Paradise⑱
「向こう側に品質の良い薬草がありそうですね」
『うーん……こっち側は毒消し草かな?』
エルと僕は街から少し歩いた草原へと来ていた。
特にこことは決めていなかった。
エルがシステムから繁茂している場所を探ったり、僕は地面に手を重ねては魔力の流れから吹き溜まりを探ってみたり、近付いたら目を凝らしてはシステムの表示を見ては鑑定しているだけだった。
鑑定もスキルとしてある。
普通はなかなか得られないスキルとは言われているけれども、物事を注意深く見る癖や普段から心掛けているとシステムとして熟練度が溜まった扱いで覚えられるのはエルから教わっていた。
エルのステータスを見た時も一通りは得られていたように思える。
もしかしたら、僕と会話を──筆談するなかで共に成長していたのかも知れなかった。
『薬草、毒消し草、気付け草、……色々とあるけれども、このくらいで良いかな?』
「確かに、アイテムボックスの量にも限りはありますからね……。そうなりますと……珍味を探してみますか?」
チラッとエルが少し先の森を目で示す。
『そうだね、少しだけ覗いて行こうか』
エルと目配せしては森の方へと視線を転じる。
「ちょっとだけお待ちを……」
そう言って軽く目を閉じるとエルは周囲のシステムへと介入しているのだろう、周囲の状況を確認し始める。
エルへは改めて先程、安全を確認したのだがエル曰く周囲のデータを読み取ってるだけなので、さほど問題は無いそうだ。
むしろ鑑定スキルが最高のスキルレベルまで到達したのなら似たような事が出来ると思いますと言っていた。
『なら、僕の鑑定スキルとか。魔力の流れを読み取っては吹き溜まりを探すのも似たようなものなのかな?』
「そうですね主様。その認識で良いと思います」
エルがそう言ってはあちらの方にまだ手が入ってない気配がしますと指を森の一部に向ける。
『うん、確かに。僕もそちら側に魔力の流れを感じるからちょうど良いかも』
「行ってみますか?」
『うん、行ってみよう!』
エルと頷いては、そちらへと足を向けて歩いていく。
世界には魔力が流れていてはやっぱり吹き溜まりという、魔力が溜まってしまう部分がある。
エルに聞いたときはシステム上、故意に発生している場合やランダムで流れが変わっている時があるから予期せぬ吹き溜まりもあると思うと言っていた。
ただ、吹き溜まりに関してはシステム上設けてる箇所はちゃんと消化する術があったりで、それが薬草とか貴重な素材へと魔力が流れては生育する場合だったりする。
逆に予期せぬ吹き溜まりの場合はモンスターを魔物化したり、ダンジョンを産み落としとか、それはそれで問題があるらしかった。
そんなこんな考えたり、エルと歩いていると目的にした場所が見えてくる。
「やっと着きましたね……」
『ははは、お疲れ様』
エルは歩き慣れていないのだろう。
途中からバテてしまっては森の木の木陰で小休止をしたりしながら、ゆっくりと一緒に歩いてきていた。
「沢山、生えてますね……!」
『そうだね! あっ! これとか、どうだろう?』
「えっ! えっと……それはまだ主様とは、早いと思います……」
『えっ? ……あっ──』
手頃な場所から立派に生えていてキノコを摘み取ってはエルに見せるとエルは不意に顔を赤らめてはそっぽを向いてしまう。
その反応に疑問を抱いた僕はキノコを目を凝らして鑑定をすると……。
【スタミナキノコ】
精力増強に効果的。
そう、説明文も加えて出てくる。
『えっ! あっ、いや、そういう訳では……』
「えっ? そういう訳でも無いのですか?」
『えっ?』
「エルには魅力が無いと……そういう事ですか?」
『あっ、いや。 そういう訳では無くて、あっ、でも、今じゃないと思うというか、えっ? ちょっと、エルからかってるでしょ?』
「──バレましたか?」
『やめてくれよ、心臓に悪い』
「ふふふ」
途中からエルの様子が面白いものを見ているような目になったので突っ込んでみると案の定だった。
けれども、スタミナキノコは……その、夜の珍味としても貴重で重宝する品物だということだから、しっかりと摘み取っていく。
そうして、珍味とかも摘み取ったらお日様はいつの間にか落ちるように傾いて行っていた。
『そろそろ、帰ろうか』
「そうですね、主様や私のアイテムボックスも沢山になってきました。報酬が楽しみですね」
『そうだね』
エルと一緒に出来高制の報酬に楽しみになりながら、道を戻るように街への帰宅するために歩き始める。
歩いたり、小休止する中で、ふと疑問に思っていた事をエルに聞くことにする。
『ねぇ、エル?』
「なんですか?」
『エルって一体何者なの?』
「そうですね、機械生命体の話は覚えていますか?」
『うん、覚えてる。本当の世界にはナノマシン由来の機械生命体と普通の人間……人類が居て、争いあっては人類はほぼ全滅。機械生命体も機械生命体同士では新たな生を産み出すことが出来なくなったって』
