Paradise⑪
「では、地理的にここはホッカイドウというエリアになります。えっと地図ではこちらですね。ニホンという国の一部エリアになります。ホッカイドウの街はこちらで、うちの教会はここですね」
シスターがそうやって、説明をしてくれている。
黒板というものを商業ギルドのお兄さんから購入してはシスターはチョークというのを使って、黒板に文字や図形を描いては説明してくれている。
そう、ここはホッカイドウというエリアらしい。
ニホンという国の北に位置する街。
それが説明してくれていた。
「一応、漁業と農産物が盛んな街として有名ね。まぁ、うちに居るとなかなか分からないかも知れないけれども……」
シスターが少しだけ口をゴニョゴニョと誤魔化しては説明してくれている。
「うーん、俺は別にここが好きだから良いかな」
隣の良き友人も大きく成長していた。
僕たちも既に15歳を目前にしていた。
成長期? というのが過ぎた身体は大きく健康的に育っていた。
それは僕もなのだろうけれども、昔は振り回されていた剣も今は剣の重さに振り回されることも無くなっている。
「ふふふ、ありがとう」
シスターはその返事が嬉しかったのだろう。
微笑んではそう応えてくれていた。
「けれども、皆もそろそろ15歳。世界では成人という括りになります。そして、うちの教会からも希望する子はこのままだけれども旅立ちの時でもあります」
シスターが微笑んだ顔を引き締めてはそう発言する。
そう、僕たちは後少しで15歳。
旅立ちの時は近付いていた。
そして、僕の夢でもある世界を見てみたいというのは今も昔も変わっていなかった。
いや、少しだけ変わったことはある。
本の存在だ。
あの本は本当にあの時……6歳の頃に出会ってから今までずっと会話というのをしていた。
そして、会話される度に埋まっていくページはそろそろ最終ページにも差し掛かっていた。
すべて? とは違うかも知れないけれども。
疑問は少しは解消されていた。
だから、僕から見える世界は少しだけ……そう、本当に些細だけれども少しだけ変わっていた。
「な? トワはどうするんだ?」
そう、僕から見える世界は隣の良き友人の頭上には【機械生命体】と表示されていた。
「トワ君は──旅立ちの希望ですものね」
微笑んでくるシスターの頭上には【人】と表示される。
意識すると見えるようになったそれも本から学んだ事だった。
僕には未だに難しいけれども。
機械生命体はナノマシンから構成される人類らしい。
人は本来の人類らしい。
大きな違いも僕には分からなかった。
けれども、本曰く本当の世界ではそれが大きな隔たりを両者に作っては遂に人が住める世界は……人は失われてしまったらしい。
いや、正確にいえば人の種は何とかそれでも機械生命体に寄り添う人たちも居て──この世界へと接続されたらしい。
ただ、機械生命体は機械生命体のみでは繁殖が出来ない世界にもなってしまったらしい。
それが文明が進んだ先の悲劇と言っていた。
だから、機械生命体も──この世界へと接続してはツガイを作っては新たな生命が今も産まれているらしい。
そうやって、世界は……偽りの世界で循環されていると本は教えてくれていた。
そして、その揺り篭も長くは無いこと。
けれども──運営者、システムのマザーは何故か今も継続してシステムを動かしていること。
今は新たな人類、昔はいち早く滅ぼされてしまったらしいが人と機械生命体の融合個体が多いこと。
だから、その表記も【人】であることから。
もしかしたら、僕はその新たな人類の人なのもか知れなかった。
僕のステータスにも【人】と書かれていたから。
本もその可能性は高いと言っていた。
何でも知ってるんじゃないの? と聞いたら黙ってしまったが、あれは今思えば意地悪な質問をしてしまったと思う。
けれども、それが僕の居る世界の真実らしいけれども。
15年間生きている僕にはどこか想像も出来ない縁遠い世界に思えた。
だって、僕からしたらこの世界こそが、自分の見える世界だったから。
けれども、少し前の魔法の括りではないけれども……視野を狭めてしまう恐ろしさは既に知っているから、僕はそう言うのもあると理解と消化はしては過ごしている。
そして、僕は願わくはそのマザーとやらに会ってみたいとも思っている。
別に世界をどうこうしたいという訳ではない。
本からの情報を得て気になってしまったからだった。
各国に運営システムのマザーは居るらしい。
ニホンという国にはトウキョウという街に……居るらしい。
そして、どうやらシエル教会のニホン支部の偉い人だと、マザーだと思うと本は教えてくれた。
シエル教っていうのは、僕がお世話にもなっている。
この教会の……いや、世界に唯一存在する宗教? というものだ。
シエル教会の由来を本に聞いたら、本来の世界を形作った神だと言うらしい。
そして、シエルシステムという。
このシステムを組み上げては世界を去っていった存在だという。
システム名からも名前を借りていると教えてくれた。
「おーい? シエルー?」
『あぁ、ごめんごめん』
「全く、シエルは成人前までものんびりしてるんだな」
良き友人はそうやって自分を笑ってみてくる。
やっぱり機械生命体も人も変わらないと思う。
でも、考えるのはいつだって出来るだろう。
『うーん、ごめん。えっと次は……』
「もう夜まで自由時間だよ! 本当にトワは抜けてるなー」
カラカラと気持ち良い感じに良き友人に笑われては僕の生活は成人を迎える旅立ちの日まで穏やかに進むのだった。