02
おはようございます、エリです。
門番の朝は早いです。
陽が昇るとともに起床です。
できれば太陽が真上に来るまでは寝ていたいところです。
昨日は早めに床に就いたので、身体の方はバッチリですがこれから仕事に行くっていう気分が、ね。
ちなみに、ここは女子寮です。
寮というよりタコ部屋ですね、まだ二段ベッドが大量に置かれてる分男子寮よりもマシですが…。
プライベートなんて無い様なもんですね、最低限人が生活するに困らないものだけ設置されています。
なんて考えているうちに周りも続々と起き始めて、着替えに身支度が始まります。
私もあまりゆっくりはしていられません。
軍ほどではないですが、ここの規律もなかなかのものです。
寝起きの髪をさっと梳かして寝ぐせはお水でちょちょいのちょいと、他の身形も最低限整えて鏡でチェック。
大丈夫そうですね、食堂に向かうとしましょう。
…………………………
食堂には、既に多くの従業員が集まっています。
配膳もいつも通りきっちりと終わっています。
早速、作り置きの冷え固まったパンに温かいスープを吸わせたいのですが、食事の前には朝礼です。
お預けを食らっているみたいで、非常にもどかしいです。
朝礼は、リーダーから今日一日の流れを説明されるところから始まります。
普段であれば、食後に門番と修練を交代で進めて、午後は午前に加えてマーシャルロード敷地内の清掃などが入ります。
もちろん、例外はあります。
門番の仕事はその名の通り門を守るのですが、ここから旅立とうと訪れた新人の力試し(強制)も請け負っています。
なので、一日の業務内容に修練があるのですが、この新人が来た時は例外として予定は未定、全部すっ飛ばして対応します。
他の例外はそうですね……、賊や害獣が現れた時とかですね。
「集まっているな。朝礼を開始する」
リーダーの声がかかると、皆椅子から立ち上がりビシっと直立します。
集団で生活する以上、一糸乱れぬ連携が何より大切です。
先程までは騒がしかったのですが、直立と静寂は同時に実行されました。
「皆、今日も早くからご苦労。今日も一日、門番としての矜持を……」
食事を前にして小難しい話や長い話は、正直気が乗りません。
でも、今のリーダーは前任の時よりはマシだそうです。
前任は話し出すと気持ちよくなって、食事の時間を全部使って挙句の果てには「一食抜いたくらいで不満を溢すな!」という滅茶苦茶が日常茶飯事だったようです。
怖いですね。
仕事は出来なくとも優しい上司がいいですね、お互い助け合って責任は上司だけ…、えぇ、これは甘えです。
「次に、今日の予定だが…」
おや、今日はいつもと口上が違います。
それに気付いた人たちも、少しザワっとしますが、そこはやはり鍛えられた精鋭。
何事もなかったかのように瞬間冷却、だんまりです。
「昨晩、偵察隊より『身元不明の男が一人こちらへ向かっている』と連絡が入った。
男の特徴は大柄で軽装、食料採取用の小型携帯ナイフの所持を確認済み。
ここへの到着は早くとも陽が昇り切る前との予測。
久々の新人か、ただのならず者かは分らんが、本日はこれに対応する。
皆、準備を怠らぬよう気を引き締めろ、以上だ!
では、今日も神の恵みに感謝して朝食を頂くように!」
やった、やりました!
到着が陽が昇り切る午前中であれば、午後の掃除が無しになります。
これはおサボりチャンスですよ!
朝から運がいいですね、これは。
食前の祈りが終わったので、皆各々朝食に手を付け始めています。
私もルンルン気分でパンを千切ってスープに浸しました。
……でも、いつの間にリーダーは私の横に来たのでしょう。
肩を叩かれるまで、全く気が付きませんでした。
「あ、リーダー。おはようございます」
「おはよう、エリ。今日、もしも男が新人であれば、今日の試しはお前だ」
「ぁ゛ぇ…」
しっかり頼むぞ、と一言置いてリーダーは去って行きました。
驚愕のあまり、エッジの効いた声で応答してしまいました。
えっ、私ですか、その男の相手。
武器はあり? 徒手空拳?
なんにもわかんない!
咄嗟の事って、人間ですからやっぱりパニック起こりますよね。
私は浸し過ぎてジュクジュクになったパンを、程良い温度に冷めたスープで胃に流し込んで急いでリーダーの後を追いました。