「はい、その認識で間違いは無いと思います」
『それで、話を戻すとエルは……』
「私はそうですね……その、機械生命体が寄り添いあった人類と再びツガイあっては種を存続するために設けられたシエルシステムから生まれた、エラー……バグと言えば良いでしょうか?」
『えっ、なら……エルは存在していない……?』
「い、いえ……そういう訳では無いのです? ……無いと思うのです。この世界でツガイあった人類と機械生命体は新たな命を芽吹いては本来の世界の揺り篭内にて人工的に受精しては、お互いの種が混じりあった生命が生まれているのです。私はその中で今でも命が尽きそうな子へとナノマシン経由でアクセスしては生き延びた感じなのです」
『ん? んーと、そうなると元の子は……』
「私の本来の子は精神的には亡くなっていて、身体の生命活動も終えようとした所に私が精神的に入ったという感じです」
『なるほど……でも、それで僕のところに来た理由は?』
「えっと……それは──秘密です。ただ、私は主様をずっと見ていいました。それで主様が成人して旅立つ日に合わせて、こちらの世界のパスを繋いでは接続して来た感じになります」
そう言って、ニッコリとエルは誤魔化すように微笑んで来る。
それ以上は突っ込む事は野暮にも思えて、話を切り上げる。
それはちょうど良かったのかも知れない。
少し先にはまだ小さくだが、ホッカイドウの街が見えて来ており、街道には馬車や、僕達と同じように帰っている冒険者とかも見掛けるようになったから。
流石に聞かれて良いような話でも無かったから。
そうして、歩いては夕陽が落ちる頃には街に入っては冒険者ギルドの取引所へと今回の成果を納める。
「えっ?! こんなに……それに色々な貴重な珍味まで……え、えっとお待ちください……!!」
量が量だったのか取引所のお姉さんは慌てたように上司を呼ぶための呼び鈴を鳴らしていた。
そして、上司だろう男性も来ては何名かスタッフが来ては清算の為にも裏へと成果品を持っていく。
しばらく、取引所の待合室で待っていたら呼び出しがあっては窓口へと向かう。
「今回はありがとうございました……! こんなに沢山の納品は久しぶりになります……!」
ニコニコと微笑んではお姉さんが感謝を述べてくる。
「えっと、ではギルド証か。手をこちらに……」
『あっ、はい──こうですか?』
「は、はい! こちらが報酬になります。金額はまとめてトワ様で宜しいのですよね?」
『はい』
手のひらに合わせるように窓口のお姉さんが軽く手を向けると振り込み金額が報酬という名目で表示される。
1.2.3.4.5.6桁……。
25万……!!
『えっ、えっと……良いのでしょうか?』
「いえ、見合った報酬ですよ……?」
『あ、ありがとうございます……』
金額的にも成人した人が月に稼ぐような金額だった。
少し震える手で、こちらへと承認ボタンが表示されていたので空いた手でそちらを押すような動作をすると金額が振り込まれてくる。
「依頼達成になります! お疲れ様でした!」
『は、はい。ありがとうございます』
そう言って、頭を下げるとお姉さんもニッコリと微笑んでくれる。
「主様ー? 終わりましたか?」
『あー、うん。凄い報酬貰っちゃたよ』
「おー、これはこれは……ご飯、豪勢にします?」
『しちゃ……おっか?』
「はい!」
嬉しそうにニコニコとエルがこちらを見て笑ってくるものだから、僕も自然と頬が緩んでしまう。
エルは実はこちらへと来て、食事をまともに取るのは初めてだったりする。
エル曰く、元のエラーバグの時は物を口にするという認識は薄く。
更に先程の赤子に精神をデータを移した後は揺り篭内では生命維持として供給されている栄養を摂っているだけだったという。
この世界の食事は精密で緻密なデータが脳内にて処理される事によって味の奥深さや刺激を促していると言っていた。
そう、言われると普段から食べている物に関しては懐疑的になってしまうけれども。
揺り篭という存在も見たことも無い、僕には知識はあれど実際は目の前の食べ物が真実だったりする。
それを示すように、エルも道中摘み取った果実を口に含んだ時は目をキラキラさせては2口、3口と黙々と口に運んでいたので……そういうことなのだろう。
「あっ! 私、石畳を登っていく所にあったカフェとか洋食屋さんが気になります!」
エルが目をキラキラとさせては進言してくる。
『確かに……! そうだね! ちょっと、宿へと戻りながら良い店を探してみようか?』
「はい……!」
そうして、僕達は隣り合って歩いては石畳の坂道を冒険者ギルドから歩いては目指す。
うん、お腹減ったな……!
お腹の虫も少しだけ鳴ったように思える。
少しだけ周りをキョロキョロと見ているエルを危ないからと手を繋いでは、お互いに少しだけ照れあいながらも僕達はご飯屋さんを目指すのだった。