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約束

「グスタフ!」


「急所は外れている……僕も『異能(いのう)』だ……この程度なら、まだ動ける……」


 思わず叫んだフェリクスに、グスタフは浅い呼吸の中で答えたが、次の瞬間、地面に片膝をついた。

 その機を逃す訳もなく、黒ずくめの男たちがグスタフに光剣(こうけん)を向けた。

 日が沈み、夜の闇が迫る中、白い(やいば)が閃いた。


 「――フェリクス、やめろ――――!!」


 敵の(やいば)と自分の間に飛び込んできたフェリクスを見て、グスタフが悲痛な叫びをあげる。

 フェリクスは、相手の攻撃を避けようともせず――いや、避ける余裕などなかった――ひたすらに光剣(こうけん)を振るった。

 光の軌跡と共に、切り刻まれた二人分の手足や胴体が、どさりと地面に落ち、塵と化した。

 一瞬のうちに無数の斬撃を繰り出す、グスタフの技を真似た攻撃だった。

 しかし、その代償は小さなものではなかった。

 フェリクスが盾の代わりにした左腕は肘から先を失い、それでも(なお)、斬りつけられた胴体には深い傷が刻まれている。

 腕を犠牲にして何とか急所は外したものの、内臓に重大な損傷が生じているのは確実だった。

 急激に血液を失い、力の入らない身体を、フェリクスは気力のみで立たせていた。

 それよりも、転がっていた自らの左腕が、黒ずくめの男たちの亡骸(なきがら)と同じく塵と化すのを見て、やはり自分は「人間」ではないのだと、フェリクスは暗澹たる気持ちになった。


「僕のことなど放っておけば良かったんだ……なのに……」


 うずくまっているグスタフが、弱々しく呟いた。


 ――たしかに、彼女を犠牲にした上で敵への攻撃に集中すれば、ここまでの深手を負うこともなかったかもしれない。だが、そんな選択肢は、思いつきさえしなかった……


 フェリクスの中に、不思議と後悔はなかった。

 やがて立っていられなくなり、がくりと両膝を地面についたフェリクスは、口の中に溜まった血液を吐き出しながら、それでも何かできることがないか、必死に考えた。

 かろうじてフェリクスの剣から免れた最後の一人は、飛び退(すさ)り、体勢を立て直している。


『……フェリクス!』


 その時、フェリクスが耳に装着していた通信機から、半ば悲鳴のようなセレスティアの声が聞こえた。


『今、行きますから……!』


『駄目だ!』


『アーブル、放してください! あのままでは、フェリクスたちが……!』


 どうやら、地上に出ようとしているセレスティアを、アーブルが止めているらしい。


『姫様が捕まったら、フェリクスたちのやったことが無駄になっちまうんだぞ!』


『でも……!』


 二人が涙声で言い合うのを聞いたフェリクスは、彼らとの約束――死なないように気を付ける――を思い出した。  


 ――このまま帰らなかったら、二人を悲しませることになるのか……それは嫌だ……!


 再び立ち上がろうとしたフェリクスは、突然、身体の中心に灼熱感と鋭い痛みを覚えた。

 それは、傷の痛みなど問題にならない程の凄まじいものだった。

 まるで、身体が内側から引き裂かれていくような――――

 (こら)えきれずに、フェリクスは呻いた。

 呻きは、叫びに変わり、咆哮と化していく。

 猛火に包まれるかの如き灼熱感に全身を苛まれ、フェリクスの意識は遠ざかっていった。

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