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変貌

 身体の内側から引き裂かれるかのような激痛と、このまま焼き尽くされるのではないかと思える程の灼熱感から、フェリクスは、不意に解放された。

 依然として、全身に軽い熱感は残っているものの、苦痛はなく、むしろ爽快ですらあった。

 気付けば、斬り落とされた筈の左腕が、何事もなかったかのように復元している。

 胸部から腹部にかけて刻まれていた深い傷も、跡形もなく消えていた。

 立ち上がったフェリクスの姿を、最後の一人である黒ずくめの男が、驚愕の表情を浮かべて見つめる。

 フェリクスは、グスタフも深手を負っていたことを思い出し、ちらりと背後を振り返った。

 血溜まりの中に(うずくま)っているグスタフは、まだ意識を保っていた。彼女は驚きに目を見開いて、フェリクスを見返した。


 ――セレスティアの治癒能力であれば、グスタフを助けられるだろう。だが、その為には、この戦闘を早く終わらせなければ……


 フェリクスが黒ずくめの男のほうに向き直るのと同時に、相手は閃光の(ごと)く斬りかかってきた。

 常人であれば、何が起きているのかさえ知覚できないうちに両断されているであろう一撃。

 だが、フェリクスは、打ち込まれた光剣(こうけん)(やいば)を、その右手で受け止めた。

 金属製の重厚な門扉でさえ紙のように切り刻む威力を持つ光剣(こうけん)を、素手で受け止めるなどという相手と、どう戦えばいいというのか――黒ずくめの男の顔が、一瞬ではあるが恐怖に歪んだ。


「……まだ、やるのか。お前は、もう、俺には勝てないが」


 フェリクスは、手で光剣(こうけん)を受け止めたまま、黒ずくめの男に問いかけた。


「『智の女神』様のご命令は、全てに優先する」


 そう言った黒ずくめの男の顏から、表情が消える。

 飛び退(すさ)って、一旦距離をとった黒ずくめの男が、再び攻撃の態勢に入った。

 間髪を入れずに繰り出される、黒ずくめの男の剣は、それまでに彼が見せた技の頂点を極めていた。

 だが、フェリクスは一歩だに動くこともなく、ただ右手を相手に向かって差し出した。

 今の自分に何ができるのか――彼は、何故か理解していた。

 フェリクスは(てのひら)に、精神を集中させた。

 すると、そこに、眩い輝きを放つ光球が出現する。

 凄まじい熱を(はら)んだ光球は、瞬く間に膨張し、飛び込んできた黒ずくめの男を飲み込んだ。

 閃光の中、黒ずくめの男の身体は、蒸発するかのように消滅した。

 その様を見ながら、フェリクスは、黒ずくめの男たち――「不死身の人造兵士」たちに対して、淡い憐憫の情を抱いた。


 ――彼らも、俺のように「人格調整」など受けないままであれば、或いは、自らの意思で生きることもできたかもしれない……


 そして、生命を、個人の精神を(もてあそ)ぶかのような「智の女神」を許すわけにはいかない、と、フェリクスは怒りを新たにした。

 周囲を見回したフェリクスは、公安警察の者たちの姿が見えないのに気付いた。

 どうやら、彼らは「対策を練る」為に「撤退」したのだろう。

 フェリクスは振り向くと、地面に(うずくま)っているグスタフの(そば)(かが)みこんだ。

 彼は、自身が来ていた上着を引き裂いて帯状にしてから、グスタフの腹部にある傷を覆うように巻き付けた。


「今、セレスティアのところに連れて行くから、もう少し我慢してくれ」


 言って、フェリクスは、血塗れのグスタフを横抱きにすると、立ち上がった。


「……フェリクス、なのか?」


 フェリクスの腕の中で、グスタフが彼の顏を不思議そうに見上げ、震える手で、その頬に触れた。


「そうだが?」


 首を傾げるフェリクスを見て、グスタフは安心したように頷くと、目を閉じた。

 ふと、フェリクスは違和感を覚えた。

 破壊された門扉の向こう、日が沈み、夕闇に覆われかけた街には明かりが灯りつつある。

 しかし、いつも夜間は照明で照らし出されている筈の皇宮や、「智の女神」の中枢部があるという半球状の建物周辺は、暗いままだ。

 何か起きたのかもしれない、と思ったものの、グスタフの手当てを急ぐ必要があると判断したフェリクスは、地下への出入り口に向かった。

 と、彼は、組織の構成員たちが、地下から出てくるのに行き会った。

 彼らは、門扉の倒壊に巻き込まれた者たちの救助に向かうところだった。

 しかし、すれ違う構成員たちが、フェリクスの姿を目にする度に、何故か、ぎくりとした様子を見せるのに、彼は気付いた。


 ――やはり、さっきの戦闘で使った「(ちから)」の所為だろうか。怖がられても仕方ないかもしれない……


 そのような中、声をかけてきたのは、アーブルだった。


「俺も、怪我人を地下に収容するのを手伝おうと思ってさ。姫様は地下で待ってるから、早く行ってやりなよ」


 普段と同じ態度で話しかけてくるアーブルの姿に、フェリクスは安堵した。


「……でも……どうしたんだ? その恰好……っていうか、全体的に、色が抜けちまってるっていうか……」


 急に歯切れの悪くなったアーブルの言葉を聞いて、フェリクスは、丁度、(そば)にあった硝子(ガラス)の窓を見た。

 そこにあったのは、栗色だった筈の髪が白くなり、緑色だと思っていた瞳が深紅に染まっている、自身の姿だった。

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