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居場所

 アーブルは、フェリクスの変化について、詳しくは追及せず、門扉の倒壊に巻き込まれた者たちの救助に向かった。

 それが、彼なりの気遣いなのだろうと、フェリクスは悟った。

 負傷したグスタフを抱え、地下施設内へ戻ったフェリクスを、泣きそうな顔のセレスティアが迎えた。


「フェリクス、傷は、大丈夫なのですか?」


「俺は、問題ない。グスタフを診てやってくれ」


 フェリクスが言うと、セレスティアは安堵した表情を見せた。 


「こちらに来てください。怪我をした方たちの、治療の準備ができています」


 セレスティアに、フェリクスは地下施設内の一室へ案内された。

 室内は比較的広く、一度に数人の負傷者が運ばれても対応できそうだ。

 医師や医療従事者らしき、白衣を着た者たちも、数人待機していた。

 医療用の寝台に寝かされたグスタフの腹部の傷に、セレスティアが手をかざす。

 淡く発光するセレスティアの手の下で、傷は見る間に塞がっていった。


「これは……凄いですね。帝都の医療機関には、似た能力を持つ『異能(いのう)』が集められているところもありますが、これだけの傷だと、普通は能力者が数人がかりだったり、もっと時間をかけないと治癒できないものですよ」


 医師の一人が、感嘆した様子で言った。 


「……ここは?」


 薄らと目を開けたグスタフが、かすれた声で呟いた。


「本部の、地下施設の中だ」


 フェリクスが言うと、グスタフは自身の状態を確かめるように、傷のあった辺りに手で触れた。


「傷が……塞がって……?」


 起き上がろうとする彼女を、セレスティアが制止した。


「傷は塞がっていますけど、出血が多かったので、しばらくは無理に動かないほうがいいと思います」


「そうか、君が……ありがとう」


 グスタフが素直に礼を言うと、セレスティアは、少し頬を染めて微笑んだ。 

 やがて、外から運ばれてきた負傷者たちで、室内は埋まった。

 しかし、彼らも、セレスティアの治癒能力により命を取り留めた。

 死者が出なかったのは、不幸中の幸いだろう。

 セレスティアが負傷者の手当てをしている間に、フェリクスは自室で、血に塗れ、ぼろぼろになった衣服を着替えた。

 部屋の壁に掛けられた鏡を何度見ても、白くなった髪と赤い瞳が元に戻ることはなく、自身の見慣れぬ姿に、フェリクスは溜息をついた。

 着替えを終え、フェリクスが部屋を出ようとした時、扉を叩く音が聞こえた。

 扉を開けた彼の前にいたのは、セレスティアとアーブルだった。


「負傷者たちの手当は、済んだのか」


 二人を部屋に招き入れ、フェリクスは問いかけた。


「はい。怪我の程度が酷い方もいらっしゃいましたが、今は、落ち着いています」


「姫様の(ちから)を欲しがる連中が沢山いるのも分かるよなぁ」


 普段と変わらぬ二人の態度に、フェリクスは改めて安堵したものの、やはり、彼らには本当のことを話しておくべきだと思い、口を開いた。


「指令室で映像を見ていたのなら分かると思うが……俺は、『人間』ではない。自分でも、知ったのは、ついさっきというところだが」


「どういうことなんだ?」


 アーブルが、淡々とした口調で言った。


 ――セレスティアとアーブルも、動揺していない訳がない……だが、それを態度に出せば、俺が傷つくと思って、平静を装っているのだろう。


 そう考えたフェリクスは、胸の奥に、きりきりと絞られるような痛みを感じた。


「俺は、『智の女神』によって設計され、人間の手で作り出された『人工生命体』――『不死身の人造兵士』だ。事故によって、帝立研究所から空間転移装置で遠くの村まで運ばれ、そこで保護されて……俺は、当然のように自分も『人間』だと思っていた。しかし……」


 言葉に詰まったフェリクスの手を、セレスティアが、優しく握りしめた。


「それで、私たちが、あなたを(うと)んじると思っているのですか?」


「俺は、人間でもマレビトでもない……君たちから見れば、四肢を斬り落とされても再生し、得体のしれない(ちから)を持つ『化け物』だ……恐れられたり気味悪がられたりしても仕方がない……」


 フェリクスの言葉が終わるか終わらないかのうちに、アーブルが、彼の鼻先を指で()まんだ。


「ふざけんな!」


「……そ、それ、痛い……」


 想定外の事態に目を白黒させているフェリクスと、若干だが怒りを見せるアーブルを、セレスティアが驚いて見上げた。


「俺が、どう思うかとか、勝手に決めるんじゃねぇよ! そりゃ、見た目が変わっちまったのには驚いたけどさ、中身が何も変わってないことくらい、()ぐに分かったよ。だからさ、あんたが何者かなんて、俺にとっては、何でも同じなんだよ」


 一息に言うと、アーブルはフェリクスの鼻から手を離して、手の甲で両目をこすった。


「アーブル……目から汗が出たのか?」


「そういうところ、やっぱり変わってないじゃないか」


 泣き笑いの表情を浮かべるアーブルに釣られて、フェリクスも自身の口元が(ほころ)ぶのを感じた。


「アーブルの言う通りですよ」


 セレスティアも、その大きな目を(うる)ませながら、頷いた。


「万が一、このことで、あなたを悪く言う人がいたなら、私は、その方を許しません」



「そんな奴がいたら、俺が全員ぶっ飛ばしてやるよ」


 そう言って微笑む二人を見ながら、フェリクスは、自分が何を恐れていたのかが分かった気がした。


 ――自分が「人工生命体」であることで、どこにも居場所がなくなるのではないか……俺は、それが怖かった。だが、そんなことはなかった……この「居場所」を守るのが、俺の存在意義だ――

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