「確かに、マキ式体術の家系で間違いはありませんが」
「お前が心配してるのは、何も『倒されるかも』だけではなく、無為に『相手を殺めてしまわないだろうか』というのもあるのだろう?」
「……」
マキ式体術は、所謂人を殺める術の集合体です。
どれだけ効率的に急所を穿ち、命を奪えるか、といった代物です。
小さい時からやらされていたこともあり、修練中には無意識に技が出ることもあります。
技は体に染みついていますが、しかし、何度も言う様に実践経験がほとんどないのです。
「私、実践経験が…」
「ここに来た時の入団試験で見たお前の姿、未だに脳裏に焼き付いているぞ。
元ガン・エン流格闘術門下生筆頭の大男が組み付きにかかる、その腕をただの一歩で搔い潜り、首側部への掌底一閃による初撃にて勝利。
思い出すだけで、感動で身が震える。
見ろ、このサブイボを!」
バッと出されたリーダーの鍛え抜かれた右腕は、見事にプツプツしていました。
おまけにプルプルしてます、小動物みたいでちょっと可愛いですね。
「しかし、あの相手は…!」
「大丈夫だ、相手にしろお前にしろヤバくなったら死んでも止めにかかる」
袖を直しながら、リーダーは言い放ちます。
そう言い切られてしまっては、私も押し黙るしかありません。
リーダー、結構いい男なんですよね。
そんな人に『お前を守る』的なことを言い切られたら、こう……ねぇ?
「……長い時の流れの中で異世界からの文化流入の影響もあるのだろう、対軍隊規模の戦闘に対して魔法部隊の発展は正直信じられない程だ。
しかし、それは対個人戦に特化した我々も同じこと。華やかで派手な魔法軍発展の水面下で、多量の情報と実験結果による確かな技術発展が見られる。
これから先、我らを取り巻くこの世界、ここにおける格闘術というものの成長、発展は対立と戦乱を持ってより過激になっていくだろう。
そんな中で、素直に、実直に異世界の情報と技を取り入れていた家系、マキ。
お前の中に確実に受け継がれているその技、折角の機会だ。
俺の勝手だが、是非見せて貰う訳にはいかないだろうか?」
「………」
少し間を開けても、私は沈黙で答えました。
何でしょう、ちょっと心に来るものはありますね。
リーダーはリーダーで良かった、みたいな感じでほっとしています。
「伝令! 件の男が現れました! 至急、広場へお越しください!」
「むっ!」
伝令を言付かった人が勢いよく入ってきたと思ったらそんな台詞です。
普通、上司の部屋に入る時は慎重にノックを挟みませんか?
びっくりして少し宙に飛び上がってしまいました。
ともあれ、伝令を聞いて立ち上がったリーダーを追って表へ出てみると、陽は既に私たちの真上に来ていました。