Paradise⑮
「通してよし!」
「ようこそ、ホッカイドウへ!」
「次の人ー! 証明になる物を提示お願いします!」
「はーい! この人いいよー!!」
ガヤガヤ、ガヤガヤ……。
夕陽が落ちては暗くなる頃合いだったが、ホッカイドウの街への入り口は人混みが出来ていた。
他の所はコンクリート状の壁がぐるりと覆われているように出来ている為に、こうやって一般人として来た人はここの衛兵の入り口から街へは入るしか術はない。
いや、一応は商人ギルド、鍛冶ギルド、冒険者ギルド等の専用の入り口も用意はされているし、スムーズに街に出入り出来るようには整えられているが、僕は所詮は余所者であって、始めて訪れる旅人なのだ。
時間が掛かるのも、ステータスを開いては相手に見えるようにしては確認して貰っては犯罪歴が無いかを見ているからだったりする。
殺人やら犯罪を冒すとステータスにカラーといって識別の色が反映されるようだから、それが一般的な判断の基準らしい。
僕は何もしていないので透明だ。
ちなみにギルド等での入り口とかは、ギルドから発行される身分証があり、それでのパスはその所属するギルドが身の保証を請け負っているというのもある。
「はい、次の方ー!」
「初めてかな?」
『あっ、はい。初めてのホッカイドウの街になります』
「そっか、そっか……ステータスの表示頼めるかな?」
『こうですかね……?』
「ん、ありがとう。カラーは……大丈夫だな。他も──よし! この人は大丈夫だ!」
『ありがとうございます』
「宿をお探しなら、少し大変だが石畳の坂を昇ると洋風? といっているけれども、良い宿があるからオススメだよ!」
『あっ、はい! 行ってみます!』
「では、良い旅を~」
軽く手を振り返してはニコニコとこちらを見送ってくれた衛兵さんに別れの挨拶を済ませる。
広大な大地の影響か、人柄はおおらかで心が広いとも本からは聞いた覚えがあるな……と思い出しつつ、通りを歩いていれば先程の衛兵さんが教えてくれた石畳の坂を見つける。
その坂を登るように進むと、道すがらカフェなど老舗の洋食屋さんも見えてくる。
窓ガラスから向こうの食事風景はカップルやら子供連れの家族とか、仲良さそうに食事している風景が見える。
あの、……黄色い包まれてるのはオムライスだろうか?
教会に来る方から聞いた覚えがある。
トロトロで美味しそうだと思えば、お腹も鳴るのと口の中にヨダレが出てきているのも自覚する。
『うん、急ごう』
自分のお腹の虫をこれ以上鳴らせない為にも坂を一歩一歩登っていく。
登る度に陽が完全に落ちて行っているのか、街灯の明かりが目に見えて輝いて見えてくる。
そして、店内からの明かりと混じれば……1枚の絵にもなりそうな素敵な光景が登って来た道を振り返ると見えていた。
『綺麗だ……』
この景色を心に留めるように考えながらも、足を改めて動かしていく。
通りの風景も宿場街になって来たのか、お店の文字や看板──そして、まだお客が空きがあるのか呼び込みをしている宿もあった。
「どうですかー? お安くしておきますよー! サービスも充実しておりますー! 後、そうですね……長期滞在のお客様には更に割引などのサービスもお付けしますよー!」
どれにしようかと悩んでいると、まだ小さい子供の女の子の声が聞こえてくる。
そちらの方に気になり目を向けると、大きく手を振っては客を呼び込みしている女の子が目に見えた。
「あっ……! 旅の方ですか! どうですか! 満足出来ますよ!」
そして、僕と目があったその子は僕へとこれでもかと宿の良さをアピールしては身振り手振り頑張って呼び込みをしてくれている。
『お名前は何て言うのかな?』
「私ですか? 私はノンと言います!」
『そっか、なら長期滞在とかのお話は聞いても良いかな?』
「あっ……は、はい! ちょっと、お待ちを──! おかぁさーーん!! おとうさぁーん!!」
自分の長期滞在の話に目を輝かせたノンはパタパタと駆け出しては宿の中に戻っては両親を大きな声で呼んでいた。
そして、その後はノンと一緒に家族で経営しているらしく母親も一緒に来ては長期滞在の相談をする。
「ふふふ、ならオマケしないとね。滞在費も少しお安くするね! ほら、中にお入り! これがオススメのお部屋の鍵だよ! ご飯は食べたかい?」
ノンのお母さんノーラは嬉しそうに相談に乗ってくれては宿代を負けてくれる。
オマケは朝食のサービスを付けてくれた。
身体を洗う際は桶を用意するとも聞いたが、もう少し登ればホッカイドウの名所でもある温泉街があるから、そこがオススメだと教えてくれた。
そして、部屋に関しては空きがある為、良い部屋を選んでくれたようだった。
ご飯の質問に関しては僕が答える前にお腹の虫が答えてしまっていた。
「ノン? お父さんに夜ごはんのお願いしてきて!」
「はーい!」
ノーラの声にノンは即座にニコニコと反応しはパタパタと厨房まで駆け出して行く。
「お父さーん! お客様のご飯準備お願ーい!」
そして、ノンの元気な声が厨房からここまで聞こえてくる。
ちょっとだけ、気恥ずかしくもあって頬をポリポリと掻いてしまったが、とりあえず宿の鍵を持って旅袋を置きに行く。
貴重品等はアイテムボックスに入れながら、食堂に降りるとノンがせっせと夜ごはんをテーブルの上に持ってきてくれていた。
『ありがとう』
「いえ! どうぞ! お父さんの料理はホッカイドウ1だよ!」
ノンが笑顔で僕に話してる後ろではお父さんだろう、嬉しそうにニコニコとこちらを見てきたので僕が会釈すると向こうも頭を下げてくれる。
『いただきます』
そう言って、口にごはんを運ぶとどれも味が美味しく、どんどんテーブルの上のお皿はまっ皿になっていく。
『ご馳走さまでした』
「いーえ! 美味しかった?」
『うん、本当に美味しかったよ』
「良かった!」
本当に嬉しそうにノンは笑っては食器を下げていく。
「トワさん、お湯の用意がお部屋に運んでおきました。本日はもうゆっくりなさいますか?」
『うん、そうさせて貰うよ』
ノーラが僕が食事をしている間に盆にお湯を張ったものを部屋に運んでくれていたようだった。
お礼を言っては部屋に戻っては今日の疲れをお湯で絞ったタオルで汚れと一緒に取っていく。
髪は少しだけすすぐだけになる。
タイミングを見ては温泉街に行こうと楽しみが増えるのだった。
人によっては魔法でお湯とか身体を綺麗にすることも出来るらしいから、気になる所でもある。
けれども、今日は身体を拭き終わったら眠気が気持ち良く訪れて来ていた。
盆はタオルを綺麗に折り畳んでは廊下に出しておく。
そして、僕はアイテムボックスから寝間着を取り出しては着る。
来ていた洋服も同じく廊下に出しておく。
サービスの中に洗濯もあったからお願いする形だ。
そして、部屋の灯りを消す。
これは魔法の起動のスイッチがあるのでoffにすると中に補充されていた魔力との供給が切られて灯りが落ちる仕組みだった。
そして、部屋は窓から覗く外の月明かりと街の明かりが入って来るのみになった。
『さて、寝ようかな』
宿場街は洋風の建物が多かった。
例に漏れずここも洋風な建築で、部屋の中はお布団ではなくベッドだった。
身体を横にすると、フワフワと気持ちいい。
自然と落ちてくる目蓋に僕は逆らわずに眠りに落ちて行くのだった。