Paradise⑯
『うーん……うーん──うーん……?』
フニョン……と寝返りを打った時に何か手の中に収まったような気配を感じる。
寝返りを打つのは身体の姿勢を調整するためだったかな?
それとも寝苦しくてだったっけ?
えっと……?
フニョン……フニョン……。
手をワシワシと動かすと確かに包み込むような柔らかいような……。
『──えっ?!』
バッと掛け毛布を上げると身体を起こした僕の隣に女の子が眠っていた。
なんだ、寝苦しかったのは女の子のせいか……。
良かった、良かっ……。
いや、何も良くない!!
『えっと、君……? おーい……、部屋間違え……』
いや、部屋を間違える事なんて無い。
だって、部屋は鍵をしているし、その鍵はマスターキーは経営しているノーラとかが持っているとしても、無断で渡すとは思えない。
なら、この子は──?
「ふぁ……、あっ……主。おはようございます?」
『主……?』
自分でもすっ頓狂な声をあげたのは気付いてしまったが、致し方ないと思う。
主なんて、言われる覚えも無いし、この子とは初対面だ。
『えっと、君は誰? どこから来たの? 部屋間違えてないかな?』
「私は……ん? 名前……。 どこから? また会いましょうって言ったはず。 部屋はここは主様のお部屋であっているはず?」
ピンと来ない返事だったけれども、1つ気になる点があった。
『また会いましょうって、何? えっと、僕と君は初対面だよね?』
「え……? 私と主様はいつも話していましたよ? 忘れちゃったのですか?」
『えっ……?』
段々と自分の中で予感が生まれてはパズルが組上がるように確信に変わっていくのが怖かった……。
『もしかして、君は……僕の本?』
「本? 今は人ですよ?」
今は……?
なら、前は……?
いや、それを言うほど、僕は野暮では無かった。
ただ、そっと自分のステータスを確認する。
【─✕✕エルの書─】
エルの書……?
文字化けの伏せ字が少しだけ読み取れるようになっていた。
良く見れば……彼女には名前が良く見ると浮かんで来た。
『エル……?』
「エル? それが主様が私に名付けてくれる名前ですか?」
『えっ、いや、実は文字化けしていて……』
「ん……少々お待ちを……確かに、私は不完全みたいですね。無理に世界に干渉した影響でしょうか?」
エルは首を捻っては思案顔になるが──。
「とりあえず、この伏せ字の感じはこの世界では変な誤解を与えるかも知れませんね。えっと、こんな感じにしておきましょう」
そう言い終わるとエルは少しだけ得意顔で僕を見てくる。
改めてステータスを見てみると。
【─エルの書─】
サポート妖精。
そう書かれていた。
『サポート妖精なの?』
「ち、違いますよ?! 体よくする為の誤魔化しです! ほら、良く見てください」
そう言われて、目を凝らすように見てみると。
僕にだけ分かるようにカモフラージュが取れては
【─✕✕エルの書─】
元の表記に戻っていた。
「どうでしょうか?」
褒めて褒めてと言わんばかりの得意顔で見てくるので、頭を撫でようと手を伸ばして見るとエルの視線が僕の手に止まっては胸元を押さえる。
『えっ?』
「そ、そう言うのは……その、まだ早いと思います。主様……」
『い、いや。頭を撫でようとしただけだよ?!』
「そ、そうですか……。で、では……どうぞ」
急に恥らうように胸元を隠したエルに弁明をすると……多少恥ずかしさを隠すように時間は経ったがそっと頭をこちらに出して来たので頭を撫でる。
フワフワの髪だった。
『えっと、ちなみに本には戻れ……。いや、本の時は取り出し出来たけれども……』
「えっ? 本の方が良いのですか? それに私は居ない方が良いのですか……?」
『あっ、いや、そんなわけで言った訳では……』
「い、いえ。少しだけ、からかっただけです。もう、本には戻れないし、私は身体を得てしまったので出し入れは出来ませんよ?」
自分をからかっただけらしいエルはそう言い終える。
『そ、そっか……』
ちょっとだけ困ったなと思う。
でも、とりあえずその問題は朝に回そうと思う。
だって、実は物凄く眠かったから……。
朝からの移動で結構疲れていたのだった。
床で寝ようとする僕に、エルは機嫌を悪くするので、結局は一人用のベットに2人が入る形になってしまった。
多少の寝苦しさはあれど、先程みたいに寝返りを打っての過ちが無いように注意しながら僕は眠りに落ちて行くのだった。
そして、朝に問題を回そうと思った僕の考えは甘かったのはノンに起こされて、ノーラに注意される時に反省するのだった。
途中でエルとのバタバタがあっては、疲労困憊の僕が朝の朝食サービスに起きれるはずが無かったのだ。
気を利かせてはマスターキーで何度も声を掛けては開けてくれたノンを驚かせては、その驚きの声にノーラが来ては僕は注意されるのだった。
僕は2人分の長期滞在の費用を改めてノーラに払っては、改めて、オススメの良い部屋をノンの案内のもとに紹介されてはそこに泊まることになるのだった。
ただ、最初のオススメの案内はベッドが別々になっており、それを何故かエルがごねてしまい。
結局は偶然空いていたダブルベッドの部屋をオススメされては泊まるようになるのだった。
ただ──。
『お金……稼がないとな』
僕はポロリと言葉をこぼしてしまっていた。
「トワさん、お仕事無いのです?」
それを聞いたノンがお客様が食べ終えては空いてきた食堂の中で僕に話しかけてくる。
『うーん、ちょっとだけ心許なくてね。 冒険者ギルドにも行ってみたかったから、そこで稼ごうかな?』
手っ取り早く稼げるのも冒険者ギルドの良い部分でもあった。
「ごめんなさい主様、エルのせいで……」
『いや、エルのせいじゃないよ。どのみち稼ごうと思っていたんだ。僕はアオモリに向けて船に乗りたいから』
そう言うと、ナビは僕をじっと見てくる。
「本当にトウキョウを目指すのですか?」
『うん、行きたいからね』
「……分かりました」
それ以上はエルから話し掛けられてくることは無かった。
ただ──。
「トワさん、これ街中の地図です。大雑把ですが、サービスでどうぞ!」
自分の話を聞いては取りに行っていたであろう、ノンがパタパタとこちらへ来てはホッカイドウのmapをくれる。
『ここに冒険者ギルドがあるんだね』
「はい! 後はここは商業ギルド、ここは鍛冶ギルドが多くて、ここはホッカイドウを纏める領主様のお屋敷があって……こことかは赤レンガ倉庫になっていて観光地としても有名ですね! お風呂は出て直ぐの石畳の坂を昇ると見えてきます!」
商売逞しいノンに笑顔を貰いながら、mapを眺める。
とりあえず、冒険者ギルドに行ってみようと決めてから僕は目の前に残っている朝食を食べていく。
目の前を見ればエルは既に食べ終えていては僕の食べる姿を飽きもしないで見ていた。
『何かおかしいかな?』
「いいえ、何もおかしくないです主様。ただエルは主様を見ているだけで満たされていくのです」
告白みたいに幾分か恥ずかしいセリフを吐かれたのだけれども、僕の心の気持ちは暖かいものがあった。
『とりあえず、これを食べたら行こうか?』
「はい主様……!」
そうして、僕達はご飯を食べ終えては冒険者ギルドへと進路を定めては2人で歩いて行くのだった。